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専任教員ブログ

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大学とお金の話

 伊藤です。

 熊本大学が2026年度に赤字転落の恐れというニュースが先週ごろから報道されています。学費値上げはせず、寄付を募って対応するとのことですが、他人事とは思えません。なぜなら、赤字転落の主な要因がインフレ、特に水道光熱費と人件費高騰により、この数年で億単位の支出増となっているためとの報道に基づけば、これは熊本大学固有の問題ではなく、本学でもどの大学でも同じ状況だからです。

 大学はそもそも営利目的の組織ではありません。そのため、儲けるような仕組みになっていません。また、近年は予算のうちで「競争的資金」と呼ばれるものの占める比率が高まっています。しかし、競争的資金の多くは研究目的です。だとしたら、大学はインフレにどう対処したらよいのでしょうか。
 水道光熱費高騰に対して、学生が使えるスペースを制限したり、冷暖房の利用を制限したりすることが現実的に生じているのでしょうが、これは学生側には何の責任もない中での教育環境の悪化でしかありません。人件費の高騰を受けて教員数を減らせば、学生が受けられる専門分野の幅は狭めざるを得ません。これも教育環境の悪化を意味するのではないでしょうか。大学自身に責任があるわけでないインフレへの対応を、設ける仕組みではない大学が、学生の教育環境も悪化させず、学費も上げずに対応する方法があるのなら、誰か教えてほしいです。

 そんな中、理系学部・学科の新設・転換に対する予算的支援についての報道もありますね。そこにこの金額を費やすのなら、既存の理系学部の予算を追加してほしいと思うのは誤りなのでしょうか。
 新たな学部・学科の設置が悪と思っているわけではありません。しかし、例えばデータサイエンス分野の場合、大学レベルの教育・研究能力を持った人は限られます。いきなり湧いて出てくるものでもありません。人を育てるには時間がかかります。
 全国各地でほぼ同じタイミングで学部新設を図り、教員を集めなければならないとなったら、集めるべき教員は一体どこから掘り出してくるのでしょうか。既存の学部で教えている教員を引き抜けば、既存の学部のレベルが下がるでしょう。引き抜けないとしたら、新設学部の教員の質は果たして担保できるのでしょうか。こんなことを考えると、既存学部も新設学部も同レベルの教育・研究を保証できるものなのかという点に疑問を持たざるを得ません。

 大学の予算をめぐる状況には、率直にいって何の希望も持てません。上がる可能性も見出せないし、総額として上がらないとしても使いやすくなる、とかいったことでさえ、明るい見通しを感じることができません。国の高等教育機関としてこれでいいのか、国の高等教育機関がこんな状況でいいのか、大学で働く身としても、いずれ大学に行くかもしれない子を持つ親としても、気が重くなるばかりです。

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