令和5年度 鹿児島大学 FD報告書
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13う。それが、コロナ禍に入り、他大学における体育に関する遠隔授業の話題を耳にする中でその在り方に疑問を持つようになり、自身の遠隔授業設計に積極的に取り組むようになった経緯は、専門分野を問わず非常に興味深いものであった。 具体的な取り組みに関する内容で特に印象深かった点は2つあり、1つは学生の試技に関する動画の位置付けの変化である。体育教育において学生の試技を撮影することはこれまでにもあったものの、その動画を学生と共有して指導に活かすということはあまり行われていなかったという。遠隔授業に取り組むという経験を通じて、教員と学生との動画の共有が一般的な教育・学習活動として位置づいたことは、教育・学習成果向上にとっても非常に意義あることであったと考えられる。 もう1つは、学生によるコメントの変化である。これまで学生に小レポート等を課すと学生と教員のみのやり取りになりがちであり、manabaで学生同士が相互閲覧可としていても、なかなか他の学生のコメントを見るという行動は実現しなかった。それが、1週間など一定の期間を設けて他の学生の内容も見られるチャットへの投稿を求めることにより、学生は先に書かれた意見を見て量や内容を調整するようになり、紙ベースの頃より質的にも量的にも向上が見られたという。 いずれの変化についても当初から予測していたわけではないものの、対面授業を再開しても活かせる知見として貴重であるといえる。 続く菅野先生は、ツール活用は得意ではないとしていた中島先生とは異なり、むしろもっと積極的に使われると良いものが多々あると考えていたという。それでも、授業の録画等は初めての経験であり、情報セキュリティへの配慮などを踏まえてツールを選択したとのことであった。 菅野先生の場合、コロナ禍以前から有していたスキルや習慣を遠隔授業への取り組みに積極的に活かしている点が印象的であった。例えば、以前から積極的にサイトを作っていたことを動画共有に活かし、作成したサイトで学生と動画を共有し、現在でも予習として、あるいは演習に取り組むに当たって困った際の視聴を可能にしているとのことであった。統計など具体的な方法を説明する内容については、わからない学生が常に視聴できる環境を整えておくことは非常に有意義であるという。 また、今後の発展的な展開として、高大連携への動画の活用について提案があった。ある程度普遍性を持つような、高校から要望の多い出前授業のテーマなどについては動画を作成しておき、そのリストを高校に提供するといった形を採るといった形が考えられる。高大連携の発展は本学に限らず我が国の大学において非常に重要な課題であり、この提案によって本学の高大連携活動の改善・発展が進むことを願う。 最後に、現在も個人で担当する授業は全てオンデマンド配信で実施しているという宮田先生から、教材作成上の工夫や学生との双方向性の担保についての説明があった。 特に双方向性の担保については、100人を超える授業であっても学生のレポートには必ずコメントを返すという。また、そのコメントも400字を超える場合もあるなどかなり長めであり、教員からのコメントが長くなると、学生も多く書くようになるという。中島先生からは学生が他の学生の記述の長さを見て自身の分量を調整するとの話があったが、教員との間でも同様の行動調整が行われることがわかった。 少人数ではないクラスで全ての学生にコメントを返すこと、それもそれなりの分量のコメントとすることについては、宮田先生が「苦行」と呼ばれた通りで容易でも楽なことでもない。しかし、そのようなやり取りによって学生の学びが支えられる側面は必ずある。学生との双方向性の担保は、この後のパネル・ディスカッションでも話題となったが、教員が話した内容に対して学生に何かを書いて提出させればそれで十分というわけではないことを忘れてはならない。もちろん、教員の負荷については考えなければならないが、学生の学びを支えるためのコミュニケーションをどのように行うかは、授業設計上非常に大きな検討課題といえる。

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