トップページトピックス【理工学】海苔の油で脂肪肝改善!肝臓のアラキドン酸とリノール酸代謝に及ぼす影響を解明

【理工学】海苔の油で脂肪肝改善!肝臓のアラキドン酸とリノール酸代謝に及ぼす影響を解明

[記事掲載日:23.12.18]

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 本学大学院理工学研究科 飯笹さやか特任助教を中心に、佐賀大学、西九州大学等の研究者が加わる共同研究グループが、スサビノリから抽出した脂質成分SNL(Susabinori lipids)が肝臓に及ぼす影響を遺伝子レベルで解明しました。SNLが持つ抗脂肪肝作用に関わる遺伝子と代謝経路が明らかになり、2023年12月12日、米国のオンライン学術誌『PLOS ONE』(プロスワン)に掲載されました。
 本研究の成果は、新しい脂肪肝治療の提案と、廃棄海苔の有用性向上に貢献すると考えられます。


研究概要

養殖海苔の一種である紅藻アマノリ属スサビノリ(Pyropia yezoensis)には、生理作用を示す様々な機能性成分が含まれています。飯笹らの共同研究グループは、スサビノリから抽出した脂質成分SNLの生理機能に注目してきました。SNLにはエイコサペンタエン酸(EPA)が多く含まれており、SNLを摂食した肥満モデルマウスdb/dbでは脂肪肝の改善が報告されています。SNLの有用性を高めるためには、SNLがなぜ脂肪肝に効いたのかを調べる必要があります。
飯笹らは、SNLを摂食したdb/dbの肝臓で、発現が回復する15の遺伝子を特定し、それらが、アラキドン酸とリノール酸の代謝経路に関わることを明らかにしました。実際に、SNLを摂食したdb/dbの肝臓では、アラキドン酸やリノール酸量が低下し、EPAの増加が確認されました。アラキドン酸やリノール酸は、コレステロール値や抗炎症反応に関わる生理活性物質エイコサノイドの原料として知られています。そして近年、食事から摂ったEPAもエイコサノイドの原料になることが報告されています。SNLの摂食により、アラキドン酸とリノール酸代謝が変化したことで、エイコサノイドの量や種類が変化し、その影響で脂肪肝が改善したと考えられます(図参照)。
 生活習慣病のひとつである脂肪肝は、肝硬変や肝臓がんの発症原因でもあります。本研究で特定された15の遺伝子やSNLの肝臓における作用機序は、脂肪肝治療の新しい糸口になると期待されます。また、有明海を有する九州には海苔の産地が多く、生産量は全国の40%以上を占めています。しかし、見た目等の問題から廃棄される海苔も多いのが現状です。廃棄海苔からSNLを抽出し、食品由来の安全な抗脂肪肝サプリメントとして活用することは、地域産業の活性化やSDGs促進に繋がります。本研究成果は、これらの産業モデル実現へ向けた一助にもなると考えられます。

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掲載論文

【発表雑誌】PLOS ONE (2023年12月12日掲載)
【論文名】Identification of genes regulated by lipids from seaweed Susabinori (Pyropia yezoensis) involved in the improvement of hepatic steatosis: Insights from RNA-Seq analysis in obese db/db mice
【著者】Sayaka Iizasa, Koji Nagao, Keisuke Tsuge, Yukio Nagano, Teruyoshi Yanagita
【掲載URL】https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0295591

研究体制

本研究は、鹿児島大学大学院理工学研究科の飯笹さやか特任助教を中心に、佐賀大学農学部の永尾晃治教授、佐賀県工業技術センターの柘植圭介技師、佐賀大学総合分析実験センターの永野幸生准教授、西九州大学健康栄養学部の柳田晃良特任教授(佐賀大学農学部招聘教授)らによって実施されました。本研究はJSPS科研費:基盤研究(C)16K00890、23K01976、23580173の助成を受けたものです。