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【理工研】世界的天文学誌に掲載された大学院生の研究成果 望遠鏡の観測データを機械学習で解析する手法を確立

[記事掲載日:26.02.18]

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 理工学研究科の堂込 天太さん(修士2年)、理工学研究科(理学系)の高桑 繁久教授 、九州共立大学の島尻 芳人教授らを中心とする研究チームは、国立天文台野辺山45 m 電波望遠鏡およびハーシェル宇宙望遠鏡の観測データを機械学習を用いて解析する手法を確立しました。これはこれまでの天文学の理論に基づいて人間の手でデータ解析を行っていた時代から、AIによる観測データに含まれるパターンの学習を用いた、全く新しい、効率的なデータ解析の可能性を示唆するものであり、天文学の今後の方向性にユニークな指針を示しています。高桑教授は、「天文学の研究は、知りたいことがあったとしても、観測データを得られずに断念せざるを得ないということが多々起こり得る。本成果は、人間では得られないデータの穴をAIが埋めてくれるようになるかもしれないという、次世代の研究。今後の天文学の発展が期待でき大変ワクワクできるロマンのある成果である。」とコメントしました。本成果は、堂込さんを筆頭著者としてアメリカの天文学の専門雑誌「Astrophysical Journal」に掲載予定です。


〇IMG_6299.jpg記者発表にて研究成果を説明する堂込さん


〇IMG_6344.jpg写真左より 高桑教授 堂込さん 島尻教授




研究詳細




 天文学は、望遠鏡を用いた天体観測により、天体の物理や化学、進化過程等を調べる学問です。これまで、観測データから天体の性質を議論するためには、天文学の理論に基づいて観測データの数値を変換したり、観測データに数値計算の結果を当てはめたりしてきました。これは天文学の理論が要求する観測データが全て揃っている場合は着実な方法です。しかし現実には、必要な観測データが全て取れていない場合や、天体の部分部分でデータが欠損している場合が多々起こります。このような場合、これまでは天文学の議論が制限されてきました。

 本研究チームは、機械学習により、あらかじめ観測データと天体の性質との関係を計算機に学習させることにより、観測データが欠損しているような場合でも、一様に天体の性質を導けるのではないかと考えました。このためには、まず実際にそのような機械学習の手法が天体観測のデータにおいても可能なのかどうかを実証する必要があります。

 本研究チームはその実証のための観測データとして、ハーシェル宇宙望遠鏡と、国立天文台野辺山宇宙電波観測所45 m 電波望遠鏡を用いたオリオン座分子雲の観測データに着目しました。オリオン座分子雲は、距離 1400光年程度の近傍の星・惑星系形成領域です。ハーシェル宇宙望遠鏡は、波長70, 160, 250, 350, 500μmと遠赤外線の複数の波長でオリオン座分子雲を観測しています。これらの観測は分子雲内に存在する個体微粒子「ダスト」が放つ電磁波を捉えています。複数波長の観測によりこのダストの温度を導出することができます。
 一方、45 m 電波望遠鏡は、分子雲中の一酸化炭素分子とその同位体(12CO, 13CO, C18O)が放つ電波を捉えています。ハーシェル宇宙望遠鏡を用いた複数波長での観測は限られているため、ダスト温度を導出できる天体、領域は限られています。我々はオリオン座分子雲におけるダスト温度と一酸化炭素分子の観測結果を計算機に学習させることにより、ダスト温度が得られていない領域においても、一酸化炭素分子の観測だけでダスト温度を推定できないかと考えました。

 そこでオリオン座分子雲中の一部の領域を「学習領域」として設定し、その領域内でのダスト温度と一酸化炭素分子の観測結果を学習させることで、学習領域の外でも一酸化炭素分子の観測だけでダスト温度を推定する機械学習の実験を行いました(図1)。機械学習にはさまざまな種類がありますが、今回用いたのは決定木という手法です。これは一酸化炭素分子の観測結果によって推定が木の幹から枝、その小枝とどんどん分岐していき、最終的な答え=葉っぱに行き着くような手法です。

20260218tenmon01.png(図1)今回の研究で用いた観測データと機械学習の手法





 図2に今回の推定の結果を示します。図2左はハーシェル宇宙望遠鏡により得られたダスト温度の画像、すなわち正解の画像を表し、図2右は一酸化炭素分子の観測結果に決定技の手法を適用して得られたダスト温度の推定の画像を表します。これを見て分かるように、機械学習での予測は正解のダスト温度の画像と酷似しています。一部には最大で2倍程度の誤差があるものの、全体としてダスト温度をよく再現していることがわかりました。また学習領域の違いによる機械学習の精度を調べたところ、学習領域内にはダスト温度全体の分布を反映できるだけの幅広いサンプルが必要であることもわかりました。これは推定の制度を上げるためには、あらかじめ予想される推定値の範囲を十分にサンプルできる学習が必要であることを示しています。



20260218tenmon02.png(図2)ハーシェル宇宙望遠鏡によって得られた
オリオン座分子雲におけるダスト温度の分布図(左)
野辺山宇宙電波観測所45 m 電波望遠鏡による分子輝線の観測に
機械学習の手法を適用して得られたダスト温度の予測図(右)
(黒枠は学習領域)



 機械学習は人工知能 (Artificial Intelligence: AI)の基幹機能の一つです。本研究は、天文学的には必要なデータが欠損していて議論が不可能な場合でも、機械学習の手法を用いることにより、天体の性質を議論できる可能性を表しています。これはこれまでの天文学の制約を取り払い、機械学習の手法により天文学を飛躍的に発展させる可能性を示唆しています。AIが天体観測のデータを解析し、天体の姿を明らかにしていく未来がすぐそこまで迫っていることになります。




【掲載誌】Astrophysical Journal

【タイトル】Predicting Dust Temperature from Molecular Line Data Using Machine Learning

【著者】Tenta Dougome, Yoshito Shimajiri, Kazuya Saigo, Sanemichi Takahashi, Miyu Kido, Shu Ishibashi, & Shigehisa Takakuwa,

【DOI】10.3847/1538-4357/ae2ec3