トップページトピックス【理工研】八代海の泥ハゼ、チワラスボの"オシリ"をカジる新種の甲殻類

【理工研】八代海の泥ハゼ、チワラスボの"オシリ"をカジる新種の甲殻類

[記事掲載日:22.02.07]

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 大学院理工学研究科の上野 大輔准教授が、出水市沿岸干潟の泥中に暮らすハゼ、チワラスボに共生する珍しい小型甲殻類を発見、報告しました。この甲殻類は新種で、更に種より上の分類階級である属と科に該当するものも存在しない極めて珍しい種で、新科新属新種として記載、報告されました。鹿児島県の沿岸域に、極めて珍しい生物が生息する貴重な事例となります。

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出水市沿岸の干潟砂泥中から発見・記載されたオシリカジリムシの雌成体体長約1.3 mm (上野准教授提供)

【概要】
 出水市、小次郎川の河口干潟で採集された泥潜行性のハゼ類チワラスボの臀鰭 (しりびれ) 上から、体長1.3 mm程度の微小な甲殻類1種が発見された。本種は新種として記載され、Choreftria shiranui (コレフトリア・シラヌイ) 、標準和名:オシリカジリムシと命名された。この微小な甲殻類は、既存の属および科に当てはまらない形態を示す点で極めて珍しく、科および属についても本種のみのためにオシリカジリムシ科、オシリカジリムシ属が新たに設立された。近縁な種が見つかっていないため、詳しい生態については謎である。本成果は英国の寄生虫学雑誌「Systematic Parasitology」のオンライン版にて、2022年1月24日付けで発表された。

【研究体制、発見と報告の経緯】
 2021年5月、是枝 伶旺さん (鹿児島大学農林水産学研究科・修士課程学生) が、出水市小次郎川河口干潟において砂泥中に潜っていたチワラスボ (体長約15 cm) を採集し、その臀鰭に付着する本種雌個体 (体長約1.3 mm) を発見した。小型甲殻類の分類を専門とする上野准教授が形態を詳しく観察し、既存の属、更にはその上の科も該当するものが無いことが明らかになったため、新科新属新種Choreftria shiranui として記載された。新科、新属名はギリシャ語でダンサーを意味し、種名は産地八代海の別称、不知火海に由来する。本種の生態はほぼ不明であるが、チワラスボの臀鰭に取り付く事が明らかになっている。その生態と、上野准教授が好きなNHKみんなのうた「おしりかじり虫」のキャラクターに因み、標準和名はそれぞれ「オシリカジリムシ科」「オシリカジリムシ属」「オシリカジリムシ」として命名された。なお、標準和名の命名にあたり、NHKみんなのうた「おしりかじり虫」の番組制作をしたNHKとうるまでるび氏、および、「おしりかじり虫(オシリカジリムシ)」の商標登録をしている株式会社NHKエンタープライズ様に事前相談し、差し障りがないことを確認済みである。

【発見の意義】
 鹿児島県沿岸は、世界的にも生物相豊かな海域であり、これまでにも多くの新種が発見されてきた。今後、その数は更に増えることが期待される。しかし、種よりも上の分類階級である属、さらにその上の科のレベルが新しく設立されることは極めて珍しく、甲殻類の進化の歴史を解明する上での学術的意義が大きい。なお、干潟に暮らす動物間には様々な共生関係が知られるが、地面の下という隠蔽的な環境でもあるためか、明らかになっていないも未だ多いことを示唆する好例でもある。本種の保全も視野に入れた、今後の研究が必要であると考えられる。

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チワラスボの臀鰭に付着している状態 (是枝さん提供)



【タイトル】
Choreftria shiranui, a new genus and species of cyclopoid copepod associated with the worm goby from southern Japan, with proposal of a new family.
【著者】
Uyeno, D. 2022.
【掲載誌】
Systematic Parasitology, published online 24 January 2022.
【DOI】
10.1007/s11230-021-10013-5