トップページトピックス八代海海底断層群の一部で応力が集中し海水中ラドン濃度の高い場所を発見

八代海海底断層群の一部で応力が集中し海水中ラドン濃度の高い場所を発見

[記事掲載日:24.04.18]

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ポイント

・八代海海底断層群において,熊本地震以降地震活動が増え応力が集中している領域を発見した。
・同じ領域で海底付近の海水中には断層由来と思われるラドンが濃集していることを発見した。
・この領域は地震準備段階にあると考えられる。
・海中でもラドン濃度による地殻活動のモニタリングの可能性がみえた。

概要


 鹿児島大学総合教育機構共通教育センター川端訓代准教授と大学院理工学研究科北村有迅助教は,台湾国立中央大学の馬國鳳教授や東京大学の角森史昭助教らとの共同研究により,八代海の海底活断層群において,一部で平成28年熊本地震以降地震活動が増え応力が集中している領域を発見しました。また,同領域の海底付近の海水中には断層由来と思われるラドンガスが濃集していることを発見しました。今回これらの異常が検出された領域では,平成28年熊本地震発生後に応力が集中し歪が蓄積されており,Sランク活断層である日奈久断層帯八代海区間の中でも特に注意すべき領域であることがわかりました。

本研究成果は,英科学雑誌「Scientific Reports」に2024年4月15日付で掲載されました。

背景


 八代海には海底断層群が存在し,平成28年熊本地震(以降「熊本地震」)の震源断層の一つである日奈久断層帯の八代海区間に該当します(図1)。日奈久断層帯は北から高野-白旗区間,日奈久区間,八代海区間と区分されており,熊本地震では高野-白旗区間でマグニチュード6.5の前震が発生しました。八代海区間は政府の地震調査研究推進本部による長期評価が公表された活断層のうち糸魚川-静岡構造線断層帯(中北部区間)に次いで高い発生確率(今後30年以内にほぼ0%〜16%)となっており,西日本で最も地震発生が懸念される断層のひとつです。
 熊本地震の発生を受け,鹿児島大学,東京大学,北海道大学の研究チームは国立研究開発法人海洋研究開発機構の学術研究船「白鳳丸」共同利用研究航海による海底地すべり調査を主とする地震の影響調査を八代海において下記の通り実施しました。
  航海名:白鳳丸KH-18−3研究航海
  課題名:八代海における海底地すべり履歴の解明とその底質環境マスフラックスへの影響
  期間:平成30年7月27日~平成30年7月30日
  主席研究者:北村有迅(鹿児島大学)
 航海では,ピストンコアラーおよびマルチプルコアラーによる堆積物採取,サブボトムプロファイラーによる地層探査が実施されました。水の化学分析を担当した川端准教授と角森助教は堆積物コアの直上水すなわち海底表層の海水を採取し,その水中ラドン濃度を測定しました。海底付近の海水中ラドン濃度の測定は世界初と思われます。ラドンは地殻中に存在する希ガスで水への溶解度が高いため,断層帯のように間隙が多い場所では岩石や堆積物と水の接触面積が大きくなるために濃度が上がる傾向があります。地殻に歪がたまり新たな割れ目が形成されるとさらに濃度は上昇すると考えられます。
 また,台湾国立中央大学の馬國鳳教授らのチームは八代海における地震活動の地震学的解析を行いました。航海調査地域をpoint 1〜7に細分化してそれぞれの領域での地震活動,地震モーメント解放量,b値を熊本地震の前後で比較しました(図2)。b値は大きな地震の前に低くなる例が多く報告されています。

成果


 地震学的解析により,全体として熊本地震後の方が地震活動が活発な傾向がみられました。特にpoint 2および3において熊本地震前に比べて熊本地震後にb値が低く,地震モーメント解放量が大きくなっていることが明らかになりました(図2, 3)。また,海水中のラドン濃度分析の結果,point 2, 3近傍領域に高いラドン濃度異常が認められました(図4)。

意義


 日奈久断層帯八代海区間では,熊本地震以降北東部の領域で地殻活動が活発化し応力が集中した結果歪が蓄積していると考えられます。この歪により地殻に新たに形成された割れ目が,間隙流体へのラドンの放出を促進しラドン濃度の高い流体となります。この流体が断層帯を流路として上昇し,直上の海水でのラドン濃度異常として検出されたと考えられます。規模の大きい地震の前震段階でb値が下がることがあることも含めると,この領域での地震の準備過程が進行していると考えられます。この一連の発見から,海底下から湧出する流体のラドン濃度が陸域の地下水等と同様に地殻活動の指標として有用であることが示されました。本研究の結果は,今後の地震予知や地殻活動予測に大きな貢献が期待されます。

論文情報


タイトル     Radon concentration in seawater as a geochemical indicator of submarine fault activity in the Yatsushiro Sea, Japan
著  者     Kuniyo Kawabata1*, Fumiaki Tsunomori2, Yujin Kitamura3, Yen‐Yu Lin4,5,6, Chung‐Han Chan4,5,6 & Kuo‐Fong Ma5,7
所  属     1. 鹿児島大学総合教育機構共通教育センター
         2. 東京大学大学院理工学研究科附属地殻化学実験施設
         3. 鹿児島大学大学院理工学研究科
         4. Department of Earth Sciences, National Central University
         5. Earthquake-Disaster and Risk Evaluation and Management (E-DREaM) Center, National Central University,
         6. Graduate Institute of Applied Geology, National Central University
         7. Institute of Earth Sciences, Academia Sinica
雑  誌     Scientific Reports
公開日      2024年4月15日

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図1. 八代海周辺の活断層の分布図

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図2. 地震学的解析をおこなった領域(point 1〜7)

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図3. 熊本地震の前後でのb値,地震モーメント解放量,地震回数

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図4. ラドン濃度測定結果。PC:ピストンコア,MC:マルチプルコア

本件に関する問い合わせ先
 鹿児島大学総合教育機構共通教育センター・准教授・川端訓代(kuniyok@km.kagoshima-u.ac.jp)