トップページ大学紹介平成28年度卒業式・修了式告辞(平成29年3月24日)

平成28年度卒業式・修了式告辞(平成29年3月24日)

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 本日ここに、平成28年度の卒業式・修了式を挙行できますことは、鹿児島大学にとりまして大きな喜びであります。学部を卒業される1,941名の皆さん、大学院を修了される529名の皆さん、ご卒業・修了、誠におめでとうございます。ご家族の皆様には、心からのお慶びを申し上げますとともに、ここまで様々な面で長年にわたる励ましと支えをいただいたことに対し、鹿児島大学の教職員を代表して心よりお礼を申し上げます。 
 さて、諸君の在学中は、東日本大震災の生々しい爪跡や日本各地で発生した自然災害、また1年前の熊本震災をはじめ日本および世界のさまざまな出来事に向き合いつつ、一人ひとりが学友と切磋琢磨し、学業に精励するとともに、各種の文化活動やスポーツイベントへの参加、キャンパス外での地域活動や海外活動などにも真摯に取り組み、学生としての本分を全うし、本日を迎えておられるものと思います。皆さんの日々の努力と研鑽に心からの敬意を表します。
 留学生の皆さんには、生活習慣の違う日本での学業はさぞかし大変であったであろうと察します。留学を立派に全うされた皆さんにとって、今、まさに達成感に満たされておられることでしょう。今後も、鹿児島大学および鹿児島の人々との絆を保ち、鹿児島と母国との架け橋として、大いに活躍されますことを心より祈念いたします。
 皆さんは、この卒業を機に、社会人としての新たなスタート・ラインに立ち、それぞれの専門性を実社会で生かし、自分の人生を切り拓いていくことになります。社会の最前線に立つ諸君は、直面した課題に真摯に向き合い、「困難を乗り切る力」、「粘り抜く力」をこれまで以上に培うための努力が求められます。
 言うまでもなく、人生は、順風萬帆の時ばかりではありません。むしろ、絶えず大きな課題や困難に直面します。また、予期せぬ出来事や思い通りに事が進まない事態にもしばしば遭遇します。このような状況に向き合った時、迷ったり、思い悩んだり、尻込みしたり、思わず逃げ出したりするのが私たちの偽らざる姿ではないでしょうか。
 そうであるからこそ、我々は自分の弱さを認識しつつ、困難な状況を切り開くための勇気を育み、また、逆風の中でも失敗に学びつつ、「再び歩み始める努力」を積み重ねなければなりません。この努力の積み重ねが、目の前の状況を切り拓くための新たな知恵と力を生み出し、皆さんの“自信と勇気”を育むことになるのです。そのような歩みを通して、逆風に立ち向かう力を自ら培い、責任ある社会人として前に進んで行くことを期待しています。
 今、私たちは、混沌とした世界情勢に直面し、様々な課題を抱えています。世界的な人口急増と食料問題、地球温暖化と環境問題や自然災害、新たな感染症の脅威、ソーシャルネットワークの普及やグローバル経済の中での様々な歪みや社会分断、テロによる破壊ならびに難民の急増と受入れに対する様々な障壁、など、一国では解決し得ない予測困難な状況を迎え、国際的協調・協働の機能が急務となっています。また、国内では、未曾有の財政赤字、超高齢化社会の到来と雇用や労働環境の変化、格差社会と困窮の連鎖、待機児童の問題、教育の機会不均等、奨学金破産の衝撃、非正規労働者の増加、そして、災害からの復興、原発事故による環境修復など、解決すべき課題が山積しています。
 また、最近の世界の動きとして、反グローバリズム、ポピュリズム、排外主義の伸長と内向き志向の強まり、その結果として利害対立が激しさを増す懸念があることが論じられています。その背景となった一要因として、貧富格差の拡大、多国籍企業の不透明な利潤管理、また、 Tax Heavenへ逃げる巨額資産などにより、“自分たちはグローバル化の犠牲になってしまった”と感じる人々が増えたことが挙げられます。
 一方、生命科学、基礎物理学、天文・宇宙科学、ITに基礎を置く人口知能やロボット並びにビッグデータ解析の技術の進歩はめざましく、それらは人類社会に大きな変革をもたらすと同時に倫理観など新たな課題を我々に提示しています。
 このような時代の中にあって、諸君は、鹿児島大学で培った進取の精神を備え、それぞれが習得した専門知識や技術に加え、課題解決力、企画力、コミュニケーション力、ならびにリーダーシップを遺憾なく発揮し、これからの日本ならびに国際社会の発展に力強く貢献していただきたい。
 また、私たちが責任ある社会人として忘れてはならないことのひとつに、「ハンデイを担い、それを克服しながら生活を拓こうと努力している多くの方々がおられるということ」であります。心身の発達に障害を伴っている人、災害で生活拠点を奪われた人、育児のためあるいは高齢のため支援を必要とする人、また、教育の機会に恵まれなかった人、貧しさのために苦しい生活を強いられている人、社会のセーフィテイネットからこぼれ落ちてしまった人々、皆さんの力を必要としている多くの方がおられます。本学での学びが、皆さんの手助けを必要としている人々への力として積極的に生かされることを期待します。
 さらに、私たちがしっかりと心に留めておかなければならない事柄として、“私たちを取り巻く世界は多様性に満ち満ちている”ということであります。思想・文化・人種・民族・政治体制など、異なるバックグランド、異なる判断基準を持つ人々との交流が盛んになる中で、われわれは、他国の文化やその独自性・多様性に価値を認め、それらを尊重し、既存の価値観を超えた柔軟な判断により、新しい秩序や社会作りに生かす知恵を生み出さなければなりません。
 異なる文化や生き方に対して、偏見や排除ではなく、意思や言葉の疎通への努力が求められます。本学で培ったグローバルな視野や他者との共生・協働の学びが皆さんのこれからの歩みの中で生かされることを願っています。
 本日の卒業式において、皆さんの社会への勇躍壮途を祈念して、ここに集います全員で、「北辰斜めに」を力強く歌い、皆さんを社会へ送り出したいと思います。
 この「北辰斜めに」は旧制第七高等学校生と鹿大生の間で百年に亘って歌い継がれてきました。鹿大生の魂のふるさととも言うべき不朽の名歌「北辰斜めに」を切磋琢磨した仲間と斉唱し、本学の卒業生として、地域社会と国際社会の豊かな発展のために生涯にわたり挑戦する決意を新たにしていただきたいと思います。
 皆さんの健闘を称え、さらなる発展を祈念して、告辞と致します。
 
平成29年3月24日
鹿児島大学長 前田芳實