トップページトピックス【博物館】学術上"存在しない魚"だった希少淡水魚ムサシトミヨ 60年を経て、ついに「新種」として記載される

【博物館】学術上"存在しない魚"だった希少淡水魚ムサシトミヨ 60年を経て、ついに「新種」として記載される

[記事掲載日:26.05.26]

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写真.生時のムサシトミヨPungitius nakamurai
(Paratype、標準体長40.2 mm:さいたま水族館より寄贈)




 鹿児島大学総合研究博物館の松本 達也特任助教、国立科学博物館の松浦 啓一名誉研究員による研究チームは、埼玉県に生息する淡水魚、ムサシトミヨ(トゲウオ科トミヨ属)をPungitius nakamurai(プンギティウス ナカムラアイ)として記載しました。
 埼玉県の「県の魚」、埼玉県熊谷市の「市の魚」に指定されるなど広く親しまれてきた一方、国際的な魚類分類学の世界では60年以上にわたり"存在しない魚"として扱われてきた本種が、ついに学術的にも正式な種として世界に認められることとなります。
 本研究の成果は、日本魚類学会が発行する英文誌Ichthyological Researchにて2026年4月29日に公開されました。

研究の概要

 鹿児島大学総合研究博物館などが所有する標本及びさいたま水族館からの生きた個体に基づき、ムサシトミヨ(トゲウオ科トミヨ属)Pungitius nakamuraiを新種として記載しました。本種は1963年に初めて報告されて以降、過去60年以上もの間、正式に種として記載されないままでした。ムサシトミヨは図鑑などにも掲載され、その存在は広く知られていましたが、国際的な魚類分類学の分野においては「存在しない魚」でもありました。今回の研究により、ムサシトミヨは学術的にも"種"として認められることとなります。

 ムサシトミヨはトゲウオ目トゲウオ科トミヨ属の魚です。体長は3.5~6センチメートルで、水温10~18度のきれいで冷たい湧き水があり、水草が茂る細い川に生息しています。寿命は約1年です。背ビレ、腹ビレ、尻ビレにトゲを持ち、敵から身を守る時などにトゲを出します。
 ムサシトミヨの種小名"nakamurai"は、1963年に初めて本種を他種と識別し、和名を提唱した故中村 守純博士への献名です。本種は昭和初期までは群馬県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都といった関東地方一帯に広く生息していました。しかし中村博士が和名を提唱した1963年の時点で、埼玉県の一部以外ではすでに絶滅していました。現在は埼玉県のごく一部にのみ生息しており、野生下での絶滅が危惧されています。今回の研究により種として記載されたことで、保護政策の対象種に指定されやすくなるなど、保全活動の強化が期待されます。

研究の背景

 ムサシトミヨがこれまで記載されてこなかった主な要因として、トミヨ属魚類では種間・集団間で交雑が起きやすく、属内全体の分類体系が混乱していたことが挙げられます。近年、国際的にも本属の分類研究が進み、知見が蓄積されたことで、ムサシトミヨが他種と明確に分化していることが示されました。新種記載まで半世紀以上の時間を要しましたが、この間の魚類学者たちの継続的な努力があったからこそ、今回の研究が成立したと言えます。

 また、ムサシトミヨが今日まで命脈を保ってきたのは、地元の方々による保全活動の賜物でもあります。今回の新種記載は、そうした方々の想いや力が結実したものと言えるでしょう。
 現状では、ムサシトミヨの生息地は長さ数百メートルほどの狭い範囲に限られており、依然として絶滅のリスクはきわめて高い状態です。正式に記載されたことにより、公的機関などによる本種の保全対策がよりいっそう進展することが望まれます。

研究に使用した標本

 今回使用された標本(タイプシリーズ)は、国立科学博物館・東京大学総合研究博物館・鹿児島大学総合研究博物館・神奈川県立生命の星・地球博物館・群馬県立自然史博物館に収蔵されています。また固定標本では失われてしまう生時の色彩を論文中で示すため、ムサシトミヨの累代飼育・保全活動に取り組んでいるさいたま水族館から生きた個体の提供も受けました。





【掲載論文】A new species of ninespine stickleback, Pungitius nakamurai (Gasterosteiformes, Gasterosteidae), endemic to Honshu Island, Japan

【著者名】Tatsuya Matsumoto and Keiichi Matsuura

【掲載誌】Ichthyological Research (Online First)

【DOI】10.1007/s10228-026-01062-1