トップページトピックス鹿児島大学 防災シンポジウム「桜島の火山防災と地域コミュニティ―『桜島火山爆発総合防災訓練』学生発表から考える―」を開催
鹿児島大学 防災シンポジウム「桜島の火山防災と地域コミュニティ―『桜島火山爆発総合防災訓練』学生発表から考える―」を開催
[記事掲載日:24.08.30]
8月9日に鹿児島市桜島公民館大研修室において、鹿児島大学防災シンポジウム「桜島の火山防災と地域コミュニティ―『桜島火山爆発総合防災訓練』学生発表から考える―」(主催:国立大学法人鹿児島大学、共催:鹿児島市、桜島地域コミュニティ協議会連絡会)を開催しました。
前日8日夕方にM7.1、最大震度6弱の「日向灘の地震活動」があり、防災機関関係者の参加が少なくなったものの、大規模噴火時の避難行動の主体となる桜島住民を中心に、鹿児島市や鹿屋市等の自治体関係者、教育研究関係者、学生等、計87名が参加しました。
開会にあたり、鹿児島大学の武隈 晃 理事・副学長(教育担当)から主催者挨拶があり、令和6年度で55回目となる「桜島火山爆発総合防災訓練」に、鹿児島大学は平成30年度から参画しており、本学共通教育科目「防災フィールドワーク」受講生20名前後が、毎年、鹿児島市職員の業務補助を行い、「防災啓発訓練」の場で桜島防災研究を発表していることが述べられました。そして、地域に根差す総合大学として、桜島住民を始めとする鹿児島市の方々との交流も行い、地域に貢献できることへの感謝の気持ちが伝えらえました。
(武隈 晃 理事・副学長(教育担当)の開会挨拶(*ビデオメッセージ))
続いて、共催の鹿児島市から山口 裕史危機管理防災局次長の挨拶があり、大正噴火から110年の節目を迎える今日まで、鹿児島市では大規模噴火に備えて、桜島火山防災対策を強化していることが述べられました。また、鹿児島大学が市セーフコミュニティ防災・災害対策委員会に貢献し、学生も桜島火山爆発総合防災訓練で尽力していることへの感謝が伝えられ、これらの延長にある本日のシンポジウムを契機に、住民、行政、防災機関が一体となった火山防災対策の充実につながることへの期待が表されました。
(鹿児島市 山口 裕史危機管理局次長の挨拶)
シンポジウム開催の趣旨説明および基調講演では、岩船昌起教授(総合教育機構共通教育センター)が、桜島火山対策を進めるに当たり、避難行動の主体である桜島住民の実態把握が重要であるが、①平成28年度以降、鹿児島市による桜島全住民対象のアンケート調査が行われていないこと、②2019年および2022年の市セーフコミュニティ防災・災害対策委員会でのアンケート調査では、桜島住民約3,500人中52人および65人のサンプル数しかない項目があること、③鹿児島大学で平成30年度から行っている学生調査では、1集落当たり50~100人のサンプル数(集落全人口の10~30%程度)を得て、集落単位での火山防災にかかわる住民実態が成果として蓄積されていること等が述べられました。
(総合教育機構共通教育センター 岩船 昌起教授による趣旨説明および基調講演)
そして、授業等を通じて岩船教授に指導・監修された学生発表3題が、次の通り、報告されました。
① 「地域防災学実践」学生「避難行動等アンケート調査―平成28年度市調査との比較―」
A上山未羽(工学部1年)・鈴木実凰(歯学部1年)・LE THI QUE ANH(農学部4年)「桜島白浜町での住民の実態―要配慮者「逃げ遅れ」と島外への車持ち出し―」
B 新屋敷圭人(理学部1年)・西廣琴音(農学部1年)・中村和奈(法文学部1年)「東桜島町と野尻町での避難と非常持出品―アンケート調査による住民実態の把握―」
② 梶原こころ(理学部 3年)「桜島大噴火における緊急安全確保時の避難を考える」
①「地域防災学実践」調査では、桜島白浜町、東桜島町、野尻町で行われ、
1.「立退き避難」支援を希望する住民が2割程度存在し、避難行動要支援者以外も数多くいること
