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【鹿児島大学の遠隔授業シリーズ】新型コロナウィルス感染症対策のジレンマ

 

 伊藤です。

 

 来年度の授業計画を考えなければならない時期が来ている中、どの授業を対面で行い、どの授業を遠隔で行うかの選別が必要になっています。もちろん、全て対面、あるいは全て遠隔という選択肢もないわけではありません。しかし、まだ治療薬のない新型コロナウィルス感染症対策という観点からして、全ての授業をとにかく対面で実施するというのはあまり現実的ではないでしょう。かといって、全てを遠隔授業でというのも望ましいとはいえません。

 

 大学は、こうした状況の中で、非常に大きなジレンマに直面しています。「#大学生の日常も大切だ」が話題になったのは、少し前の話になるでしょうか。小学生、中学生、高校生は学校に通って授業を受けることができています。にもかかわらず、自分たちはなぜキャンパスに行くこともできず、友だちをつくることもできないのかという大学生自身からの率直な疑問、不安がその背景にあったと思います。本学で実施した「遠隔授業に関するアンケート」の結果においても、特に1年生から同様の声が上がりました。

 

 大学は決して大学生の日常がどうでも良いと考えているわけではありません。しかし、大学生は、小中高生と比べて格段に行動範囲が広く、友だち同士で飲食を共にする機会も多いです。担任教諭がホームルームの時間などに注意喚起ができる小中高とは異なり、大学生にはそうした場がないのが一般的です。上級生になれば研究室に配属されるため、指導教員との関係が強くなりますが、下級生の場合、担任がいたとしても小中高のように毎日顔を合わせるわけではありません。行動の基準が自分自身の判断に委ねられる度合いは格段に高くなります。部活動やサークル活動はまだしも、どこでどのようなアルバイトをしているかまで把握するのは不可能であり、学生の行動を大学が制御するには相当な無理があります。そのような事情もあり、学生を感染させず、また感染を広げさせずに済ませるにはどうしたらよいかを考えた末の1つの結論として、遠隔授業の実施率が高くなっているのだと考えられます。

 

 大学生に、これまでであれば当たり前だった日常をできるだけ送ってほしいと考えて本学が実施した1つの方法がスクーリング期間の設定でした。12月に予定していたスクーリング期間は本学学生のクラスター発生を受けて延期となりましたが、12月10日より改めて実施する予定です。

 

 こうした試みを積み重ねつつ、来年度はどうするかを考えているところですが、そこではまた別のジレンマを抱えています。

 

 この場合のジレンマとは、授業の方法と感染リスクの間にあるものです。教員が教壇から話をし、学生は基本的に聴くだけという一斉講義型の授業であれば感染リスクは低いかもしれません。しかし、教員の話を聴くだけで学生間の交流の機会もない授業を対面で実施する意義はどれほどあるのでしょうか。一方、少人数クラスで学生同士がディスカッションをしながら学習を進めていく「初年次セミナー」のような授業の場合、遠隔でも可能ではあるものの、授業の前後の時間も含めてやはり対面の方が、学生間の交流は活発になります。しかし、話し合う機会を多くすることは、感染リスクを高めることにつながります。学生同士が交流する機会を設ければ感染リスクが上がり、かといってそうした機会がないとなれば対面で行う必要性は果たしてあるといえるのか、というジレンマです。

 

 私たちはこうしたジレンマを抱えたまま、しばらくは新型コロナウィルス感染症と共存せざるを得ないでしょう。本学でも、授業の意義や受講した学生に身に付けてもらいたい学習成果としての諸能力への配慮と、新型コロナウィルス感染症対策とを共存させるべく、来年度に向けた議論を急いでいるところです。

 

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