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専任教員ブログ

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筑波大学の人文系3学類統合方針(?)

 伊藤です。

 標記の件について、内部の教員・学生から懸念や批判の声が出ていますね。この方針そのものが報道されたのは先週でしたが、「すべきなの?」「できるの?」「していいの?」といろいろ疑問が浮かんでいたところでした。その一方、あまりにも先月出された中央教育審議会の内容と被りすぎていて、現在の中央教育審議会大学分科会の部会長と筑波大学学長は同一人物なので方向性を自身が所属する大学に反映しやすいといえばそうなのでしょうが、それはどうなのだろうとも感じています。

 答申の中では確かに学士・修士5年一貫教育の大幅拡充(特に人文・社会科学系)という記述があります。しかし、そもそもこの部分について、本当に必要なのか、実現可能なのかという点で疑問が残ります。とても単純な話として、今は6年かけて行っている教育を5年にせざるを得ません。そうしながら質を保つことは現実的に可能なのでしょうか。それが即座にできるのだとすれば、それ以前の教育に根本的な問題があるということであり、まずその点を解決すべきだと思います。同じ答申の中で内部質保証の重要性についても言及がなされているわけですし。

 もちろん、「4年生になると就活だのインターンシップだので学生は全然授業なんて受けに来ない」という指摘は以前からあります。だからといって、6年かけているところを5年にしても問題ないということに即なるわけではありません。学業と就活との両立に根本的な問題があるのだとすれば、そこを触ることなく5年一貫教育に移行すれば、修士2年はほとんど大学に来ないという話になるだけではないでしょうか。

 そして、日本社会の状況として、人文系の修士に対する評価の問題があります。社会から人文系の修士は求められているのでしょうか。学士ではなく修士にふさわしい業務や職場が新たに生み出されているのでしょうか。
 答申に目を通した段階で、この部分の内容はちょっと浮いている印象がありました。授業料収入を少しでも増やしたい、増やさなければ予算確保上とてもしんどい状況にある大学が、授業料収入を増やすための方策なのかという穿った見方もしました。学士課程の進学率は5060%の間で推移しているものの、特に人文・社会科学系の大学院進学率は、どちらも10%にも満たない状況です。これを5年一貫教育にすれば否応なく修士課程に進学することになるため、大学からすれば、これまでであれば学士課程同様の授業料収入を得られる機会が1年増えることになります。それは、ほんの数%の修士課程の大学院生が支払う授業料より多いでしょう。
 社会のニーズは生み出すものだという考え方もあると思います。先んじて高学歴化を進めるという方向性ですね。ですがそれは、いわゆる大学院重点化政策の失敗としか言えない状況が生じた前例があります。今回の5年一貫教育という話が二番煎じにならないといえる根拠はどこにあるのでしょうか。

 報道によれば、この方針の決定に至るプロセスに対する懸念や疑問、憤りもかなり示されているようです。学問に対する誠実性が問われる大学での意思決定をめぐり、このような事態が生じていることについては残念でなりません。時に劇薬ともいえるような「改革」が必要となることもあるかもしれません。それでも、どれだけしんどい闘いだとしても合意形成のプロセスを踏む覚悟が必要なのではないかと考えています。

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