トップページトピックス植物多糖の末端に存在するβ-L-アラビノフラノースを切断する新たなビフィズス菌酵素の発見

植物多糖の末端に存在するβ-L-アラビノフラノースを切断する新たなビフィズス菌酵素の発見

[記事掲載日:24.02.14]

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 農学部食料生命科学科応用糖質化学研究室の藤田清貴准教授らの研究グループは、東京大学大学院農学生命科学研究科の伏信進矢教授らと理化学研究所の石渡明弘専任研究員らのグループとの共同研究を行い、アラビノガラクタン・プロテイン(AGP)やアラビナンなどの植物多糖の末端に存在するβ-L-アラビノフラノース(β-Araf)を切断する新たなビフィズス菌酵素β-L-アラビノフラノシダーゼ(Bll3HypBA1)を発見しました。

 藤田准教授らは、ヒトの腸に生息する代表的なビフィズス菌種の一つであるBifidobacterium longum JCM1217が有するβ-L-アラビノフラノシダーゼ(Bll1HypBA1〜Bll4HypBA1)の機能解析を進めてきました。これまでの研究によって、GH127に属すBll1HypBA1・Bll2HypBA1とGH146に属すBll4HypBA1はβ-アラビノオリゴ糖鎖の分解に関わる酵素であることを明らかにしましたが、同じくGH146に属すBll3HypBA1のみが機能不明のままで残されていました。AGPはβ結合のガラクトースで構成された主鎖と側鎖に加えて、多彩な修飾糖で構成されています(図)。
 修飾糖としては、L-ラムノースやグルクロン酸、α結合のガラクトース、そしてL-アラビノースが知られています。特にL-アラビノースはα結合のArafだけでなく、末端にβ-L-アラビノピラノース(β-Arap)を持つArap(β1-3)Araf構造や、β-Araf を末端に持つAraf(β1-3)Araf構造の存在が知られていました。
 本研究では、B. longum JCM1217に残されたβ-L-アラビノフラノシダーゼ(Bll3HypBA1)がAraf(β1-3)Araf 構造を認識して切断するAraf(β1-3)特異的なβ-L-アラビノフラノシダーゼであることを基質特異性の詳細な解析によって明らかにしました。
 また、X線結晶構造解析と変異解析によって基質特異性に関わる残基の特定に成功しました。

 稲の葯のAGPや、雑穀の一種であるキヌアのアラビナンは、末端のAraf(β1-3)Araf構造の存在が知られていました。そこでこれらの天然オリゴ糖に加え、有機合成によって調製した合成オリゴ糖を用いて基質特異性の解析を行いました。その結果、Bll3HypBA1はAraf(β1-2)Araf構造やAraf(β1-5)Araf構造にはほとんど作用せず、Araf(β1-3)Araf 構造を認識して切断することを明らかにしました。
 また、Araf(β1-3)Araf構造が一部のAGPやアラビナンだけに存在する稀な修飾糖ではなく、カラマツAGやアラビアガムAGP、そしてテンサイ由来のアラビナンといった市販基質にも普遍的に含まれる修飾糖であることを明らかにしました。
 修飾糖は、主鎖や側鎖に作用するビフィズス菌の酵素を妨げる鎧として働きます。また、オリゴ糖を分解する上でも端がブロックされていては単糖にまで分解することもできません。実際に、ビフィズス菌は、α-L-アラビノフラノシダーゼ「BlAfafA」とAGPの主鎖を分解する酵素「Bl1,3Gal」にBll3HypBA1を加えることで、AGPからGalp(β1-6) Gal二糖を切り出すことができました(図)。Galp(β1-6) GalはB. longumに取り込まれ、β-ガラクトシダーゼによって単糖にまで分解されることが分かっています。興味深いことにBll3HypBA1 がコードされた遺伝子座BLLJ_1848はBl1,3Gal (BLLJ_1840)とBlAfafA (BLLJ_1854)に隣接して存在しており、この遺伝子領域にはAGPやアラビナンを分解するために必要な酵素が数多く保存されていました(図)。これらの知見は、AGP鎖の構造解析に役立つ新たな酵素の発見に止まらず、プレバイオティクスとしてのAGPやアラビナンがもたらすビフィズス菌の増殖が「どのように」引き起こされているかというメカニズムの一端を明らかにするものであり、エビデンスに基づいた食物繊維として利用の促進が期待されます。
 この研究成果は、Springer Nature社が発行する微生物関連酵素や生物工学に関する専門誌「Applied Microbiology and Biotechnology」に掲載されました。



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(図:B. longumの菌体表層酵素によるAGP分解とBll3HypBA1の結晶構造)

掲載誌:Applied Microbiology and Biotechnology (2023) 108: 199
タイトル:Bifidobacterial GH146 β-L-arabinofuranosidase for the removal of β1,3-L-arabinofuranosides on plant glycans

著者:
*藤田 清貴 (鹿児島大学農学部 准教授)
角町 華子 (鹿児島大学農学部 学部学生;当時)
Pan Lixia (東京大学大学院農学生命科学研究科 大学院学生;当時)
丸山 瞬 (東京大学大学院農学生命科学研究科 大学院学生;当時)
三宅 将之 (東京大学大学院農学生命科学研究科 大学院学生;当時)
嵩下 愛果 (鹿児島大学農学部 学部学生;当時)
北原 兼文 (鹿児島大学農学部 教授)
田中 克典 (国立研究開発法人理化学研究所 主任研究員)
伊藤 幸成 (大阪大学理学研究科 特任教授)
石渡 明弘 (国立研究開発法人理化学研究所 専任研究員)
*伏信 進矢 (東京大学大学院農学生命科学研究科 教授)
(*責任著者)

https://doi.org/10.1007/s00253-024-13014-8
公開日:2024年2月7日(現地時間)



【お問い合わせ】
 農学部食料生命科学科食品機能科学
 准教授 藤田 清貴
 k4022897@kadai.jp