トップページトピックス【医歯研】安全な抗うつ薬の開発に期待~PACAP受容体遮断薬によりマウスのうつ状態を改善~

【医歯研】安全な抗うつ薬の開発に期待~PACAP受容体遮断薬によりマウスのうつ状態を改善~

[記事掲載日:25.09.24]

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 医歯学総合研究科の栗原 崇 准教授、大阪大学、富山大学、広島大学における研究チームは、うつ病の動物モデルマウスにおいて、下垂体活性化ポリペプチドPACAPの特異的な受容体であるPAC1受容体遮断薬「PA-915」が、1回の投与で即時的かつ持続的に抗うつ作用を示すことを明らかにしました。
 PACAPは、神経の保護や調節に関与することが知られている神経ペプチドで、脳に広範囲に存在し、精神的なストレスにより発現量が増加することが報告されています。PACAPはPAC1受容体と結合することにより生理作用を示すため、この結合を阻害するために使用したのが「PA-915」です。

 日本におけるうつ病の生涯有病率は約7%とされ、社会的損失が非常に大きな疾患です。ストレスの多い出来事を経験した人は、うつ病を発症する可能性が高くなります。現在のうつ病の薬物療法は、奏効するまでに数週間かかることや、一部のうつ病患者では治療抵抗性があることから、安全で即効性の高い抗うつ薬の開発が期待されています。
 本研究では、慢性ストレス負荷マウスに「PA-915」を投与したところ、不安様行動、うつ様行動、認知機能障害が速やかに改善しました。また、無快感症状(喜びや興味を感じられなくなる症状)は長期にわたり持続的に改善しました。さらに、感情調節や認知機能などの機能を担っている内側前頭前皮質(mPFC)の中でも、シナプスの形成や神経伝達に重要な樹状突起スパインの、密度の低下も改善しており、神経機能の改善を示唆する効果が得られました。
 特筆すべきは、「PA-915」が非ストレスマウスには行動変化を及ぼさない点です。これは、既存の抗うつ薬とは異なる作用機序を示唆するとともに、高い安全性を期待させるものです。


 本研究成果は、新規抗うつ薬開発のブレイクスルーとなる可能性を秘めており、安全で、即効性と持続性を兼ね備えたうつ病の薬物治療の開発につながることが期待されます。



20250924pacap.jpg★研究の詳細についてはこちらをご覧ください。