【理工学】~隠れ続けて190年~ ゴマサバから新種の"珍"寄生虫を発見
[記事掲載日:21.09.24]
笠沙片浦漁港に水揚げされたゴマサバ
大学院理工学研究科の上野 大輔准教授らの研究チームは、鹿児島県南さつま市笠沙町で漁獲されたゴマサバから、新種の寄生虫を発見・報告しました。この成果は、長澤 和也名誉教授 (広島大学) との共同研究によるものです。上野准教授が標本の採集と観察を行い、水産魚類の寄生虫に詳しい長澤名誉教授との議論を経て、新種として記載・報告を行いました。
本種は微小な甲殻類の1種 (メスの体長約5 mm、オスは未発見)で、ゴマサバの頭部を構成する骨の中を通る細い管、側線の内部を棲み場所とする珍しい寄生虫です。笠沙片浦漁港へ水揚げされたゴマサバを調査したところ、約50匹に1匹という大変低い確率で見いだされました。
ゴマサバは言うまでも無く重要な水産資源であり、各国で漁獲・利用されています。そのため、寄生虫についても古くから研究がなされ、多くの寄生虫の存在がすでに明らかとなっていました。
そうした中で、今回全く新しい寄生虫が発見されたことは大変珍しい事例です。ゴマサバが種として記載されたのは1831年ですが、それに遅れる事190年を経ての発見となりました。
この新種の寄生虫は、鹿児島県の海洋生物研究の進展に多大に貢献している伊東 正英氏(笠沙町漁業協同組合)に因みColobomatus itoui (コロボマータス・イトウアイ)と命名されました。また、極めて隠蔽的な場所に隠れ住むこと、多くの寄生虫学者の目に触れることなく現在に至った隠れ上手な性質にちなみ、標準和名にはカクレンボウが提唱されました。大変珍しい寄生虫であり、鹿児島県の海の豊かさを象徴する一例と位置付けることができます。
“サバ“の寄生虫と言えば線虫類のアニサキスが有名ですが、甲殻類であるカクレンボウとは全く異なる系統に属します。カクレンボウは人には無害で、食べても腹痛の原因にはなり得ないため、食品衛生上の心配に繋がることは全くありません。
新たな寄生虫の発見というと、魚の健康状態や環境悪化を懸念する声も上がるかもしれませんが、これは寧ろ海の環境、魚の健康状態共に良い証とも考えられます。人が食べておいしい魚は、寄生虫にも美味かもしれません。サバからは、他にもサバメダマジラミ、サバウオジラミと言った甲殻類の寄生虫も見つかっていますが、いずれも人には無害です。
本成果は、9月16日付の英国の国際誌「Systematic Parasitology (システマティック・パラサイトロジー)」(オンライン版)に掲載されました。
新種カクレンボウの雌成体(体長約5 mm)
【タイトル】
Three species of copepods parasitic on the blue mackerel Scomber australasicus Cuvier (Actinopterygii: Perciformes: Scombridae) from southern Japan, with description of a new species Colobomatus itoui n. sp. (Cyclopoida: Philichthyidae).
【著者】
Daisuke Uyeno & Kazuya Nagasawa.
【掲載誌】
Systematic Parasitology, published online.
【DOI】