2. 災害時に頼れる人が「いない」「同地区にいない」が7割以上存在すること
3. 自家用車持ち出し希望がフェリー積載限度台数をはるかに超えて存在すること
4. 「集落避難港にフェリーが来る」と古い情報を信じている住民が6割程度いること
5. 希望する避難経路が「車での陸路」が多かった平成28年度市調査と比べて、令和6年度学生調査では「フェリー経由」が大幅に増えたこと
6. 住民の非常持出品の量と種類が、市避難所の備蓄品の量と種類を考慮していない内容になっていること
等が明らかとなりました。
学生発表①-A |
学生発表①-B |
② 梶原さんは、桜島大噴火時には、地震や津波の発生も予想されており、標高10mより低い県道桜島港黒神線が不通になった場合での緊急時の代替ルートが必要と考え、「桜峰校区」と「桜洲校区」の桜島人口密集地域内で具体的に検討しました。1.通行実験、2. 道路幅の実測、3. 実測データと市道路台帳との比較等を行いつつ、「二俣避難港-桜島フェリーターミナル」間で標高10m以上の経路が確認され、今後、日常的な使用や訓練での活用等を通じて、また、より安全な他の道路の整備も含めて、「緊急安全確保」時の経路として検証していくべきであることが提言されました。
(学生発表②)
総合討論では、まず、学生発表に基づきつつ、「全島避難時の『避難行動』と『避難生活』への住民の不安と課題」「桜島住民の実態把握の現状と課題」「アンケート調査における妥当なサンプル数」「桜島住民避難計画におけるタイムライン崩壊時の『緊急安全確保』計画の必要性」「桜島外在住親族の桜島避難者支援の課題」「要配慮者把握と個別避難計画の課題」について、パネリストから発言がありました。また、「与論島での個別避難計画対象者の選定方法」「地域運営でのコミュニティ・個人の重要性」「鹿屋市における桜島大規模噴火対策の現状と課題」「火山観測を警報等の発出に結びつける現状と課題」等について、コメンテーターから発言がありました。
(総合討論の様子)
今回のシンポジウムでは、大規模噴火時の避難行動の主体となる桜島住民を中心に、鹿児島市等、自治体の防災担当者、防災関係機関関係者等が一つの場に集い、学生発表で提示されたデータ(根拠)に基づき、桜島大噴火時の住民対応をさまざまな観点から考察して、共通認識を得られたことが、大事な成果として注目できます。特に、Ⓐ鹿児島市で近年改善されてきた「桜島大噴火時の住民避難計画」についての桜島住民への周知が不十分であること、そのためには、Ⓑ桜島住民個人・コミュニティの実態に基づき、丁寧なリスク・コミュニケーションが必要なこと、Ⓒ住民避難計画において緊急安全確保時の対策が欠如していること等が明確にされました。そして、今後も、鹿児島大学では、桜島のコミュニティおよび住民等「逃げる人の実態」を重視するというアプローチで、桜島大噴火時の住民避難計画の改善やその後の避難生活の事前準備計画の立案に貢献し、関係団体と連携して、シンポジウムあるいはワークショップを今後も実施して、桜島住民とのリスク・コミュニケーションを行っていくことが確認されました。
最後に、閉会挨拶では、共催団体である桜島地域コミュニティ協議会連絡会の竹ノ下武宏会長(兼 鹿児島市桜島支所長)が、鹿児島市等の行政が桜島住民避難計画や訓練等の仕組みをつくる人、鹿児島大学が「外から視点」でその仕組みを考える人であるとすると、今回のシンポジウムは、避難する人である桜島住民がその仕組みを考えて理解するための大事な機会であったことが述べられました。そして、シンポジウム等の機会を今後も設けて、「自分の身は自分で守る」ことを基本に、みんなで何ができるかと考え、「つくる人」「考える人」「避難する人」等の間での「距離」を近づけ、桜島大規模噴火にしっかりと備えたい旨が語られ、シンポジウムが締めくくられました。
(桜島地域コミュニティ協議会連絡会 竹ノ下 武宏 会長の挨拶)
(シンポジウムの概要(当日配布されたチラシより)