トップページ大学紹介令和元年度学位記授与式(卒業式・修了式)告辞(令和2年3月25日)

令和元年度学位記授与式(卒業式・修了式)告辞(令和2年3月25日)

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 現在、全国的に新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な状況となっており、本学としましては、3月中が国内感染の拡大を防止するうえで重要な時期であることを考慮し、大変残念なことではありますが、鹿児島県総合体育センター体育館で一堂に会しての式典を実施することは適当でないと判断するに至りました。   
 卒業生・修了生の皆様にとって人生の節目としてかけがえのない式典であり、またご家族の皆様もその晴れの日を楽しみにしておられたことと存じます。皆様方のお気持ちを思いますと、苦渋の選択でございましたが、皆様の健康と安全を保ち、新年度からの新たな進路で無事ご活躍いただくことを第一に判断いたしました。
 
 さて、本日ここに、令和元年度の卒業式・修了式を、例年とは異なった簡素な形で挙行いたします。学部を卒業される1,920名の皆さん、大学院を修了される576名の皆さん、誠におめでとうございます。鹿児島大学教職員を代表して、心からお祝い申し上げます。また、皆さんをこれまで励まし支えてくださったご家族の方々にも、お祝いと感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。
 
 鹿児島大学は、昭和24年(1949)5月に創設され、昨年・令和元年に70周年を迎えました。本日卒業・修了する皆さんは、奇しくも映えある鹿大70周年記念生として巣立たれるわけです。また、改元の時を迎え、平成から令和へと年号が変わる歴史の節目にもあたり、令和初めての卒業・修了を迎えたことにもなります。さて、鹿児島大学におきましては、創立以来、70年の間に巣立った卒業生は、11万名を超しています。本学の大学憲章では、「自主自律と進取の精神を培い、自ら困難に立ち向かい、地域社会や国際社会で活躍しうる人材を育成する」と謳っており、多くの卒業生が、現在も国内外の様々な分野で活躍をし続けています。このような多くの先輩方のように、本日卒業・修了する諸君にも真のグローカル人材として羽ばたいて欲しいと願っています。また、卒業生・修了生の中には、多くの外国人留学生の皆さんも含まれています。学士課程10名、大学院修士課程26名、大学院博士課程22名、合わせて58名に卒業証書・学位記ならびに修了証書を授与することができました。言葉や習慣の違いを克服して、目的を達成された皆さんの努力に心から敬意を表します。今後も、鹿児島大学および鹿児島の人々との絆を保ち、鹿児島と母国との架け橋として、大いに活躍されますことを祈念いたします。
 
 さて、鹿児島大学は、“進取の気風にあふれる総合大学”を目指しています。進取の気風とは“自ら困難な課題に果敢に挑戦する態度”のことで、本学に所属する学生、教職員のすべての構成員が、それぞれの立場と持ち場で、新たな課題に挑戦する気風にあふれていることを意味します。
 
 鹿児島中央駅を降り立ちますと、「若き薩摩の群像」があるのを皆さんは知っていると思います。ちなみに、この像は、本学名誉教授で、日本芸術院会員、文化勲章受賞者でもあられる中村晋也先生の作であります。今から155年前に、前々年に薩英戦争を行い、西洋文明がはるかに進んでいることを知った薩摩藩は、西洋の進んだ学問や科学技術、産業、教育また社会の仕組みなどを学ぶために、国禁を犯して多くの若者を英国へ留学させました。この中には、のちに初代文部大臣となった森有礼もいました。明治維新後に文部大臣となった森は、総理大臣伊藤博文を説得し、日本の将来にとって教育がいかに大切かを説き、義務教育の開始とともに帝国大学の創設を行いました。当時の国家予算の半分近くのお金をかけて教育に全力投球をして国家の基礎を作ったわけです。その他の留学生たちも異国での様々な困難を乗り越え、帰国後は、我が国の近代化に大きな足跡を残しました。鹿児島大学では、これら鹿児島の先人たちのチャレンジ精神に学び、この「進取の精神」を備えた人材を育成することを教育の基本理念とし、実践しています。皆さんは、本学での「進取の精神」を尊ぶ学びを修め、自らの人間力と専門性を深めてきました。このような鹿児島大学での学びを誇りとして、自信と勇気を持って、日本および国際社会の様々な課題に果敢に挑戦し、世界の平和と繁栄のためにひとりひとりの役割を果たして下さい。
 
 次に、稲盛和夫・京セラ株式会社名誉会長・本学名誉博士のことに触れたいと思います。稲盛氏は、鹿児島市に生まれ育ち、鹿児島大学工学部をご卒業ののち、1959年に京セラ株式会社を創業され、1984年には第二電電のちのKDDIを設立され、さらには日本政府からの要請を受け、2010年に一度は破綻したJAL(日本航空)の再建を約三年の短期間で見事に成し遂げられた、本学が誇りとする卒業生(OB)です。稲盛和夫氏は鹿児島大学の学生諸君へ、次のような言葉を贈られています。
 
どんな境遇に遭遇しようとも
どれほど厳しい環境に置かれようとも
挫けることなく
常に明るい希望を持ち
地道な努力を一歩一歩たゆまず続けていくならば
自分が思い描いた夢は
必ず実現する。
 
No matter how difficult the adversity,
No matter how severe the environment,
If you never give up,
Always remain hopeful and positive, and
Continuously accumulate steady efforts every day,
Your dreams will surely come true.
 
 この言葉は、本学キャンパス内に建立された稲盛氏の立像の銘板に刻まれています。折に触れて、思い出してください。
 
 令和の時代を迎えて、国内外において、私たち人類は、様々な課題を抱えるに至っています。国際的には、地球温暖化に伴う環境問題と多彩な自然災害、世界的な人口急増と食料問題、地域紛争、政治的緊張や貧困格差の拡大などに伴って発生した地球規模の難民問題、国境を越えての感染症の脅威、また、国内においても、極端な少子高齢化社会の到来、国家財政状況の悪化、さらに自然災害の頻発とその復興など、解決すべき課題が山積しています。皆さんは、これら諸問題に対峙すべく、鹿児島大学で修得した知識や技術に加え、課題解決力、企画力、コミュニケーション力、ならびにリーダーシップを遺憾なく発揮し、これからの日本社会ならびに国際社会の発展に力強く貢献して戴きたいと思います。
 
 最後に、皆さんに、私が座右の銘としている「生死未断(せいしいまだたたずして) 不可妄陳(もうちんすべからず)」という言葉を贈ります。これは、中国から渡来の僧、隠元禅師の一句で、「人間の価値というものは棺(ひつぎ)を覆ったのちに定まるものであり、生死(いきしに)が未だ定まらないうちに妄(みだ)りに陳べてはいけない」という教えです。人生は、良いことばかりではなく、試練の場面もあろうかと思います。苦しいと思う時にも、高らかに、おおらかに善意を失わず、常に前向きに、自分自身や人を包めるようにと心に銘じて生きていきたいものです。
 
 皆さんが、社会を力強く牽引するリーダーとして活躍・大成されることを期待しまして告辞といたします。
 
令和2年3月25日    
鹿児島大学長 佐野 輝