鹿児島県の養殖業を取り巻く新しいトレンド~環境認証~

私たちが暮らす鹿児島県は、魚類の養殖業が盛んな地域であり、養殖業は地域の経済を支える産業として重要な意味を持っています。特に養殖ブリに関しては国内のみならず、グローバル市場の開拓も進められており、水産物に対する国際的な需要の高まりも相まって、輸出量は年々増加する傾向にあります。
2015年に国連サミットで採択されたSDGs(*1)により、近年、地球環境の持続可能性に対する消費者や企業の関心が世界的に高まっています。すなわち、資源や環境にやさしい漁業や養殖業の実現と、それによって生産された水産物が、市場で求められるようになってきたのです。
このようなグローバルトレンドは、日本の、そして鹿児島県の養殖業においても他人事ではありません。国内外の市場へ養殖魚を供給する際に、養殖業者には、生産活動が資源や環境に悪い影響を与えていないことの証明、すなわち環境認証の取得が求められる機会が増えてきました。こうした環境認証は、欧米諸国で生まれた仕組みであるため、近年では、欧米諸国に養殖魚を販売する際に、取引先のスーパーや飲食店が、環境認証を取得している養殖業者の商品を進んで購入するといった動きが見られるようになりました。
鹿児島県の養殖業が環境認証を取得する際に直面する課題とは?

最近では、国内外の小売店等の調達基準(*3)の中で、環境認証を取得している養殖業者との取引を優先的に行うといった方針が明記され始めていることから、世界各国の養殖業者が環境認証の取得を進めている状態です。
しかし、日本国内、そして鹿児島県内の養殖業においては、環境認証を取得する養殖業者の数が伸び悩んでいます。なぜ、日本国内の養殖業では環境認証の取得が進んでいないのでしょうか?また、すでに環境認証を取得している国内の養殖業者においては、取得する際にどのような課題があり、それをどのように克服することができたのでしょうか?そして、環境認証を取得することで、取引顧客の数や、養殖魚の値段にはどのような影響があったのでしょうか?
私の研究では、国内有数の養殖魚の産地である鹿児島県の養殖業の現場を訪問し、インタビューや見学を行うことで、こうした疑問への答えを見つけていきます。そして、これから環境認証を取得しようとしている日本国内の養殖業者に、有益な情報を提供することや、グローバルスタンダードになりつつある環境認証の取得が進むことで、鹿児島県、そして日本の養殖業の発展に貢献することを目指しています。
用語解説
SDGs:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)。2030年までに世界が取り組むべき17個の課題が示されています。
ASC:Aquaculture Stewardship Council(水産養殖管理協議会)。養殖業を対象とした国際的な環境認証団体であり、認証を受けた商品には、緑のASCラベルが貼られる。
調達基準:商品等の仕入れ先を決める際に基準とするポリシー。最近では、2020年東京五輪の選手村で使用する水産物の調達基準に、環境認証の取得が明記され、話題になりました。