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【水産学部】深海の生態系を支えるエネルギー供給源を評価する方法を開発

[記事掲載日:22.02.18]

  • topics-SDGs-14(海の豊かさを守ろう)

 水産学部水圏科学分野(小針研究室)の研究グループは、既存の研究では難しかった深海の生態系を支えるエネルギー供給源を調べる方法を開発し、表層で作られた物質に依存していることを解明しました。
 これまで、深海に分布する生物群のエネルギー源は表層から沈降してきた物質(マリンスノー)であると言われてきましたが、それを画一的に説明できる方法がほとんどありませんでした。今回の発見は、深海の生物群集が表層の生物生産に依存することを示しただけでなく、この方法を応用することで複雑な海洋生態系のエネルギー供給源や捕食被食関係を解明できる可能性があります。

 

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西部北太平洋亜寒帯域の捕食被食関係に重要な役割を果たす動物プランクトン

【背景】
 海洋中深層へ沈降する物質(マリンスノー)は、地球温暖化物質を深海に封印するための主な経路となっています。また、マリンスノーは深海における生物群集の主なエネルギー源と考えられてきたため、海洋中深層における生物群のエネルギー源を評価する研究が、近年世界的に進められつつあります。しかし、海洋中深層では生物多様性が非常に高く、複雑な捕食被食関係が構築されていること、高度な生物分類技能が要求され、生物の識別に膨大な労力・時間を要すること、既存の技術では、海洋生態系における捕食被食関係の定量的評価が困難であることなど多くの問題が解決されておらず、海洋中深層の生物群がどのくらい表層で作られた物質に依存しているか未だよく分かっていませんでした。

【研究内容】
 海洋中深層における生物群の中でも、動物プランクトンは特に雑多な餌を利用するため、研究開始前より数々の問題が想定されました。しかし、捕食被食関係を反映するとされる安定同位体比を使えば、逆にこの複雑な捕食被食関係を画一的に表現できるはずと考えました。そこで、生物群が全く異なる北太平洋亜熱帯域および亜寒帯域から採取した動物プランクトンから多くの分類群を多大な労力と時間をかけて識別しただけでなく、測定に十分な膨大な数の動物プランクトンを分別することで、研究データを得ました。
 本研究では、予想通りの結果が得られました。同じ海域における動物プランクトンの安定同位体比は、多様な分類群であっても同じ直線上にならび、この直線はエネルギー供給源を共有する捕食被食関係を示していることを発見しました。また、餌が少ない深層動物プランクトンの安定同位体比は表層と同じ直線上にならぶことから、深層の動物プランクトンでも表層で作られた餌に依存していることが判明しました。
 本研究の発見は、海洋中深層の生物群は表層で作られた餌に依存することを示しただけでなく、この方法を応用することで複雑な海洋生態系のエネルギー供給源や捕食被食関係を解明できる可能性を示唆しています。

【今後の展開】
 これまで、海洋生態系における食物網は極めて複雑であるため、エネルギー源やその経路を解明するためには高度な知識と技能に加えて、膨大な労力・時間が必要でした。研究グループでは、本学練習船を効果的に利用した海洋観測と生物採取に加え、これまで開発してきた解析技術も駆使し、我が国の水産資源を支える魚類(特に、ウナギに代表される餌料源が未解明な養殖種苗)の餌料源解明を目指します。


【掲載論文】
題 名:Mesopelagic community supported by epipelagic production in the western North Pacific Ocean based on stable isotope ratios of carbon and nitrogen
炭素および窒素安定同位体比によって解明された、西部北太平洋の表層生産に依存する中深層群集

【著者】
Toru Kobari, Rie Nakamura, Maki Noguchi Aita, Minoru Kitamura
小針統1・中村理絵2・相田真希3・喜多村稔3
1:鹿児島大学水産学部
2:鹿児島大学水産学研究科
3:海洋開発研究機構
【掲載誌】
Deep-Sea Research I, 182, 103722
【DOI】
10.1016/j.dsr.2022.103722(2022年2月11日オンライン公開)