令和4年度鹿児島大学FD報告書
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17とは今後の何にどう繋がるのか、どう活かされるものかを必ずしも理解できていないことが指摘された。こうした学生の実態を踏まえ、講義を受けた実習においては、適切なカルテ記載ができるようになることをゴールとして示し、それができるようになるためには実習において何をしなければならないかを考え、行動を促しているとのことであった。カルテへの適切な記載を行うには、何を書かなければならないか、自分が理解しておくべきこととは何かといった診療の根幹に対する十分な理解が不可欠である。そのため、適切なカルテ記載ができるようになることを明確な目標として示すことにより、努力の適切な方向性が示されることになるのである。カルテ記載というと他分野に転用できない限定的な話のように思われるが、ある文章表現が適切にできるようになることが、その前提となる知識やスキルの定着度を示すものであるというのは、例えば卒業論文作成等にも一定適度共通性を有するものである。また、作成する文章の様式や内容の要点、評価の観点をあらかじめ示すことによって学生を適切な方向への努力を促すというのは、ルーブリックの提示とも共通している。いずれも分野を超えて当てはまるものであり、教育活動にとって非常に重要な指摘であった。 続いて坂尾氏からは、専門性とは研究の基礎であるとの視点に立った取り組みについて報告があった。担当の授業においてはこの視点に立ち、知識そのものではなく、調べたり考えたり、原理を把握する習慣や感覚を身につけることを重視しているとのことであった。試験を持ち込み可としているのもこうした方針の一環と位置付けられている。質問項目の多い試験に即座に対応できるよう、学習内容を的確に振り返ることができるようノートをまとめる過程そのものが学習の深化につながる。そして、そのノートはその授業終了後も使い続けられる財産となる。ここでもやはり書く活動の意義・重要性が示されている。 そして、過去の学生の失敗例をその後の教育改善に活かすことの重要性についても指摘があった。学生は、時として教員の想像を超えた失敗をするが、それを単なる失敗として終わらせるのではなく、それを講義における資料や説明の追加につながることで、失敗が繰り返されることを未然に防ぐだけでなく、講義全体の改善にもつながる。 研究の方法論は分野によって異なるため、講義の一部に実験を取り入れる等はできない場合も少なくない。しかし、いかに学生の理解を促すか、理解を定着させるかという点に真摯に向き合い、授業改善に活かすというのは、どの教員も取り組むべきものといえる。また、自身の担当授業だけでなく、それ以前に受講した講義の学習事項や、同時期に学習している他の講義内容にも目を配り、そのつながりを意識させることについても、教員がより重視して取り組むことが必要である。 また、いわゆる座学の講義であっても、できるだけ実際に現物を触らせ、可能な実験はその場でして見せることによって講義内容の理解と他の講義で得た知識とつなぐことを促すことを意識しているとのことであった。実験については、映像を見せながら説明することは可能であり、その方が容易だが、実際にやって見せること、器具などを触らせることで学生の理解度が明らかに変わるという。こうした進め方は、「講義だけではなかなか学生の中に定着しない学習内容」をいかに定着させるか、という問題への対応として、1つの可能性を示しているといえる。

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