鹿児島大学FD報告書平成31年度
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33事例報告②:山口大学共同獣医学部の取り組み講師:佐藤 晃一 氏(山口大学 共同獣医学部 学部長) 山口大学と鹿児島大学にはそもそも学風の違いがある。それは、両大学の検証からも明らかであるほか、学章や公式キャラクターにも表れている。 獣医学に関していえば、地政学的な影響も大きい。広島と福岡という大都市間に位置する山口大学においては、二次診療に特化した伴侶動物に対する高度獣医療や人獣共通感染症に対応するための公衆衛生に対するニーズが強い。これに対し、畜産基地である鹿児島においては、産業動物臨床や家畜衛生に関する獣医学部への期待が大きい。同一の専門性に基づいて共同学部を運営している場合でも、それぞれの置かれた状況にどう配慮し、強みをどう活かしていくかは考えておかなければならない。 山口大学共同獣医学部では、大都市に挟まれた立地を踏まえて西日本の伴侶動物診療拠点としての役割を果たしている。また、大学院を中心とした研究に力を入れると同時に、ASEANを中心とした海外連携も積極的に進めている。また、地域のニーズに応じたバランスの取れた獣医学教育にも取り組んでいる。現在は、動物福祉に配慮した教育体制の構築に力を入れており、学生が主体的に課外での取り組みを進める例もみられる。欧州認証の関係もあり、現在は学生が学部教育に関する会議にも参加しており、そうした関わりが、学生が自ら受ける教育をより良いものにすることやより高い成果を目指した自主的な活動を促す効果を発揮しているものと考えている。 現在の共同獣医学部が抱える課題としては、そもそもの理念の統一が困難であることや大学の方針と共同学部の方針との不一致などがまず挙げられる。大学が異なる以上、全ての理念や方針の統一は不可能であり、どの程度で折り合いをつけるかが難しい。また、学生の移動にしても遠隔講義システムの維持にしても多額の予算が必要である。既に8年が経過した共同獣医学部においては遠隔講義システムの更新の必要性に迫られており、これにどう対応していくかは喫緊の課題である。さらにいえば、根本的な課題として、何を目的として共同教育とするかがある。JointなのかShareなのか、目的は一つではない。目的に応じて必要な対応も生じる課題も異なるであろう。 獣医学の分野においては海外でも共同教育課程設置に関して同様の状況があり、共同獣医学部の取り組みは国内においても重要なモデルケースとなると考えている。予算的・人的に厳しい状況の中で質の高い教育を実現するには教員のマンパワーは必須であり、共同教育課程において受け入れられるところと受け入れられないところとの折り合いを付けていく必要がある。最終的には両者が話し合い、理解し合う努力の積み重ねが最も重要だといえる。 教員養成に関しては教職課程認定を受ける必要があり、全体の収容定員と取得可能な免許に応じて必要とされる合計専任教員数が算定される。このことから、最低限必要な教員数は比較的明確にしやすい。しかし、最低限の人数では他大学への転出など予想できない教員の退職が生じた場合に対応できない。必要な教員の不在は、最悪の場合、関連する教員免許が出せなくなる恐れがあり、このような学生が不利益を被る事態は大学として避けなければならない。このような事態を回避するにはある程度余裕のある教員配置が必要であり、こうした観点からも共同教育学部を一つの教育課程として専任教員数を算定する共同教育学部は意義が認められる。 この取り組みは本年4月からのものであり、まだ不明な部分も多い。遠隔授業の実施については、事前に教員が十分機器の使い方を理解したうえでそれを前提とした授業設計を行っておく必要がある。また、両大学合同ゼミやフィールドワーク等、検討中の取り組みも多い。教員の専門性を活かしつつ、学生同士の交流を強めることで、学生の学びを一層進化させたい。

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