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魚のノドが好き?な新種の寄生虫見つかる

[記事掲載日:23.04.26]

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 鹿児島大学大学院理工学研究科上野大輔准教授、塔筋弘章准教授らの研究チームは、大隅諸島(屋久島、三島村竹島)沿岸域に生息する魚類、ニセタカサゴの体表から新種の寄生性甲殻類の1種を発見、報告しました。

 本種は、鹿児島県の屋久島や三島村海域などから発見されていますが、沖縄、奄美、鹿児島本土沿岸からは見つかっておらず、地域固有性が高い種であるとみられます。珍しい寄生生物が分布することを示す貴重な事例となります。

 2023年4月11日付、日本寄生虫学会の国際誌Parasitology International (パラシトロジー・インターナショナル)(オンライン版)に掲載されました。


【概要】
 屋久島および三島村竹島沿岸において発見および採集された、ニセタカサゴの体表に寄生する体長5~6 cm程度の寄生性甲殻類、ウオノエ科ウオノギンカ属の1種について、新種Anilocra harazakiiとして記載した。
タカサゴの頭と胴の境界付近の腹側、人間に例えると喉元付近に寄生することから、標準和名はウオノノドボトケと命名された。詳しい生態や分布の広がりは、今後研究が進められる予定である。

 本研究は、公益財団法人屋久島環境文化財団による助成を受けて行われ、三島村沿岸における調査では鹿児島大学水産学部練習船「南星丸」も利用した。成果は、日本寄生虫学会の英文誌「Parasitology International」のオンライン版にて、2023年4月11日付けで発表された。

【研究体制、経緯】
 研究は、上野大輔 (鹿児島大学大学院理工学研究科・准教授) と塔筋弘章 (同・准教授) によるチームによって進められた。上野は2015年に鹿児島大学に着任して以来、北琉球における海洋生物の調査研究を進めている。
 屋久島では、現地ダイビングサービスや漁業者協力のもと沿岸域で潜水調査を行っているが、その過程において、タカサゴ科魚類の体表に寄生する等脚類が分布することを確認した。標本の採集には長らく至らなかったが、この度屋久島沿岸においてニセタカサゴに寄生する標本を採集することが出来た。
形態についての詳細な観察 (上野が担当) とDNAに基づく系統解析 (塔筋が担当) を行ったところ、既知の他種全てと異なる新しい種であることが明らかになった。また、三島村の竹島沿岸において、鹿児島大学水産学部練習船「南星丸」を使用した航海で同種が採集された。

【研究の成果、意義】
 研究の結果、本種は甲殻亜門の等脚目ウオノエ科、いわゆる寄生性のダンゴムシの仲間であるウオノギンカ属の1新種として記載された。体長は、5~6 cm程度になる。
 学名はAnilocra harazakii (アニロクラ・ハラザキアイ) 、標準和名はウオノノドボトケと命名された。学名は、屋久島で長年ダイビングサービスを営み、周辺の海域についても熟知し、本種の分布情報を提供してくださった原崎森氏 (屋久島ダイビングサービス もりとうみ) に因んだものである。
標準和名は、本種が魚類の頭と胴の境目の腹側、即ち人間でいうところの"喉"に寄生することに因む。

 今回の研究では、本種はタカサゴ科魚類のニセタカサゴに寄生していた標本に基づいて記載されたが、現地では他のタカサゴ科魚類に寄生している様子も水中観察されている。
タカサゴ科魚類は南日本に広く分布するが、ウオノノドボトケは北琉球の限られた海域のみに分布する地域固有性の高い種である可能性がある。標本が得られている屋久島と三島村海域の他に、種子島沿岸からも本種とみられる目撃情報があるが不確かである。正確な分布の広がりや利用宿主について、今後明らかにする予定である。
 本種の発見は、鹿児島県の海洋環境の豊かさを示す、新たな根拠の一つとなる。

【発表論文】
Uyeno, D., Tosuji, H. 2023. Two new species of the genus Anilocra Leach, 1818 (Isopoda: Cymothoidae) parasitic on reef fishes from the western Pacific. Parasitology International 95 (2023) 102752, 1-12.

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.parint.2023.102752


屋久島沿岸において採集された寄生性等脚類ウオノノドボトケ. 体長約6 cmの成体 (左)

宿主のニセタカサゴの "喉" に寄生する様子 (右). 寄生されても多分声変わりはしない

(上野大輔提供)


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大学院理工学研究科(理学系)理学専攻 生物学プログラム 上野大輔准教授