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【水産学部】ゴカイ類の巣穴やホヤ類の体内をすみかとする新種のヨコエビを発見!

[記事掲載日:22.10.27]

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 本学水産学部の小玉将史助教、米国Georgia College & State UniversityのKristine N. White助教(Assistant Professor)、国立遺伝学研究所の細木拓也特任研究員、お茶の水女子大学の吉田隆太特任助教からなる研究グループは、他生物の巣穴や体内に間借りする珍しい甲殻類を発見し、新種として記載しました。この甲殻類は、端脚目(たんきゃくもく)マルハサミヨコエビ科の一種で、千葉県(館山)に生息するゴカイ類の巣穴や、静岡県(下田)に生息するホヤ類の体内から発見されました。マルハサミヨコエビ科に属するヨコエビ類は、ホヤ類やカイメン類などに寄生することは知られているものの、それ以外の宿主からはほとんど見つかっていませんでした。本研究グループは、ゴカイ類の巣穴やホヤ類の体内からマルハサミヨコエビ科の一種を見出し、形態的な比較と、系統関係から、本種を新種Leucothoe vermicola Kodama, White, Hosoki & Yoshida, 2022(和名:ユキレンゲマルハサミヨコエビ)として記載しました。これまで見過ごされてきたゴカイ類の巣穴にも、蓮華のような可愛らしい色に、雪の結晶を散りばめたような模様のヨコエビが間借りしていることがわかりました。今後、いろいろな生物の巣穴や体内をよりよく観察することで、様々な間借り生活を営む甲殻類が発見されるかもしれません。
 この研究成果は2022年10月13日付で英国の学術雑誌「Systematics and Biodiversity」に掲載されました。



【研究の背景】

 エビ類やカニ類等を含む甲殻類には、自分で巣を造らずに、他生物の巣穴の中や体内に間借りして生活する種が多く存在しており、彼らの宿主となる分類群もまた多岐に渡ることが知られています。宿主のなかの多毛類(ゴカイの仲間)やその巣穴への寄生や共生は、主にカニ類等の十脚目甲殻類において報告されていますが、それ以外の甲殻類が多毛類やその巣穴に寄生・共生する例はこれまでごく限られていました。
 端脚目は、1万種以上を含む、甲殻類最大級の目の一つであり、その中にはやはり他生物やその巣穴に寄生・共生して生活する種が数多く知られています。マルハサミヨコエビ科は、体長1 cm以下程度の端脚類の一群であり、世界に約200種が知られています。本科の多くの種は寄生・共生性であることが知られています。本科はこれまで、ホヤ類、カイメン類、二枚貝類などの体内に生息することがしばしば報告されてきましたが、それ以外の宿主からはほとんど見つかっていませんでした。
 近年、著者らは、静岡県(下田)ならびに千葉県(館山)の沿岸の浅海域からマルハサミヨコエビ科の不明種を発見しました。静岡県(下田)ではホヤ類の体内から得られ、千葉県(館山)では、フサゴカイ類の巣穴の中から得られました。マルハサミヨコエビ科のヨコエビがフサゴカイ類の巣穴に寄生・共生する報告例は過去になく、世界初の報告となります。

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ユキレンゲマルハサミヨコエビが宿主のフサゴカイ類の上に定位している様子


【研究の成果】

 採集されたヨコエビを詳細に種同定したところ、既知のいずれの種にも該当しない特徴を持つ未知の種(未記載種)であることが判明しました。そこで本論文では、このヨコエビを新種Leucothoe vermicola Kodama, White, Hosoki & Yoshida, 2022として記載しました。本種の体表には雪の結晶のような小さな白い斑が散りばめられ、蓮華のような赤紫色の大きな模様があることが特徴的です。そこで、この体色にちなみ、本種の和名を「ユキレンゲマルハサミヨコエビ」と提唱しました。本種の記載に際しては、分子系統解析等に用いられるミトコンドリアCOI領域ならびに18S rDNA領域の塩基配列を決定し、近縁種と遺伝的にも区別されることを確認しました。
 また、本種を宿主のフサゴカイ類と共に1週間飼育しました。本種を宿主のフサゴカイ類から人為的に引き離して観察したところ、何度引き離しても、宿主を探して歩き回り、宿主の触手に触れると、触手を伝ってフサゴカイ類本体のもとに戻る行動が確認されました。このことから本種は偶発的にフサゴカイ類の巣穴に入っていた訳では無く、積極的にフサゴカイ類に寄生・共生する種だと考えられました。ゴカイ類に寄生・共生するヨコエビ類が宿主のもとに戻る行動を動画に収められたことも世界で初めての成果です。


【今後の展望】

 今回記載されたユキレンゲマルハサミヨコエビがフサゴカイ類を宿主として利用していることはわかりましたが、このヨコエビが何を食べているのか、いつ頃繁殖するのか、宿主のフサゴカイ類に対して利益をもたらすのか害をもたらすのかなど、詳しいことは何も分かっていません。また、本種はフサゴカイ類の巣穴からだけでなく、ホヤ類の体内からも発見されました。そのため、フサゴカイ類の巣穴に生息する場合とホヤ類の体内に生息する場合とで、同じ種でも利用する宿主が違えば生活史が全く異なる可能性もあります。
 また、今回のユキレンゲマルハサミヨコエビが発見された場所は、必ずしも調査が困難な生息場では無く、比較的調査の行いやすい浅海域です。今回の結果は、調査が容易な浅海域であっても、まだまだ未知の種が生息していることを意味しています。今後さらなる調査や分類学的研究によって、日本沿岸域における生物多様性を明らかにしていく必要があります。とりわけ、生物の巣穴の中や体内については調査が十分ではない可能性が高いです。今後、いろいろな生物の巣穴や体内をよりよく観察することで、様々な間借り生活を営む生物たちが発見されるかもしれません。


【掲載論文】
Leucothoid amphipod and terebellid polychaete symbiosis with description of a new species of Leucothoe Leach, 1814 (Crustacea: Amphipoda: Leucothoidae).

【著者】
Masafumi Kodama1, Kristine N. White2, Takuya K. Hosoki3, 4, Ryuta Yoshida5
1Faculty of Fisheries, Kagoshima University
2Department of Biological and Environmental Sciences, Georgia College & State University
3Ecological Genetics Laboratory, National Institute of Genetics
4Department of Genetics, The Graduate University for Advanced Studies
5Tateyama Marine Laboratory, Institute for Marine and Coastal Research, Ochanomizu University

【掲載誌】
Systematics and Biodiversity, 20, 2118389.

【DOI】
10.1080/14772000.2022.2118389