平成22年度 鹿児島大学FD報告書
21/40

共通教育における学習実態・学習成果に関する調査「鹿児島大学共通教育における学習実態・学習成果に関する調査」に関する実施報告杉本 和弘 本調査は、鹿児島大学ファカルティ・ディベロップメント委員会の平成22年度FD活動重点経費によるプロジェクトの一つとして実施された。本学ではこれまで学生生活委員会によって「学生生活実態調査」が数年に1度程度実施されており、学生の学習活動を含む学生生活全般について広範に調査を行ってきた。それに対して、本調査は共通教育段階における学習のプロセスやその成果を明らかにすることに焦点化したものとして設計され、調査対象は本学2年生後期とした。以下、実施初年度の取組状況について報告する。1.調査実施の背景と目的(1)我が国における学生調査の状況 近年、我が国の大学の現場では、機関内部の質保証メカニズムを整備し、各機関の文脈に即した改善・改革を進める必要性が急速に高まっている。1991年に大学設置基準が大綱化され、その後の自己点検・評価の努力義務化や義務化を経て、2004年からは認証評価の制度化が行われた。2011年から機関別認証評価が第二サイクルに入るなか、各認証評価機関の評価は内部質保証に焦点化されるようになっている。 そうした文脈において現在、インスティチューショナル・リサーチ(Institutional Research: IR=機関調査)への関心が高まりを見せている。そもそもIRは、1960年代米国の大学でその萌芽がみられ、教務や財務に関わる多様なデータを収集・分析・報告して教育改善を含む大学経営における意思決定を支援することを目的に、特に1990年代以降に発展・高度化してきた経緯がある。日本の大学も、認証評価や国立大学法人評価への対応を背景に、2000年代半ば以降、そうした内的な調査研究機能の整備を必要としてきた。 とりわけFDの義務化や学士力・3つのポリシーの策定等による大学教育改革が求められ、学習成果測定への関心が高まるなか、教育活動におけるIRが大きな注目を集めるようになっている。そのための一つのアプローチが、学生の学習行動や学習成果を明らかにしようとする学生調査である。学生たちが、正課外活動を含む大学教育を通していかに学び、成長していっているのか。この問いは、大学教育の提供を担う教職員にとって避けて通れない課題である。授業評価アンケートはほとんどの大学で実施されるようになっているが、そうした科目レベルの取組みでは明らかにできない組織的な教育活動の成果に学生調査は迫ろうとする。 学生調査の実施形態の一つは、全国共通の質問項目で行うものである。先行する米国ではUCLAの実施するCIRP(Cooperative Institutional Research Program)やインディアナ大学のNSSE(National Survey of Student Engagement)などが知られるが、日本でも調査研究も含めていくつかの試みがなされている。例えば、東京大学 大学経営・政策研究センターが行った4万8千人に及ぶ大規模学生調査(2007年実施。2009年に追跡調査実施)、京都大学高等教育研究開発推進センターと電通育英会が行う『大学生のキャリア意識調査』(2007年~、インターネット調査)、同志社大学が行う日本版CIRPであるJCIRPなどがある。こうした大規模調査の利点の一つは、複数機関が参加することで、共通項目に基づく相互評価が可能となり、自機関の相対的位置を明らかにできることである。また、機関レベルでこうした調査実施に十分な労力をかけることのできない小規模機関にとっては利便性が高い。 他方で、各機関レベルで独自に学生調査を設計して実施する試みも次第に増えつつある。例えば島根大学教育開発センターは、自大学の学生の学習行動や学習成果を把握し得る調査を開発し、その結果を自らのFD活動等に反映させる取組を進めている。こうした機関独自の学生調査は各機関の文脈に即した調査が可能となるという利点がある一方、先の複数機関による調査のように他機関とのベンチマーキング(比較分析)ができないという課題は残る。19

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です