トップページ大学紹介年頭の挨拶(平成21年) ~『進取の気風にあふれる総合大学をめざして』~

年頭の挨拶(平成21年) ~『進取の気風にあふれる総合大学をめざして』~

 
鹿児島大学長 吉田浩己
 
 
 明けましておめでとうございます。
 平成21年が鹿児島大学と皆様にとりまして、「飛躍の年」になりますことを祈念しています。
 
 
はじめに
 鹿児島大学は、高等教育の機会均等と国土の均等ある発展を意図し、北辰斜めにさすここ鹿児島に位置する総合大学であり、人類社会の発展の基礎となる「知の創生とその継承」を使命とする「知の拠点」であります。本学は、この2年間、社会からの要請に一層応えるため、質の高い教育研究を展開するとともに、法人評価に万全を期するために第一期目標の達成に懸命に取り組んでまいりました。その結果、人件費5%削減をすでに達成しただけでなく、教育、研究、社会貢献の様々な分野で見るべき成果を上げることができました。厳しい状況に耐えて、献身的にご努力された教職員の皆様に心より感謝いたします。
 
 平成20年6月には、「中期目標の達成状況報告書」、「業務の実績に関する報告書」及び「部局の現況に関する調査表」を教育研究評議会と経営協議会における最終確認作業を経て、国立大学法人評価委員会(以下、「法人評価委員会」という。)に提出しました。その後、法人評価委員会により、7月に学長ヒアリング、11月に訪問調査が行われ、今年の1月には鹿児島大学全体と各部局に対する評価が下されます。
 
 今年は、法人評価の結果を受け、第一期の目標達成のための仕上げを行うこと、また、鹿児島大学の基本理念である大学憲章に基づき、「地域とともに社会の発展に貢献する知の拠点として、進取の気風にあふれた総合大学」を実現するための「第二期中期目標・計画」を作成し、6月に法人評価委員会へ提出することが喫緊の課題であります。特に、「鹿児島大学憲章」に謳っているように、「全構成員が責任をもって参画すること」により、鹿児島大学の特徴や存在意義が鮮明となる「第二期中期目標・計画」を是非作り上げたいと思っています。教職員の皆様のご参画とご協力をよろしくお願いします。
 
 このような大きな節目の平成21年を迎えるに当たり、学長としての大学運営への基本的な姿勢と、この2年間の主な取り組み及び平成21年の鹿児島大学の「第二期中期目標・計画」の作成への取り組みなどについて述べたいと思います。
 
 
Ⅰ 大学の活性化のため「現場重視」を管理運営の基本とする
 鹿児島大学は、8学部と10研究科からなる18の教育課程を有する総合大学であり、人類社会の発展の基礎となる「知の創生とその継承」を使命とする地域の「知の拠点」であります。各々の教育課程は(1)研究者、大学教員、(2)高度専門職業人、(3)専門職業人、(4)教養ある社会人の育成などを目的としており、その規模も様々です。すなわち本学は、地域社会の特性やニーズを踏まえて、規模と機能の違う18分野の教育課程を有する「知の拠点」であることが特色と言えます。さらに、この18の教育課程の各分野に教職員が配置され、多彩な教育研究を展開し、新しい豊かさの創生と人材の育成に努めています。今後、本学が社会の要請に応え、より存在意義のある総合大学として発展していくためには、各々の教職員がさらなる創意的な教育研究活動を行うとともに、大学の基本単位である各教育課程がその機能を十二分に発揮し、その目的を達成することが最も重視すべきことであると考えています。
 
