トップページトピックスなぜ痒みと痛みは相反する感覚なのか? 痒みと痛みを逆方向に制御している神経回路の解明

なぜ痒みと痛みは相反する感覚なのか? 痒みと痛みを逆方向に制御している神経回路の解明

[記事掲載日:24.03.18]

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 大学院医歯学総合研究科 統合分子生理学分野、生化学・分子生物学分野、皮膚科学分野の共同研究グループは、光遺伝学的手法と掻痒・疼痛モデルマウスを用いた実験により、痒みと痛みを逆方向に制御している神経回路を明らかにしました。
 この共同研究成果は、2024年3月8日、生物学分野の国際学術誌 『Communications Biology』に掲載されました。

 痒み(Itch)と痛み(Pain)は互いに共存しづらい感覚であり、痛みを強く感じている時は痒みの感覚が小さくなる一方で、痒みを強く感じている時は痛みの感覚が小さくなるという、不思議な相互作用を持つ感覚であることが知られています。しかし、この痒みと痛みの相互作用における脳内の神経制御機構についてはほとんど分かっておりませんでした。
 本研究では、脳の特定の神経細胞活動を操作することができる光遺伝学的手法と、急性の掻痒・疼痛モデルマウスを用いることで、脳の視床下部に存在するオレキシン産生神経細胞(オレキシン神経)が、痛みは抑制する一方で痒みは促進させるという、2つの感覚を逆方向に制御している神経であることを明らかにしました。
 また、これまでオレキシン神経は視床下部から脳の様々な領域に投射し神経回路を形成することで多様な機能を担う神経であることが知られていましたが、今回の研究ではその中でも特に視床下部から中脳水道灰白質へと投射する神経回路が、痒みと痛みの相反的な制御に重要であることを明らかにしました。
 さらに、臨床の現場でみられる病的な痒みを反映した慢性掻痒モデルマウスを用いた実験により、オレキシン神経が慢性掻痒の病態悪化にも寄与していることを明らかにしました。このことから、視床下部オレキシン神経が慢性掻痒治療法開発の新たなターゲットになりうる可能性が示唆されます。

 本研究により、なぜ痒みと痛みが互いに打ち消し合うという不思議な相互作用を持つ感覚であるのか?という疑問に対して、その答えを担う神経制御機構の一端が解明されました。本研究の知見は、新たな視点からの鎮痛薬や鎮痒薬の新薬研究開発につながることが期待されます。

Orexin-neurons.png

【掲載誌】
Communications Biology
【タイトル】
Orexin neurons play contrasting roles in itch and pain neural processing via projecting to the periaqueductal gray
【著者】
*金子 達朗 (鹿児島大学 医学部 医学科6年)
大浦 飛鳥 (鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 医科学修士課程2年)
今井 祥暉 (鹿児島大学 医学部 医学科4年)
楠本 郁恵 (鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 統合分子生理学 助教)
金蔵 拓郎 (鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 皮膚科学 教授)
奥野 浩行 (鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 生化学・分子生物学 教授)
桑木 共之 (鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 統合分子生理学 名誉教授)
*柏谷 英樹 (鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 統合分子生理学 講師)
(*責任著者)
【掲載URL】 https://doi.org/10.1038/s42003-024-05997-x
【公開日】2024年3月8日(現地時間)
【研究グループHP】
統合分子生理学分野HP: https://www3.kufm.kagoshima-u.ac.jp/physiol1/indexJ.html
生化学・分子生物学分野HP: https://www3.kufm.kagoshima-u.ac.jp/biochem2/
皮膚科学分野HP: https://www3.kufm.kagoshima-u.ac.jp/derma/?jtpl=9