【農学部】カラメル化糖DFA-IIIの腸内細菌による分解の仕組みを解明
[記事掲載日:24.11.14]
農学部応用糖質化学研究室の藤田清貴准教授を中心とする研究グループは、湖南農業大学(中国)からの短期研修生のYe Ting氏、及び森永乳業基礎研究所との共同研究により、ヒト腸内に広く分布するブラウティア属細菌によるジフルクトースジアンヒドリド-III (DFA-Ⅲ) の分解メカニズムを解明しました。
研究の背景
ショ糖やイヌリンを構成するフルクトースは、キャラメル作りなどでの加熱に伴うカラメル化反応で2分子のフルクトースが脱水縮合し、難消化性のカラメル化糖が生成されます。DFA-IIIは商業的に生産される唯一のカラメル化糖であり、ミネラル吸収促進や腸内環境の改善に効果があるとされ、サプリメントとして利用されています。DFA-IIIは、主要なヒトの腸内細菌として知られるビフィズス菌やバクテロイデス属細菌には利用されない一方で、ブラウティア属細菌の一部に利用されることが知られていました。しかし、その分解代謝メカニズムはこれまで明らかにされていませんでした。
研究の成果
1.DFA-III分解酵素の発見
藤田准教授らの研究グループは、ブラウティア属細菌がDFA-IIIを分解するために必要な酵素DFA-IIIaseを発見しました。DFA-IIIaseは糖質加水分解酵素(GH)ファミリー91に属し、DFA-IIIをイヌロビオースに分解する加水分解反応を触媒します。
2.ブラウティア属細菌におけるDFA-III分解代謝メカニズムの解明
DFA-IIIを利用して増殖できるブラウティア属細菌は、DFA-IIIaseを持つ菌株(例:B. parvula NBRC 113351、B. hydrogenotrophica JCM 14656、B. wexlerae JCM 35486)に限られています。これらの細菌はDFA-IIIを取り込み、DFA-IIIaseとβ-フルクトフラノシダーゼ(GH32)を用いてフルクトースに分解します。このメカニズムの解明は、DFA-IIIがブラウティア属細菌の増殖にどのように寄与するのかを理解する上で重要です。
3.DFA-III存在下でのブラウティア属細菌の選択的な増殖
DFA-IIIaseを持つブラウティア属細菌はDFA-IIIを利用して増殖しましたが、これを持たないブラウティア属細菌では増殖できませんでした。また、糞便発酵試験において、DFA-IIIがブラウティア属細菌を選択的に増殖させることが確認されました。これにより、ブラウティア属細菌がヒト腸内でDFA-IIIを利用する主要な腸内細菌であることが示されました。
研究の意義
本研究は、難消化性オリゴ糖DFA-IIIの腸内細菌における分解メカニズムを初めて明らかにしたものであり、ブラウティア属細菌を選択的に増やす機能性オリゴ糖としてのDFA-IIIの有用性を示しました。これらの知見は、プレバイオティクスとしてのDFA-IIIがもたらす選択的な腸内細菌の増殖のメカニズムの一端を明らかにするものであり、難消化性オリゴ糖としてのDFA-IIIのエビデンスに基づいた利用の促進が期待されます。
この研究成果は、Springer Nature社が発行する微生物関連酵素や生物工学に関する専門誌「Applied Microbiology and Biotechnology」に掲載されました。
(図:ブラウティア属細菌のDFA-IIIの分解代謝機構)
掲載誌:Applied Microbiology and Biotechnology (2024) 108: 502
タイトル:Degradation mechanism of difructose dianhydride III in Blautia species.
著者:
Ye Ting (鹿児島大学大学院農林水産学研究科 短期研修生(湖南農業大学);当時)
堀米 綾子 (森永乳業株式会社 研究本部 基礎研究所 副主任研究員)
金子 宏槻 (森永乳業株式会社 研究本部 基礎研究所 研究員)
小田巻 俊孝 (森永乳業株式会社 研究本部 基礎研究所 室長)
北原 兼文 (鹿児島大学農学部 教授)
*藤田 清貴 (鹿児島大学農学部 准教授)
(*責任著者)
https://doi.org/10.1007/s00253-024-13346-5
公開日:2024年11月5日(現地時間)