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平成29年度卒業式・修了式告辞(平成30年3月23日)

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 本日ここに、平成29年度の卒業式・修了式を挙行できますことは、鹿児島大学にとりまして大きな喜びであります。学部を卒業される1,976名の皆さん、大学院を修了される509名の皆さん、ご卒業・修了、誠におめでとうございます。ご家族の皆様には、心からのお慶びを申し上げますとともに、ここまで様々な面で長年にわたる励ましと支えをいただいたことに対し、鹿児島大学の教職員を代表して心よりお礼を申し上げます。

 さて、平成の時代は、インターネットの普及とグローバル化の加速、冷戦後の民族・宗教対立や地域紛争、所得格差の拡大と難民の急増、温暖化による気象変動の顕在化など、地球レベルでの様々な課題に遭遇してきました。

 このような中で、日本は長い不況を経験し、度重なる自然災害にも見舞われてきましたが、その一方、平成期になって18人の日本人研究者が相次いでノーベル賞を受賞するなど、わが国の科学技術の進歩は人類社会の発展に多大な貢献をなしてきました。

 卒業生の皆さんは、学友と切磋琢磨し、学業に精励するとともに、各種の文化活動やスポーツイベントへの参加、キャンパス外での地域活動や海外活動などにも真摯に取り組み、本日を迎えておられるものと思います。

 留学生の皆さんには、生活習慣の違う日本で立派に学業を全うされたことに対しまして深く敬意を表します。今後も、鹿児島大学及び鹿児島の人々との絆を保ち、日本と母国との架け橋として、大いに活躍されますことを心より祈念いたします。

 

 最近、皆さんは“Society 5.0”という言葉を良く耳にしていることと思います。これは現代社会が、人類の歴史における5番目の形態の生産技術社会に突入したことを言い表したもので、フィジカルな空間と情報技術を基盤にしたサイバー空間との融合によって創り出される新たな社会のことです。 

 人類の歴史は、自然との共生で生活していた狩猟採集社会、栽培植物や家畜を創り出した農耕社会、産業革命以降の工業化社会、また、コンピュータの発明がもたらした情報デジタル社会へと発展・進化してきました。 そして私たちは今、“Society 5.0”と言われるコンピュータ制御が深く関わるスマート社会へと進みつつあります。

 スマート社会の基盤技術である、IoT(Internet of Things、ビッグデータの加工、人工知能等の知識や技術の進化は、私たちの生活のあらゆる場面で駆使され、“新たな産業や新たな職種・雇用の創出”の可能性が広がりつつあります。人とロボットやAIとの共生、オーダーメイド・サービスの実現、サービスの格差の解消、ゲームチェンジ機会の増加など、あらゆる分野での実用化が広がろうとしています。

 しかし夢ばかりではありません。皆さんもご存知のとおり、これらの技術の開発・応用は企業間・国家間での熾烈な競争の場となり、併せてサイバー空間での新たな妨害・攻撃・犯罪の発生も大いに危惧され、スマート社会としての新たなルール作りと危機管理策に対しての多大な負担が懸念されます。私たちはこれまで以上に、倫理観や道徳観、社会的規範の遵守や協調性・想像性など、責任ある社会人としての公正な思考・行動・配慮が求められます。

 皆さんは、鹿児島大学で培った「進取の精神」を発揮し、それぞれが習得した専門的知識や技術に加え、課題解決力、企画力、コミュニケーション力、並びにリーダーシップを遺憾なく発揮し、時代や社会に則した倫理観や道徳観をもって、これからの日本並びに国際社会の発展に力強く貢献していただきたい。

 

 皆さんは、この卒業を機に、社会人としての新たなスタート・ラインに立ち、それぞれの専門性を実社会で生かし、自分の人生を切り拓いていくことになります。社会の最前線に立つ諸君は、直面した課題に真摯に向き合い、「課題を切り拓く力と気迫」がこれまで以上に求められます。

 最近、1冊のノンフィクション小説を読む機会がありました。それは情報小説作家として知られる渋沢和樹さんが書き下ろした“挑戦者”というタイトルの本です。これは皆さんの大先輩であり、また本学の第1号の名誉博士であられる稲盛和夫氏と19人の若者達が新電気通信会社(現在のKDDI)の設立に挑んだドラマです。

 稲盛はなぜ、新しい電気通信会社を立ち上げる決意をしたのか。その動機はただひとつ!“ 巨大通信企業の独占に穴を開け、日本の電話料金を安くしたい! 高度情報社会の健全な発展を助けたい!”でありました。一企業による独占が続けば国民は高い通信料金を払い続けることとなる。挑む相手は32万人を擁する当時の日本電電公社(現在のNTT前身)でありました。資金力で遥かに勝る巨大組織を相手に迫真のドラマが描かれていました。

 新たな電気通信事業への参入を前に、稲盛の最大の課題は、“通信手段をいかに確保するか”で、これが八方塞がり状態でありました。しかし、孤軍奮闘していた一民間人である稲盛の行動に、助け船を出したのが、なんと、これから立ち向かう相手の日本電電公社総裁の真藤 恒(ひさし)でした。それは、自分たち電電公社が保有しているマイクロウェーブのルートのひとつを新規参入を目指している稲盛たちの会社に提供しても良いという申し出でした。真藤総裁は電電公社のトップでありながら、民間企業の存在の必要性を痛感し、稲盛に通信ルートを提供したのです。“日本の電話料金を安くしたい!”という、稲盛の一途な思いと行動が、挑む相手の心を動かしたのです。この一途な思いが、日本の電気通信の自由化を拓いたのです。この出来事は、“目の前の大きな課題に対して、純粋で正しい思いを持って立ち向かう”ことの大切さを教えてくれます。

 昨年の春、本学の“進取の気風広場”に、稲盛和夫名誉博士の立像が設置されました。稲盛和夫名誉博士からの学生へのメッセージとして、「どんな境遇に遭遇しようとも どれほど厳しい環境に置かれようとも 挫けることなく 常に明るい希望を持ち 地道な努力を一歩一歩たゆまず続けていくならば 自分が思い描いた夢は 必ず実現する」との銘文が掲げられています。これは、卒業する皆さんへの大いなる”はなむけ”の言葉でもあります。本学で培った「進取の精神」の思いを卒業後も育て続けてください。

 

 本日の卒業式において、皆さんの社会への勇躍壮途を祈念して、ここに集います全員で、「北辰斜めに」を力強く歌い、皆さんを社会へ送り出したいと思います。

 この「北辰斜めに」は、旧制第七高等学校生と鹿大生の間で百年に亘って歌い継がれてきました。鹿大生の魂のふるさととも言うべき不朽の名歌「北辰斜めに」を切磋琢磨した仲間と斉唱し、本学の卒業生として、地域社会と国際社会の豊かな発展のために生涯にわたり挑戦する決意を新たにしていただきたいと思います。

 皆さんの健闘を称え、さらなる発展を祈念して、告辞と致します。

 

平成30年3月23日

鹿児島大学長 前田芳實