 現在の複雑な社会の要請に応えるために、総合大学が行うべき学際領域ないし異分野連携の共同教育研究も、個々の教職員と個々の教育課程の優れた教育研究力があってこそ成り立つものと考えています。したがいまして、教育研究現場が活性化するための環境整備を的確に行うことが大学運営において最も重要であると考え、一昨年1月学長に就任するにあたり、「現場を重視し、現場の意見を反映する」ことを管理運営の基本といたしました。そのために、まず平成19年2月には、現場の意見を大学運営に反映する目的で、教育課程の責任者である学部長と研究科長等を「大学運営会議」に加え、教育研究評議会の議題を事前審議するなど、トップダウンとボトムアップを連結する大学運営の要としました。
 また、現場の意見を直接聞くために、平成19年は全ての教授会等を訪問し、平成20年は学内共同教育研究施設等の教職員と会合を行いました。その結果、法人化後、毎年1%の運営費交付金が削減されるなか、平成16年度より新予算配分方式を導入し、多額の学長裁量経費が設定された結果、現場の教育研究ための配分額が減少し、かつ、平成17年度より毎年1%の人件費削減と学長裁量定員供出のために部局等の人事が凍結されたため、各々の教育課程の教育研究力が急激に低下しつつあることがわかりました。この事態の改善に直ちに対応すべきと判断し、まず、平成19年度の当初予算では、学長裁量経費と教育研究活性化経費などの中央経費を削減し、部局等への配分を増やし、現場の教育研究費の減少に歯止めをかけました。同時に、このような問題に本格的に対応するために、平成19年4月に副学長を委員長とする2つの「特任委員会」を立ち上げ、それぞれに「教員の適正な学内配置と学長裁量定員」及び「予算編成のあり方と学内予算配分方式」を諮問しました。2つの特任委員会では、極めて真摯な検討が長期間にわたって行われ、以下の答申を得ました。
 
1 答申「学内予算配分方式について」(平成19年11月)
 学長裁量経費を大幅に見直し削減する。科学研究費補助金の間接経費を学内大型共用研究設備整備費や電子ジャーナル経費等に充当し、教育研究環境を整える。
2 答申「国立大学法人化後の教員定員(人員)のあり方について」(平成20年1月)
 教育研究環境の現況に鑑み、平成15年に決定した77名の学長裁量定員を44名に修正すべきである。
 
 この2つの答申を受けて、学内予算配分方式と学長裁量定員の44名への修正が平成19年12月と平成20年2月開催の教育研究評議会で審議・決定されました。その結果、平成20年度の当初予算では、部局等への配分額は平成19年度に比べ、約10%増加することになり、約1億円の間接経費は、共同利用の大型教育研究機器と電子ジャーナル経費へ配分しました。
 さらに、法人化以降、国からの予算の削減等によって教育関連施設・設備の整備が停滞し、教育を行う上で様々な支障が生じている現状を考慮し、第一期の目的積立金を教育設備等整備に重点的に使用する方針を平成20年5月に定め、9月に学内補正予算1号(約7億円)、12月に学内補正予算2号(約13億円)を決定・配分しました。今年度中には、さらに学内補正予算3号の配分を行う予定であります。
 また、国の方針による人件費削減は、各部局等における人事の凍結などにより順調に進み、今の水準を維持すれば、平成17年度人件費予算額に対して5%を削減するとした平成22年度の目標を達成できる状況となりました。しかしながら、このまま人事の凍結を続ければ、今後の教育、研究、運営等に致命的な支障が生じることが懸念されます。以上を考慮し、平成20年10月に全学的に人事の凍結を解除する決定をしました。今後当分の間、各部局長等は事前に学長と協議し、現在の人件費の水準の範囲内で欠員補充等の人事を進めることを可能としました。
 
 
Ⅱ ボトムアップとトップダウンの調和した大学運営方式
 国立大学法人に求められている大学経営改善の目的は、教育研究の活性化であります。大学の基本理念に基づく中期目標の達成と教育研究の活性化のための様々な改善や改革をより円滑・迅速に行うために、大学運営の企画立案体制と効果的な意思決定体制の強化・整備を行いました。「室・センター等」(理事、学長補佐、事務部長等、センター長で構成)を企画立案及びその実施組織、「全学委員会」(理事、部局選出委員で構成)を調整・評価組織、「大学運営会議」(学長、理事、事務局長、部局長等で構成)と「教育研究評議会」を審議・決定のための全学会議と位置付けました。室・センター等で企画立案された各種施策・事業案は、必要に応じて全学委員会で検討・調整した後、学長のリーダシップの下で「役員等会議」(学長、理事、事務局長等で構成)を経て、大学運営会議に提案されます。大学運営会議では各部局等において責任を持って遂行できる案に再度調整され、その後、教育研究評議会で審議後、役員会で決定されます。このように、企画立案・調整・審議・決定の過程を学長の下におき、部局長等が参加する大学運営会議で部局間の意見を調整・整理することにより、円滑・迅速な合意形成及び意思決定が可能となりました。現在は、教育や研究などに関する改善・改革事業やGP等への申請などの業務が膨大になったため、教育改革室や研究改善室など室の企画力の拡充を図っているところであります。
 
