令和8年度鹿児島大学入学式告辞(令和8年4月7日)
本日ここに、御来賓各位の御臨席を賜り、理事、副学長、部局長、教職員と共に一同に集い、鹿児島大学入学式を執り行うことができますことを、大変喜ばしく思います。新入生の皆さん、入学おめでとうございます。学部学生1,934名、大学院学生674名、総勢2,608名の若き希望に溢れた皆様のお一人おひとりを心から歓迎いたします。また、入学を果たされた皆さんのこれまでの日頃の研鑽と努力に敬意を表すると共に、その志を支えてこられたご家族の皆様、ご友人、ご指導いただいた先生方など、ご支援いただいた方々に深く感謝しつつ、心よりお慶び申し上げます。
さて、本学の起源は、島津家25代、薩摩藩第8代藩主の島津重豪(しげひで)公が250年前に創始した「藩学造士館」にさかのぼります。そこからとても長い年月をかけて、その流れを汲んだ第七高等学校造士館のほか高等農林学校、師範学校や水産専門学校などを統合し、昭和24年に新制の国立鹿児島大学として開設されました。その後、昭和30年には医学部と工学部を有した県立鹿児島大学が統合され、現在では、市内4か所のキャンパスに9つの学部と9つの大学院研究科を備えた、約1万1,500人の学生・生徒と約4千人の教職員を擁する総合大学となっています。そして、附属病院、附属図書館、附属幼稚園、附属小学校・中学校、総合研究博物館、ヒトレトロウイルス学共同研究センターなど多数の施設を抱えています。本学は、このように恵まれた教育・研究環境に加えて、豊かな自然と固有の文化・伝統を備えた南西諸島を含む広大な県土を、いわばキャンパスと捉えて、困難な課題にも果敢にチャレンジする「進取の精神」を備えた若者を育成し、今日までに13万人を超える有為の人材を社会に送り出してまいりました。皆さんは、本日からこのような歴史ある鹿児島大学で、大学生あるいは大学院生として、学生生活を送ることになります。
鹿児島大学では、先ほど申し上げた通り、充実した附属施設に加えて、南北600kmにわたる広い県土をキャンパスと捉えることを特色として、専門的な学びだけでなく、より実践的な学びを支援しています。豊かな自然と特色ある文化・伝統、そこにある地域社会、現場を見るということは、人間と知り合うということに他なりません。そこには皆さんが知り得なかった「多様性」があります。例えば、本日入学式に出席された皆さんの中にも、さまざまな考えや思想を持つ方々が集っています。それも「多様性」です。それらの「違い」を理解、尊重することで、そこにある課題が見えてくるのです。そして、それらの課題を体系的に整理して、解決につなげるためには「論理的に考える力」が求められます。
では、論理的に考える力ということはどのようなことか、具体的に考えてみましょう。現在、世界では利害が対立し、思惑が渦巻き、紛争の火種を常に抱えてきた国際社会が、分断と戦争の時代を迎えています。その中で、皆さんには、民族の違い、国籍の違い、文化的な背景の違いなど、先ほどから申し上げている「多様性」への対応や順応力を養っていただきたいのです。
皆さん一人ひとり、自分と同じ人間は誰ひとりいません。その違った部分について、より尊重するためには、相手をより理解しようと努力し、また、自分のことを理解してもらおうとする努力が必要です。異なる人と書く「異人」は、過去には「外国人」をさす差別的な言葉として使われた時代もありますが、国際社会を生きる皆さんには、人と人の繋がりという観点で、「いじん」という時には、偉大の「偉」、優れたという意味の「偉人」という言葉を使ってもらいたいと思います。
鹿児島大学という、このような特徴的な大学は、今、私が申し上げた、偉大な、優れたという意味の「偉人」を知るために、とても良い学びの場だと考えています。現場を見て、そこにある地域課題を知り、それらを整理し、体系化していくことが、そのような広い視野を得るのに重要なのです。
さて、皆さんの中には鹿児島大学が第一志望ではなかった方もおられるかも知れません。しかし、そのことを理由に大学生活を空虚に過ごして欲しくないと思います。もし、何かに未練があったら、過去を振り返る気持ちが強いのなら、今日で終わりにしてもらいたいと切に願います。悔しい思い、落ち込んだ経験は、何度でも挑戦したり、切り替えたりできる力を身につけることにつながります。自分の心の中に未練などがある方は、それを「バネ」にして欲しいからです。ずっと思い通りに、人生を歩める人はそう多くいません。今日から始まる大学生活が、とても大切な時間なのです。しっかり勉強して、卒業するときは顔を上げ、自信をもって卒業して欲しいと思っています。
大切なことは、自分のしたいことが何かを、しっかりと理解することです。何になれるかを悩むよりも、何になりたいかを探して下さい。そのために、これからの大学生活で、皆さんにいつも心掛けておいて欲しいことが、4つあります。一つ目は「好奇心」。何事にも興味を持って学んで下さい。二つ目は「自信」。自分を信頼できるように、努力を重ねて実力に根付いた自信をつけて下さい。「自分を信頼しはじめたその瞬間に、どう生きたらいいのかがわかる」と、ドイツの詩人・ゲーテも言っています。三つ目は「勇気」。人として正しい道を進む勇気、困難なことに果敢に挑戦する勇気を持って下さい。四つ目は「継続」。驕ることなく、謙虚に学び続けてください。
皆さんは「上善如水(じょうぜんみずのごとし)」という老子の言葉を知っていますか。理想的な人の生き方を、水の性質に例えて説明したものです。水は四角い器に入れれば四角くなり、丸い器に入れれば丸くなる。器に逆らうことのない形を変える「柔軟さ」を備えています。次に、水は人の嫌がる低いところへ流れていく。わけへだてなく「謙虚」で、自分の能力や地位を誇示しようとはしません。最後に、水は変幻自在かつ謙虚でありながら、急流にさしかかれば固い岩をも砕く力を持っています。
教育とは身に付けてきた経験や知識を、一度、全て削ぎ(そぎ)落とした時に、最後まで残るものです。それが「本物の力」であり、「人としての教養」です。それは、一生をかけて養っていくものです。
本学での学生生活を通して、考える力を養い、謙虚に学び続け、人としての教養、本物の実力を養う術(すべ)を身につけてください。それらが多様性というものを皆さんが当たり前のように受け入れる「器」となります。そうなれるよう、私たち教職員は皆さんの成長を見守り、応援していきます。
最後に、皆さん一人ひとりが卒業する時に、心の底から鹿児島大学に来て、この広いキャンパスで学んで良かったと思えるように、そして皆さんの心の中に「鹿児島大学の誇り」がしっかりと形づくられていくことを期待しています。教職員一同、新入生の皆さんの輝かしい未来を共に創っていくことをここにお約束して、新入学の皆さん、またその方々を支えて来られた皆さまへのお祝いの式辞といたします。
令和8年4月7日
鹿児島大学長 井戸章雄