トップページトピックス【医歯研】本学で発見された分子CD147(ベイシジン)が皮膚の難病、乾癬の発症に関わっていることを解明

【医歯研】本学で発見された分子CD147(ベイシジン)が皮膚の難病、乾癬の発症に関わっていることを解明

[記事掲載日:22.03.08]

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 大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の金蔵 拓郎教授の研究チームは、本学で発見された遺伝子であるCD147(ベイシジン)が、皮膚の難病である乾癬の発症に関わっていることを解明しました。

 乾癬は慢性・難治性の自己免疫性皮膚疾患で患者さんの生活の質を大きく損ねます。自身の免疫細胞が皮膚の最外層を形成する表皮角化細胞に作用することで表皮細胞が分化の異常をきたし増殖が促進します。その結果、皮膚は厚くなりカサカサとしたフケのような鱗屑(りんせつ)をともなう紅斑(赤い広がりのあるできもの)が体中に出現します。病態の主体となる免疫細胞はTh17細胞と呼ばれるリンパ球です。胸腺(リンパ球を産生する臓器)で作られたT細胞は病的な活性がなくナイーブT細胞と呼ばれます。ナイーブT細胞に様々な炎症の刺激が加わるとTh17細胞に分化し、病変部で増殖しインターロイキン-17 (IL-17) という炎症物質(サイトカイン)を産生します。このIL-17が乾癬の主役です。Th17細胞の分化と活性化にはIL-23やTNFα(腫瘍壊死因子α)というサイトカインが重要です。近年、乾癬の治療薬として生物学的製剤が使用されるようになりましたが、これらの薬剤はIL-17, IL-23, TNFαなどのサイトカインの働きを阻害するものです。

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 平常時の正常な細胞は酸化的リン酸化という仕組みでエネルギーを得ています。しかし細胞が病的に分化や増殖する時は酸化的リン酸化だけではエネルギーが不足するため、解糖系というもう一つのエネルギー産生系を利用します。解糖系では細胞が血液中の糖分(グルコース)を取り込んでエネルギーを生み出します。解糖系に依存している代表的な細胞はがん細胞です。がん細胞は急速に増殖するためグルコースを大量に消費し細胞自身にエネルギーを供給しています。

 今回、乾癬の発症に関与していることが明らかになったCD147(ベイシジン)は、細胞の分化に関連する分子として1990年に当時の鹿児島大学第二生化学講座の村松 喬教授の研究グループが発見しました。金蔵教授もこの研究グループのメンバーで、その後、皮膚悪性黒色腫というがんを対象にした研究で、CD147(ベイシジン)が解糖系を制御していることを明らかにしました。

 近年の免疫学の研究でTh17細胞の分化と増殖もエネルギーを解糖系に依存していることが分かりました。金蔵教授の研究チームはCD147(ベイシジン)が、Th17細胞の分化と乾癬の発症にも関わっているのではないかとの仮説を立て、乾癬のモデルマウスを用いて検討しました。
 マウスの皮膚にイミキモドという物質を塗布すると乾癬様の皮膚炎が誘発されます。このモデルを使って検討しました。CD147(ベイシジン)の遺伝子を欠損したマウス(ノックアウトマウス)では正常のマウスと比較して皮膚炎が有意に軽症でした。リンパ球が重要であることを確認するため、遺伝子工学的な手法を用いてTリンパ球を含む血液細胞だけがCD147(ベイシジン)を欠損しているモデルマウスを作成したところ、このマウスでも皮膚炎は軽症でした。さらに正常マウスにCD147(ベイシジン)の働きを抑えるペプチド(タンパク質の構成成分であるアミノ酸が結合した化合物)を外用するとイミキモドによる皮膚炎が抑制されました。
 これらの結果はCD147(ベイシジン)が乾癬の発症に関わっていることを示しており、症状を抑制したペプチドは乾癬の治療薬の開発につながる可能性があります。

20220308zu02.jpg 生物学的製剤はサイトカインの働きを阻害しますが、CD147(ベイシジン)を標的とした治療はTh17細胞の分化と増殖を抑えるため、より根本的で効果的な治療になる可能性があります。


【タイトル】
CD147 Is Essential for the Development of Psoriasis via the Induction of Th17 Cell Differentiation
【著者】
Aoi Okubo, Youhei Uchida, Yuko Higashi, Takuya Sato, Youichi Ogawa, Akihiro Ryuge,Kenji Kadomatsu and Takuro Kanekura
【掲載誌】
International Journal of Molecular Sciences
【DOI】
10.3390/ijms23010177