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【理工学研究科】大隅の川に不思議な"たこさんウィンナー"現る

[記事掲載日:22.08.17]

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 大学院理工学研究科の上野 大輔准教授、塔筋 弘章准教授らの研究チームは、大隅半島の河川中上流域に生息する淡水産カニ類、モクズガニやミカゲサワガニに共生する珍しい扁形動物、截頭類(せっとうるい)の1種を発見、報告しました。本種は、東南アジアに分布する種に近縁な別種とみられ、新種である可能性が高く、標準和名はヤマタロウヤドリツノムシと命名されました。詳しい生態については、今後調査される予定です。本成果は英国の専門誌「Journal of Helminthology」のオンライン版にて、2022年8月1日付けで発表されました。


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肝属郡肝付町を流れる河川上流部から発見、報告されたヤマタロウヤドリツノムシ
体長約2 mmの成体 (左)

大隅半島固有種のミカゲサワガニに多数の個体が付着する様子(右)


■研究体制、経緯

 研究は、上野 大輔准教授、塔筋准教授、金子 卓磨氏(当時:同・修士課程学生、現:佐世保市立相浦中学校・教諭)、宮崎 亘氏(いおワールドかごしま水族館)、上野 浩子氏(かごしま環境未来館)によるチームによって進められました。
 宮崎氏は、2000年にミカゲサワガニをかごしま水族館で展示するため採集を試みた際、体表に付着し歩き回る本種を発見しました。ミカゲサワガニは河川上流部に生息する大隅半島固有種です。様々な人に意見を聞くも具体的な情報が集まらない中、当時琉球大学で研究員をしていた上野 大輔准教授らと、2012年から共同研究を開始しました。大隅半島各地において本種を採集、分布状況の調査と分類学的研究を行い、本種はモクズガニとも共生することがわかってきました。その後、肝属郡肝付町と垂水市 (本学農学部附属高隈演習林)の3河川で2017-2021年に採集された標本(モクズガニとミカゲサワガニの体表に共生、体長1~5 mm程度)を基に、上野 大輔准教授、金子氏、上野 浩子氏が形態の観察と分類研究を、塔筋准教授がDNA実験、解析を担当しました。電子顕微鏡を用いた形態観察は、特に当時修士課程学生であった金子氏が行いました。宮崎氏が本種を最初に発見してから本成果が出るまでに22年、金子氏が修士研究として取り組み始めてから4年以上を要したことになります。


■研究の成果、意義

 研究の結果、本種は扁形動物の截頭類(せっとうるい)、ヤドリイツツノムシ科ヤドリイツツノムシ属の種で、東南アジアに分布する近縁種と極めてよく似た別種であることが示唆されました。新種の可能性も高く、今後更に研究を進める予定です。学名としては、Temnosewellia aff. vietnamensisが充てられ、標準和名はヤマタロウヤドリツノムシと名付けられました。これは、本種が最もよく付着しているモクズガニが、"山太郎ガニ"の愛称で鹿児島県各地の秋の味覚として親しまれていることに因みます。
 今回の研究以前、ヤドリイツツノムシ属と近縁な仲間の報告は南日本各地から散見される状況でありました。しかし、標本に基づいて研究された例はほとんど無く、その正体や分布状況については全く明らかになっていませんでした。本研究では、形態の詳細な観察や緻密なDNA解析に基づき、初めて本種の正体を明らかとした点が重要です。また、本種が新種である可能性や、九州南部固有の種である可能性も高く、保全の必要性の検討も含め、今後の継続課題としています。生態に関する研究も現在進められていますが、今のところカニへの悪い影響等は見つかっていません。また、水質の良好な河川にのみ生息している可能性があり、環境を評価する指標生物としての利用可能性も考えられます。
 鹿児島県の陸や海の自然環境は、世界に誇れる豊かさで知られています。新たな共生生物の分布を示した本研究は、このことを支持する新たな根拠の一つとなります。


【掲載論文】
Temnosewellia aff. vietnamensis (Platyhelminthes: Rhabdocoela: Temnocephalidae) associated with freshwater crabs from Kagoshima, southern Japan, with review of records of the genus from East to South Asian countries.

【著者】
Uyeno, D., Kaneko, T., Uyeno, H., Miyazaki, W., Tosuji, H.

【掲載紙】
Journal of Helminthology 96, e58, 1-12.

【DOI】
10.1017/S0022149X22000190