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【理工学】-桜島の磯から新種のカニを発見- 漆黒のヨウガン間隙に暮らす朱色のカニ

[記事掲載日:21.10.04]

 本学大学院理工学研究科上野大輔准教授らの研究チームは、桜島溶岩なぎさ公園の磯で、溶岩の下深くに暮らす珍しい新種のカニを発見、報告しました。鹿児島市街地から目と鼻の先である桜島の、それも公園の磯にこのような珍しいカニが暮らす事自体、大変貴重な事例となります。

 

 本種は、ワタリガニ科ハイガザミ属に属し、Catoptrus lavicolus(カトプトラス・ラービコラス)、標準和名:ヨウガンハイガザミと命名された。このカニは桜島沿岸からしか見つかっておらず、体色や形態は沖縄県伊江島の海底洞窟内のみに生息するイエジマガマガザミによく似る。本成果は、鹿児島大学と琉球大学の共同チームにより、日本甲殻類学会発刊の国際誌「Crustacean Research」のオンライン版にて、2021年9月29日付けで発表されました。

 

 この成果は、上野 大輔(鹿大院理工学研究科)と成瀬 貫 (琉球大学熱帯生物圏研究センター) のチームによる共同研究により得られたもの。2020年5月、上野が桜島溶岩なぎさ公園の磯で生物調査を行った際、永吉 健志郎 (鹿大院理工学研究科・修士課程学生・第1発見者) が溶岩下に潜む本種の雌個体を発見した。上野が採集、観察したところ、新種である可能性が考えられたため、亜熱帯域のカニ類の分類に詳しい成瀬に標本を送り、議論を経て新種と特定、記載。溶岩海岸にのみ生息する事と、時おり桜島より噴き上がる溶岩によく似た鮮やかな朱色の体色両方に因み、Catoptrus lavicolus(カトプトラス・ラービコラス)、標準和名:ヨウガンハイガザミと命名されました。

 

 まず、鹿児島市街地からもほど近い、桜島の磯に珍しい新種のカニの生息が確認されたという点で、発見意義は大きい。新種ヨウガンハイガザミは、甲羅の幅約2.3 cm (はさみを広げた大きさ約6cm) で、ワタリガニ科ハイガザミ属に属する。本属には岩の隙間など暗がりを棲み場所とする種が多く、中には海底洞窟に暮らす希少種も知られます。ヨウガンハイガザミは、桜島の磯に積もった溶岩の下からのみ見つかっており、体色や形態はイエジマガマガザミという種によく似て近縁であることが示唆されます。イエジマガマガザミは、沖縄県伊江島の海底鍾乳洞内のみに生息する希少な洞窟性種として知られますが、遠く離れ気候帯も違う伊江島と桜島の全く異なる環境下に、よく似た種が生息するという点も大変興味深い。また、イエジマガマガザミが離島の海底鍾乳洞内というアクセス困難な場所に生息するのに対し、ヨウガンハイガザミは誰でもアクセス容易な桜島の磯に生息するのも、対照的で面白い。錦江湾の豊かさと、環境の特殊性、希少性を示す好例であり、また、本種も溶岩海岸にのみ分布する希少種である可能性があります。保全も視野に入れた、今後の調査が必要になります。

 

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桜島の磯から発見、記載された新種ヨウガンハイガザミの雌成体、甲羅の幅約2.3 cm。
(※写真は上野大輔提供)

 

 

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ヨウガンハイガザミを発見した永吉健志郎 (鹿大院理工学研究科・修士課程)とその拡大写真
 (※写真は鹿児島大学・永吉健志郎提供)
                             
 
 
 

【タイトル】

Tohru Naruse and Daisuke Uyeno. 2021. Catoptrus lavicolus, a new species of swimming crab (Crustacea, Brachyura, Portunidae) from shallow subtidal lava rock field at Sakurajima, an active volcano in Kagoshima, southern Japan. 

【掲載誌】

Crustacean Research 50: 107–118. 

【DOI】

https://doi.org/10.18353/crustacea.50.0_107