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平成20年度入学式告辞(平成20年4月7日)

 
 新入生諸君、入学おめでとう。
 
 雄大な桜島、コバルトブルーの錦江湾の輝きを背景に百花咲き乱れ、百鳥四方にさえずる春爛漫にして清明の今日、ここに、平成20年度の入学式を挙行し、若き熱情と希望に溢れる皆さんを鹿児島大学にお迎えできることは本学にとりまして大きな喜びであります。
 
 今年は、法文学部、教育学部、理学部、医学部、歯学部、工学部、農学部、水産学部の8学部に、2025名の学部学生、人文社会科学研究科、教育学研究科、保健学研究科、理工学研究科、農学研究科、水産学研究科、医歯学総合研究科の修士課程、人文社会科学研究科、保健学研究科、理工学研究科、医歯学総合研究科の博士課程、および司法政策研究科、臨床心理学研究科の専門職学位課程の10研究科に636名の大学院生、41名の外国留学生を含め、総勢2661名の新入生を迎えます。
 
 ここに、ご臨席をたまわっております、ご来賓、名誉教授、列席の理事、監事、部局長、研究科長、そして、すべての教職員2400名と在学生1万名とともに、皆さんの一人ひとりを心から歓迎いたします。
 
 また、見事入学を果たされた皆さんの研鑽と努力に敬意を表し、その志を支えてくださったご家族やご指導されました先生方に深く感謝しつつ、心よりお慶び申しあげます。
 
 皆さんが学生生活をおくる鹿児島は北辰斜めにさす、日本列島の南に位置し、アジアの諸地域に開かれた南の門戸であり、海と桜島などの活火山と世界遺産の屋久島などの島々からなる豊かな自然環境に恵まれ、また豊饒の文化を育んだ地であります。鹿児島は、わが国の変革と近代化を推進する過程で、多くの困難に果敢に挑戦する人材を育成してきました。明治以降にも鹿児島にはさまざまの分野の高等教育機関が設置され、この教育的伝統と基盤が受け継がれてきました。
 
 鹿児島大学はこれらの鹿児島の高等教育機関が統合して昭和24年に新制大学となった長い歴史をもつ伝統ある総合大学であります。
 
 鹿児島大学が昭和24年に発足した際に基本となったのは、いずれも古い伝統を有しており、近代日本の文化発展、また鹿児島の人材養成の上に、輝かしい足跡を残した第七高等学校、鹿児島師範学校、鹿児島青年師範学校、鹿児島農林専門学校、鹿児島水産専門学校で、法文学部、理学部、教育学部、農学部と水産学部の母体となります。中でも第七高等学校は、遠く1773年(安永2年)に創立された藩学造士館の名跡を受け継ぎ、一時は廃止となりましたが、明治17年に鹿児島県立中学造士館として復活し、さらに明治34年には第七高等学校造士館となり、幾多の俊秀を輩出しました。旧制高等学校中唯一の例外として「造士館」の館号を昭和21年まで称したのは、この古く輝かしい伝統への愛着に由来するものと言えます。第七高等学校が文理学部となり、法文・理学の学部教育だけではなく全学共通の教養教育の担い手となります。鹿児島師範学校も、その由来は明治8年には創立された小学校授業講習所、鹿児島青年師範学校は大正13年に設置された鹿児島県立実業補習学校教員養成所で、地域教育推進の主体たる教員の養成に、大きな役割を果たしてきたこの2校が教育学部の母体であります。鹿児島農林専門学校と鹿児島水産専門学校は明治41年に創立された鹿児島高等農林学校と鹿児島県立商船学校が前身で、約40年にわたりの農水関係の学問研究の推進と、専門家の養成に大きな役割を果たしています。
 
 さらに、1869年(明治二年)にウイリアム ウイリスにより創立された西洋医学校を淵源とする鹿児島県立大医学部と昭和20年設置された鹿児島県立工業専門学校を前身とする鹿児島県立大学工学部が昭和30年に鹿児島大学に移管されます。その後 昭和52年に歯学部が新たに設置され、現在、8学部、10研究科からなり、12000名の学部学生と大学院生および2400名の教職員が在籍する質量とも西日本有数の総合大学へと発展いたしております。その前身から数えると235年の永きにわたり、人類社会の発展の基礎となる「知の創生とその継承」を継続し、本学を巣立った卒業生は世界中いたるところで、また様々な分野で活躍しています。 私ども教職員はこのような伝統と島嶼に関する人文社会学、教育学、医療学や食の安全に関する農水産学、焼酎学、宇宙学など鹿児島の特色と密着して極めて卓越した実績をあげ、地域社会の発展に貢献してきた鹿児島大学で教育研究に従事することを誇りに思っております。皆さんも、このような鹿児島大学で教育をうけることができることに是非、誇りを持ち自己実現のために研鑽を積んでいただきたいと思います。
 
