トップページトピックス【連合農学研究科】昆虫の共生細菌「オス殺し」に関する世界初の論文を発表

【連合農学研究科】昆虫の共生細菌「オス殺し」に関する世界初の論文を発表

[記事掲載日:21.02.03]

 去る1月20日、大学院連合農学研究科※1博士課程2年の吉田 一貴さんが、水稲などの害虫であるヒメトビウンカの飼育系統から、共生細菌が引き起こす「オス殺し※2」に対する抵抗性遺伝子の存在を確認し、その遺伝様式を明らかにし、論文を発表(オンライン)しました。
 
 この度の発表は、吉田さんをはじめとする農研機構九州沖縄農業研究センターの真田 幸代博士、佐賀大学農学部の徳田 誠准教授らの研究グループによるもの。
 昆虫の共生細菌が引き起こす「オス殺し」は未だ謎が多く、またそれを無効化する抵抗性遺伝子の存在や遺伝様式については、これまでに世界で3例しか報告されておらず、今回の報告は、カメムシ目昆虫におけるオス殺し抵抗性、またオスが幼虫期に死亡する「晩期型オス殺し」に対する抵抗性としては、世界初となりました。
 
 現在、オス殺し抵抗性遺伝子の正体やそのメカニズムは明らかになっていませんが、この度の発見が、オス殺し細菌と宿主昆虫との相互作用の解明にとって重要な知見となり、今後、共生細菌が行う生殖操作の更なる研究で詳細が明らかとなり、将来的には害虫防除などへの応用にも繋がると期待されています。
 詳細は、以下をご覧ください。
 
※1 連合農学研究科は、3大学(佐賀大学、琉球大学、鹿児島大学)で構成。
※2「オス殺し」とは、昆虫の共生細菌のなかには宿主の性を利己的に操作することにより、感染を広めようとするものがいるが、その宿主のオスだけを殺す現象のこと。
 

■論文情報

◆タイトル:Silence of the killers: discovery of male-killing suppression in a rearing strain of the small brown planthopper, Laodelphax striatellus
◆著者:Kazuki Yoshida, Sachiyo Sanada-Morimura, Shou-Horng Huang, and Makoto Tokuda
(鹿児島大学大学院連合農学研究科 吉田 一貴、農研機構九州沖縄農研 真田 幸代、台湾嘉義農業試験分所 黃守宏、佐賀大学・鹿児島大学 徳田 誠)
◆公開日:2021年1月20日オンライン公開, https://doi.org/10.1098/rspb.2020.2125

 

▼ヒメトビウンカ(上がオス、下がメス)クリックで画像拡大

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■詳細

 多くの昆虫はその体内に細菌・ウイルスなど、多様な微生物を宿していることが近年明らかになってきている。そういった共生微生物の中には、宿主(昆虫)の生殖を都合のいいように改変する(=生殖操作)という、驚くべき能力を持つものがいる。
 植物ウイルスの媒介者として知られる害虫ヒメトビウンカLaodelphax striatellusの一部の個体群には、「細胞質不和合」という生殖操作を行う共生細菌ボルバキアWolbachiaに加えて、「オス殺し」を行う共生細菌スピロプラズマSpiroplasmaが感染していることが知られている。スピロプラズマに感染しているヒメトビウンカでは、孵化~羽化までの間にオスが死亡してしまい、性比が大きくメスに偏る。
 オス殺しは宿主の生存にとって非常に不利益なものであるため、自然界ではオス殺しを無効化する「抵抗性」が速やかに出現すると考えられる。しかしながら、オス殺しが無効化された昆虫は見かけ上は何の異常も無いため、その進化の過程を人が観測するのは非常に難しい。実際に昆虫の間でオス殺し抵抗性が出現し、広がった事例が報告されているのは、わずか2例のみである。
 今回、ヒメトビウンカの飼育系統の中から、スピロプラズマに感染しているにも関わらず性比が1:1となっているものが発見された。交配実験の結果、この「オス殺し抵抗性」は単純なメンデルの遺伝の法則において顕性(優性)的に表現する形質であることが明らかになった。
 

【関連】

佐賀大学農学部システム生態学研究室HP(徳田 誠 准教授)