【博物館・連合農学研究科】点があります。イッテンホホグロスジハゼ
[記事掲載日:25.12.12]
鹿児島大学総合研究博物館と大学院連合農学研究科の研究チームは、薩摩半島から得られた標本に基づき、ハゼ科キララハゼ属の新種Acentrogobius nigromaculatus(アセントロゴビウス ニグロマキュラタス)を記載し、標準和名として「イッテンホホグロスジハゼ」を新たに提唱しました。本種の学名と和名は、共に第2背鰭の棘条先端部にある黒斑に因みます。
本種はホホグロスジハゼAcentrogobius suluensis(アセントロゴビウス スールーエンシス)と「体の側面にハシゴ状の模様をもち、鰓蓋に黒斑があり、雌は腹部と腹鰭が黒ずむ」という特徴を共有しており,国内外で両種は混同されていました。日本の魚類研究者にとってのバイブルというべき「日本産魚類検索全種の同定 第三版」においても、ホホグロスジハゼは第2背鰭の棘条先端に黒斑があるとされています。しかし、第2背鰭の棘条先端部に黒斑をもつホホグロスジハゼが薩摩半島から2019年に採集され、その分布を調べる過程でホホグロスジハゼとされているハゼには、第2背鰭に黒斑をもたない個体が少なからず存在することが判明しました。その後、2022年の奄美大島で黒斑をもつ個体ともたない個体が、同じ干潟の異なる環境から共に多数採集され、これらを基にした形態情報の比較と遺伝子解析の結果を踏まえ、双方が別種であると判断されました。ホホグロスジハゼの和名が提唱された標本、そしてRhinogobius suluensisの原記載で示された図には,共に第2背鰭の棘条先端に黒斑がないため、第2背鰭に黒斑をもたない方が和名をホホグロスジハゼ,学名をA. suluensisとすることが明らかとなりました(現在Acentrogobius suluensisとされている種は、記載された1927年の時点ではRhinogobiusという属に帰属すると考えられていました)。一方で、黒斑をもつ方には和名と学名が共に提唱された経緯がなかったため、このたび新種イッテンホホグロスジハゼA. nigromaculatusとして記載されました。
イッテンホホグロスジハゼとホホグロスジハゼは、共にインド洋から日本を含む西太平洋にかけての河口域から内湾環境にみられますが、前者は第1背鰭第4棘が糸状に伸長すること(後者はしない)、体側に赤い横縞模様がないこと(もつ個体も存在する)、尾鰭上縁が黄色みを帯びること(赤い)、そして頤に1対の黒斑をもつこと(1つ)などが異なります。また、研究チームらによるフィールド調査では、イッテンホホグロスジハゼは砂混じりのやや硬い泥干潟で採集された一方、ホホグロスジハゼは粘土質の柔らかい泥干潟で採集されており、他の研究機関に収蔵されていた「ホホグロスジハゼ」とされる標本も両種が別々に採集されていたため、両種は互いに異なる生息環境を好む可能性が示唆されました。
本研究の成果は、日本魚類学会が発行する英文誌Ichthyological Researchにて2025年11月21日に公開されました。今回使用された標本(タイプシリーズ)は、鹿児島大学総合研究博物館と国立科学博物館に収蔵されています。
【掲載論文】A new species of Acentrogobius (Perciformes: Gobiidae) from the Indo‑West Pacific, with a revised diagnosis for Acentrogobius suluensis (Herre 1927)
【著者名】Reo Koreeda and Hiroyuki Motomura
【掲載誌】Ichthyological Research
【DOI】https://doi.org/10.1007/s10228-025-01044-9
【関連ページ】
総合研究博物館 本村浩之教授 ホームページ
http://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/staff/motomura/motomura.html

写真.生鮮時のイッテンホホグロスジハゼA. nigromaculatus(左:薩摩半島産)とホホグロスジハゼA. suluensis(右:奄美大島産).共に上段が雄,下段が雌.