 なお、平成19年度に開催した「鹿児島大学憲章」と「鹿児島大学の将来像」に関する2回の全学ワークショップにおいて、職務や分野が異なる教職員からなるグループが、限られた時間内に、グループ員の英知を結集した作業が行われ、優れたプロダクトをつくりだしました。この成果に鑑みて、全構成員の責任ある参画、全構成員の英知の結集を図る上で、ワークショップ方式は極めて有効な手段の一つと考えています。
 
 
Ⅲ この2年間の活動
 この2年間、皆様のご努力により、様々な分野で種々の取り組みを経て、数多くの見るべき成果があがりました。詳細な実績・成果は、「中期目標の達成状況報告書」、「業務の実績に関する報告書」、「部局の現況に関する調査表」及び「鹿児島大学概要(2007、2008)」をご覧下さい。以下に、そのごく一部を紹介します。
 
1 中期計画に基づく、平成18、19年度計画の年次実績(大学管理運営)評価は全体として順調に計画進行中との評価を受けました。
2 平成19年6月に大学認証評価(教育課程、共通教育)を受け、一部問題点の指摘はあったものの、好意的な総評を受けました。
3 教育研究の改革・改善のために数々のGP等や特別教育研究経費(概算要求)へ応募・申請し、全学あげて取り組んだ結果、多数のGP、教育研究機器・設備、施設改修、再開発など多額の予算を極めて順調に獲得することができました。さらに平成21年度予算では練習船の新造が内示されました。 
4 稲盛経営技術アカデミーは、学内外の状況を鑑みて、平成20年4月から「人間力の醸成を目的とした教養教育の支援」を使命とすることとし、「稲盛アカデミー」に改名しました。
5 徳之島町、鹿児島市、鹿児島銀行、鹿児島青年会議所などと事業計画の実施に関する協定や包括連携に関する協定、さらにベトナム社会科学院、フィリピン大学と大学間学術交流協定を新たに締結しました。
6 鹿児島大学の構成員が一体となり、鹿児島大学が社会からの要請にこたえるためには、基本理念の再認識と共有化が重要と考え、平成19年8月に霧島において教職員約100名参加のワークショップを行い、大学憲章草案を作成し、学内外よりコメントを得た上で、教育研究評議会の審議を経て、「鹿児島大学憲章」を作り上げ、平成19年11月、第59回大学開学記念日に制定しました。
7 鹿児島大学の存在意義をより明確にするために、(株)鹿児島地域経済研究所に依頼し、「鹿児島大学が地域に及ぼす経済効果」を検証しました。その結果、867億円と巨額な効果を生んでいることが検証され、鹿児島大学は、鹿児島経済の持続的発展のためにはなくてはならない存在であり、鹿児島大学の事業規模が鹿児島経済へ多大な影響を与えることが明らかになりました。このことは、平成20年3月に学内外に公表しました。
8 法人化の特徴である目標管理運営には、達成度を分析するための基盤となるデータシステムが不可欠です。平成19年度の評価作業によって、現行の教育研究データベースシステムは分析機能が不十分であることが明らかとなったため、学長裁量経費を投入し新システムを構築中であります。
 