 皆さんの活躍の場となる21世紀はいわゆる知識基盤社会であり、新たな知の創造・継承・活用が社会の発展にとって、ますます不可欠となります。そのために、先見性・創造性・独創性に富む人材が幅広い様々な分野で強く求めれれています。また活力ある社会が持続的に発展していくためには、専門分野についての専門性を有するだけでなく、高い公共性・倫理性を保持しつつ、総合的判断力を有し、時代の変化にあわせて積極的に社会を支え、あるいは社会を改善していく資質を有する人材が求められています。
 
 鹿児島大学はこれらの社会の要請を踏まえ、大学の使命と存在意義を再確認し、本学の目指すべき基本的目標を明確にするため、これまであった大学の基本理念の核を「鹿児島大学憲章」としてまとめ、平成19年11月15日の第59回の開学記念日に制定しました。大学憲章の前文では、「鹿児島大学は鹿児島の地理的特性と教育的伝統を踏まえ、学問の自由と多様性を堅持しつつ、自主自律と進取の精神を尊重し、地域とともに社会の発展に貢献する総合大学をめざす」ことを謳い、「鹿児島大学は幅広い教養教育と高度な専門教育と行うとともに、地域の特性をいかした進取の気風を養い、真理を愛し、高い倫理性と社会性を備え、向上心を持って自ら困難に立ち向かい、国際社会と地域社会で活躍しうる人材を育成する」ことを高らかに宣言しました。
 
 皆さんは、鹿児島大学のこのような教育基本理念に基づき、設置、開設された共通教育と専門教育課程の中で、勉学し、21世紀社会人としての教養と職業人としての専門的知識・技能および態度を習得いたすことになります。
 
 入学直後より開始される共通教育の授業においては、人類が直面している環境破壊、食糧危機、資源・エネルギー問題、テロと地域紛争、新興感染症あるいは宗教問題などの原因や背景を多角的に学び、現実を正しく理解する力も涵養して頂きたい。鹿児島の歴史、文化や自然などを教材として、開講されている鹿児島の中に世界をみる教養科目では、それぞれの課題に内在する本質まで深く掘り下げて考えることにより世界に共通する普遍的な真理に到達する体験を是非やっていただきたい。鹿児島大学には課外活動のために沢山のサークルがあります。仲間との課外活動は人の心の温かさや人間の絆とは何かを教え、幅広い人間性を養う場になるはずです。スポーツで鍛えた心身は生涯の財産になります。広い視野で物事を議論しながら、課外活動を通じてえた友人は何にも代え難い一生の財産となります。地域の様々なボランティア活動にも積極的に参加していただきたい。鹿児島大学は今年度より、ボランティア活動を授業科目にとりいれました。幅広い、様々な人生観を持った人々に会うことができ、また、人生と社会とのかかわりを見つめるきっかけとなり、自己の確立のための絶好の研鑽の場となります。
 
 新入生の皆さん、皆さんにとって今、直ちに取り組むべきことは、自己の再認識だと思います。鹿児島大学のこのような教育環境の中で、今までの自分を見つめ、自分とは何かを真剣に問うべき時期が来たというこであります。見る自己と見られる自己が対話し、自己に目覚めるときです。何のために生きるのか、何のために大学に入ったのか、どのような人間になりたいのか、己自身へ問い己の哲学、人生観を確立するための第一歩を踏み出すべきです。真、善、美の高いレベルで調和した理想の自己を形成すること、すなわち自己が自己の人格を陶冶することが教養であります。このことが今後、諸君にとって、もっとも大切な行動目標であります。そして、自己の人格形成が目標でありますから大学生、大学院生としての諸君の行動は自律が基本となります。他律ではなく諸君の自律的取り組みにより教育は諸君の人格の陶冶を支援することができるのです。
 
 先ほど紹介した鹿児島大学の母体となった教育機関では、若き学徒は、若くして自我を確立し、人格の陶冶に努め、国内外でどん欲に学芸を習得し、わが国の近代化の推進者へと成長しました。その象徴の一つとして、鹿児島中央駅前広場に文化勲章受章者の中村晋也鹿児島大学名誉教授により創作され、建立されている「若き薩摩の群像」があります。群像には、高い志を持って、自己の人格の陶冶に努める薩摩の若者の気概がみられます。
 
 鹿児島大学に入学された皆さん、無限の可能性を秘めた若くて能力のある皆さんが、このような先人の気風を引き継ぎ、自己を見つめ、高い志をかかげ、自律的に貪欲に学び精進し、それぞれの学習目標を達成し、社会の担い手に成長されることを心より祈念して告辞といたします。
 
平成20年4月7日
鹿児島大学長  
吉 田 浩 己