鹿児島大学FD報告書平成31年度
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18鹿児島大学FD報告書3.話題提供講師:畑野 快氏 (大阪府立大学 高等教育推進機構 高等教育開発センター 准教授) 勤務大学においてFDの推進や教学IRに取り組んでいる畑野氏からは、内部質保証の重層性に関する説明の後、大阪府立大学での取り組み事例が紹介された。 内部質保証とは、大学自らが行う教育や研究、組織運営等の状況を継続的に点検・評価し、その質を保証するとともに、さらなる改善や向上に取り組むことを指す。独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構による認証評価の基準においても、第3サイクルでは重点項目として明確に位置づけられている。 この内部質保証には、マクロレベル・ミドルレベル・ミクロレベルという3つの層がある。マクロレベルとは機関、つまり大学全体を、ミドルレベルとは学位プログラム、つまり本学でいえば学部・学科を、そして、ミクロレベルとは個々の教員が担当する授業を指す。それぞれのレベルにおいてその質が保証されなければ、全体としての質も保証できない。 大阪府立大学では、目指す学修成果を「自律的な判断基準を形成し他者の意見を尊重しつつ自分の責任で判断と行動ができ、また、卒業後も生涯にわたって学び成長できる学生を養成する」と定めている。これを目指した教育の成果を、主にGPAや学生調査とeポートフォリオを用いて評価している。前者は大学組織や教員を支援するものとして、後者は学生の学びを支援するものとして用いられている。 実際のGPAの活用事例としては、GPAは1年生から3年生にかけて大きな変化はないという事実が明らかにされたことを受け、初年次教育の重要性が認識された事例が紹介された。この問題に対して大阪府立大学では、高校までの受動的な学ぶ態度(知識の獲得)から大学での能動的な学び(知識の応用)への転換を図ることを目的として、「初年次ゼミナール」を初年次前期に全学必修科目として導入した。本学において平成28年度に導入された「初年次セミナー」にも同様の背景があり、昨今の大学教育を取り巻く状況の一端が示されたといえる。なお、「初年次ゼミナール」を巡っては各クラスの質のばらつきが課題となっているなどの指摘があり、本学の「初年次セミナー」と共通の課題を抱えていることが示唆された。 また、学生調査結果の活用については、本学も加盟する大学IRコンソーシアム・アンケートの結果から、英語の運用能力に対する伸びを実感している学生が、他の様々な能力の中でも突出して少ないことが明らかにされたことを受けて改善が図られたというものがある。この課題に対して大阪府立大学では、3年次以降の専門科目等で必要なアカデミックな英語運用能力強化を目的として、初年次に4科目、2年次に2科目の全学必修科目を、それ以前の40名から25名へとクラスサイズを縮小したうえで導入した。本学においても英語運用能力を巡っては、上級生が自身の能力の伸びを充分認識できていないという課題があり、今後の改善を検討する上で重要な示唆を得たといえる。 さらに、初年次から4年次までの能力獲得感を巡っては、初期値となる初年次10月段階で既に上位・中位・下位という3つの層に大きく分かれており、なおかつその差は卒業時まで続く傾向が示されたという。下位層については、4年次に至っても将来の見通しがない学生の比率が他の層と比べて極端に高く、このような学生に対するケアとこのような状況に至らせないための対応が大きな課題となっているとのことである。本学においてこのような傾向がみられるかどうかは定かでないが、同様の状況にある可能性も充分に考えられることから、今後の改善を検討していくための参考としていきたい。

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