トップページトピックスビフィズス菌がアラビノガラクタン・プロテインを分解するために必要な新たな酵素の発見

ビフィズス菌がアラビノガラクタン・プロテインを分解するために必要な新たな酵素の発見

[記事掲載日:23.05.02]

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 農学部食料生命科学科応用糖質化学研究室の藤田清貴准教授らの研究グループは、鹿児島大学院連合農学研究科にて2022年に博士号を取得し、現在、京都大学大学院で日本学術振興会特別研究員として研究に従事している佐々木優紀博士と森永乳業基礎研究所との共同研究により、アラビアガムを構成するアラビノガラクタン・プロテインを分解してビフィズス菌が増えるために必要な新たな酵素を発見し、その役割を明らかにしました。

 アラビアガム(アカシアゴム)はアカシア属の植物の樹液の粘質物であり、増粘多糖類やコーティング剤として食品や医薬品として利用されている高分子多糖類です。アラビアガムは、ビフィズス菌を増やすプレバイオティクスの一つとして働くことも分かっており、サプリメント用途としても販売されています。その高分子多糖類はアラビノガラクタン・プロテイン(AGP)と名付けられており、ガラクタン鎖の骨格に様々な糖が修飾された複雑な糖鎖構造を持つ特徴があります。
 以前、藤田准教授らは、アラビアガムが特定のビフィズス菌(Bifidobacterium longum)を増やすために必要不可欠な鍵酵素「GAfase」を発見しました。GAfaseはアラビアガムの末端の二糖であるGalα1,3Araf構造を切断する酵素です。この酵素によって切り出されたオリゴ糖を利用することで、B. longumが増えることを明らかにしました。しかし、アラビアガム等のAGPの末端には類似の二糖であるArapβ1,3Araf構造も付加されていますが、GAfaseはこちらの二糖に対しては弱い活性しか持たず、遊離したArapβ1,3Araを利用してB. longumが増えることもできませんでした。

 本研究は、ヒト成人の腸内に生息するビフィズス菌であるBifidobacterium pseudocatenulatumが、新たな酵素として発見された「AAfase」を利用して、アラビアガムを分解して生育できることを詳細に解析したものです。「AAfase」とは、アラビアガムやカラマツAGP末端のArapβ1,3Araf構造を切断する酵素であり、正式名称は3-O-β-L-arabinopyranosyl-α-L-arabinofuranosidaseです。「AAfase」と「GAfase」の活性中心のアミノ酸を比較したところ、「AAfase」の116番目のTyrのみが「GAfase」ではAsnになっていることがわかりました。そこで、「GAfase」のAsnをTyrに変異導入したところ、AAfase型に変化しArapβ1,3Araf構造を優先的に切断できるようになりました。これは、僅か一カ所のアミノ酸を変えるだけで酵素の基質特異性をコントロールできることを意味しています。

 現在、腸内環境を健全に維持する上で、ヨーグルトやサプリメントとしてビフィズス菌そのもの(プロバイオティクス)や、そのエサとしての難消化性オリゴ糖(プレバイオティクス)を摂取することの重要性が明らかになっています。今回、「GAfase」に加えて「AAfase」の解析結果を組み合わせることによりプレバイオティクスとしてのアラビアガムを、複数の腸内細菌の協同作用により効率的に利用する姿が見えてきました。アラビアガムは、増粘剤として用いられる「セネガル種」と薬の錠剤や飴のコーティング剤として用いられる「セヤル種」が商業利用されています。これまで我々は「セネガル種」を解析対象としてきましたが、異なるAGP構造を有する「セヤル種」には「GAfase」も「AAfase」も作用することはできません。今後、さらに酵素探索研究を積み重ねていくことで、ビフィズス菌のアラビアガム分解システムの全体像を把握し、食物繊維やオリゴ糖の開発につながることが期待されます。

 この研究成果は、腸内細菌などの微生物叢(Microbiota)の解析(Microbiome)に関する研究報告誌として2022年に創刊された欧米科学雑誌「Microbiome Research Reports」のビフィズス菌に関する特集号に掲載されました。

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(図1:様々なビフィズス菌のAGP分解酵素によるAGPの分解の仕組み)



Yuki Sasaki1,2, Makoto Yanagita1, Mimika Hashiguchi1, Ayako Horigome3, Jin-Zhong Xiao3, Toshitaka Odamaki3, Kanefumi Kitahara1, Kiyotaka Fujita1,#
1鹿児島大学農学部, 2京都大学大学院生命科学研究科, 3森永乳業基礎研究所, #責任著者

※Microbiome Research Reports, 2, 12 (2023).
Assimilation of arabinogalactan side chains with novel 3-O-β-L-arabinopyranosyl-α-L-arabinofuranosidase in Bifidobacterium pseudocatenulatum.

https://doi.org/10.20517/mrr.2023.08