 
Ⅳ 次期中期の目標と計画の作成
 今年6月の次期中期の目標と計画案の提出を視野に、昨年7月から戦略会議において草案を検討してきました。今年1月末までに草案を作成し、2月には公聴会や教授会で皆様に意見を伺い、修正を行った上で、3月末までに第一次原案を作り上げる予定です。
 次期の目標と計画は、「鹿児島大学憲章」に基づき、「地域とともに社会の発展に貢献する知の拠点として、進取の気風にあふれる総合大学」を実現するために、鹿児島大学の特徴を活かし、鹿児島大学の存在意義がより鮮明になるものにすべきと考えています。
 また、社会からの要請と鹿児島大学の教育課程の特性を踏まえれば、本学の教育の基本になっている学士課程において、特徴ある人材を育成することが最も重要であると考えています。検討中の目標を幾つかを挙げますと
 
1 進取の気性を有する学士の育成
 鹿児島大学は、幅広い教養の厚みに裏打ちされた倫理観と生涯学習力を有し、向上心を持って自ら困難に立ち向かう人材を養成するため、学士課程の基盤となる共通教育の改善を図るとともに、専門教育及び大学院教育における学位の質を保証するシステムを確立する。
2 大学の特色を活かした研究活動
 鹿児島大学は、教育の源である優れた研究を行う責務を自覚し、基礎的・基盤的研究を重視するとともに、地域社会の活性化に貢献する独創的・先端的な研究を積極的に推進し、総合大学の特色を活かし、島嶼、環境、食と健康等の全人類的課題の解決に果敢に挑戦する。
3 地域社会の活性化に貢献
 鹿児島大学は、地域との連携を重視し、産学官連携や大学間連携等の社会連携を推進するとともに、各学部等の特色を活かした地域貢献を積極的に促進し、知的・文化的な生涯教育の拠点として地域社会の活性化に貢献する。
4 グローバル化時代の人材養成
 鹿児島大学は、アジア・太平洋諸地域との学術交流・教育交流を通じて、国際交流拠点としての機能を高め、全人類的課題の解決に貢献し、国際的に活躍できる人材を育成する。
5 大学マネジメントの改善
 鹿児島大学は、学長のリーダーシップ機能を高め、限りある資源を戦略的に投入して効率的な大学運営を図るとともに、活動の結果を適切に評価し、それを改善に繋げる大学マネジメントを実施する。
6 社会に開かれた大学
 鹿児島大学は、地域社会に開かれたキャンパス環境を整備するとともに、社会への積極的な情報発信に努め、透明性の高い公正な大学運営を図ることにより、社会への責任を果たす。
 
 
 また、計画としては
 
1 系統的教育カリキュラムの作成
 社会人としてしっかりした基礎力の下に進取の気性に富む人材を育成することを学士課程の共通の目標とし、共通教育では無論のこと、専門教育でも継続してこの目標を追求するために系統的教育カリキュラムを作成する。
2 グローカルな教育研究の拠点形成
(1)国際島嶼教育研究センター(仮称)を設置する。
(2)他の国立大学法人との共同による日本最大規模の獣医学部の設置をめざす。
(3)全学横断的修士コースを創設する。
本学の特徴を活かした島嶼学コース、環境学コースや食・健康コースなどの全学横断的修士コースを設定し、修士課程の院生は、修士の学位記と横断的修士コースによる修了証を取得できるようにする。
3 生涯学習の拠点の形成
 放送大学等との連携を深め、生涯にわたって学習する機会を提供する。
 
などと色々検討しているところであります。
今後、皆さんに第二期の中期目標・計画の作成に参画いただき、夢のあるすばらしいものに仕上げたいと考えています。
 
 
Ⅴ 終わりに
 鹿児島大学は「知の創生とその継承」、すなわち教育と研究を使命とする「知の拠点」であり、地域とともに社会の発展に貢献する総合大学をめざしています。どのような厳しい条件のなかにあっても、社会より信頼される道を模索し、進取の精神を発揮し、時代を先取りするような改革を続けていく限り、鹿児島大学の未来は開けると確信しています。
 平成21年は学内に本学の歴史展示室(仮称)を整備し、11月24日、本学開学60周年式典が開催されます。皆様とともに今年を鹿児島大学の「飛躍の年」にすることを希望し、平成21年の年頭の挨拶といたします。
 

 

 

参照: 鹿児島大学の経営・管理運営体制(PDF)