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専任教員ブログ

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コロナ禍と大学教育(2)

 

 高等教育研究開発センターの出口です。

 

 以前(2020年夏)に、「コロナ禍と大学教育」というコラムをブログに書きました。その時点では、漠然と「さすがに年が明ければコロナの収束の目処も立っているだろう」と考えていました。しかし、現在も世界は変わらず新型コロナ・ウイルスの深刻な影響下(コロナ禍)にあります。

 

 結局、2020年度の我が国の大学教育は、その大部分においてオンラインで行われることとなりました。勿論、鹿児島大学においても同様です。特に1年生は、大学に入学した途端にオンラインで授業を受けることとなり、いまだに従来では当たり前であったキャンパス・ライフがほとんど経験できていない状況です。

 

 さて、以前のコラムで「コロナ禍が過ぎ去った後(ポスト・コロナ)でも、コロナ禍において展開されたオンラインでの学びの趨勢は消えない」と書きました。物理的な制約、すなわち地理的な意味での場所の問題や教室等のキャパシティーの問題は、オンラインではほとんど考慮する必要はありません。このメリットは、ポスト・コロナであっても活用されていく、ということです。

 

 アメリカ合衆国のサンフランシスコに本部を置くミネルヴァ大学をご存じでしょうか。2014年に設立された非常に新しい大学です。「ミネルヴァ」とはローマ神話における知恵の女神であり、欧米の高等教育機関では紋章などのモチーフとされることが多い神様です。

 

 この大学は全寮制の4年制総合大学ですが、特定のキャンパスを保有していないことが大きな特徴です。授業は全てオンラインで行われます。学生は4年間で世界7都市(サンフランシスコ、ソウル、ハイデラバード、ベルリン、ブエノスアイレス、ロンドン、台北)に移り住み、それぞれの都市において学生寮で共同生活を行いながら、都市ごとに設定された学びに取り組みます。その都市の最新の研究施設や芸術施設、図書館などを活用したり、また現地の企業や行政機関等との協働プロジェクトやインターンシップを経験したり、学生は実践的で主体的な学びを展開しています。

 

 したがって、教室で先生が教壇に立ち、学生はみな教壇に向いて正対する、というような従来型の対面講義は、ミネルヴァ大学においては実施されていません。大学は学生がそのような授業を受けることを想定していないし、学生もそのような授業を期待していないでしょう。このことは、大学教育や学生の学びの大きなパラダイム転換といえます。

 

 しかし、それだけではありません。ミネルヴァ大学は同時に、大学教員の業務内容やスキルに関するパラダイム展開をも誘発させたのです。教室で従来型の講義を行う能力だけでは、ミネルヴァ大学の教員は務まりません。学生は比較的少人数のセミナーに自発的に参加し、滞在地ごとに設定されたテーマに協働して取り組みます。自ら調査し、自ら考え、自ら一定の成果にたどり着きます。このプロセスこそがミネルヴァ大学での学びであり、教員はこのプロセスに、ある時はアドヴァイザーとして、ある時はメンターとして、ある時はサポーターとして関与していくこととなります。そのような能力がミネルヴァ大学の教員には求められているのです。

 

 ポスト・コロナにおいて、世の中の大学がみなミネルヴァ大学のようになるとは思いません。しかし、オンラインでの学びのメリットを活用する趨勢は続きます。そうであるならば、従来型の大学教員の業務内容やスキルだけでは、ポスト・コロナにおける大学教育は充分には担えない、ということになります。学生以上に、新しい時代への対応が求められているのは教員であるといえるでしょう。

 

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