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平成21年度入学式告辞(平成21年4月7日)

 

 新入生諸君、入学おめでとう。

 

 楠の若葉は鮮やかに輝き、百花咲き乱れ、百鳥四方にさえずる春爛漫にして清明の今日、ここに、平成21年度の入学式を挙行し、若き熱情と希望に満ち溢れる皆さんを鹿児島大学にお迎えできることは本学にとりまして大きな喜びであります。

 

 今年は、法文学部、教育学部、理学部、医学部、歯学部、工学部、農学部、水産学部の8学部に、2008名の学部学生、人文社会科学研究科、教育学研究科、保健学研究科、理工学研究科、農学研究科、水産学研究科、医歯学総合研究科、司法政策研究科、臨床心理学研究科の9研究科に612名の大学院生、45名の外国人留学生を含め、総勢2620名の新入生を迎えました。

 

 ここに、ご臨席をたまわっております、ご来賓、名誉教授、列席の役員、副学長、学部長、研究科長、病院長そして、すべての教職員2400名と在学生1万名とともに、皆さんの一人ひとりを心から歓迎いたします。

 

 また、見事入学を果たされた皆さんの研鑽と努力に敬意を表し、その志を支えられたご家族の皆さまには心よりお慶び申しあげます。

 

 皆さんが学生生活をおくる鹿児島は、北辰斜めにさす、日本列島の南に位置し、アジアの諸地域に開かれた門戸であり、桜島や霧島などの活火山、世界自然遺産の屋久島や生物の宝庫である奄美群島などの豊かな自然環境に恵まれ、豊饒の文化を育んだ地であります。鹿児島はわが国の変革と近代化の過程で、困難に果敢に挑戦する人材を数多く育成してきました。 皆さんは、このような風土の中、鹿児島の教育伝統である「進取の精神」を引き継いだ本学で、自己実現を目指し、学業に励むことになります。

 

 鹿児島大学の起源は1773年(安永2年)に設立された藩学造士館であります。鹿児島には、明治以降も、明治2年に、ウイリアム ウイリスを校長とする西洋医学校をはじめ、藩学造士館の名跡を受け継いだ第七高等学校造士館、鹿児島師範学校、鹿児島高等農林学校、鹿児島県立商船学校、鹿児島県立工業専門学校などが創立されました。そして1949年(昭和24年)、鹿児島のこれらの高等教育機関を統合し、新制鹿児島大学がスタートいたしました。皆さんが入学される本年は新制大学として創立60周年を迎え、11月には記念式典が開催される、節目の年であります。

 

 本学は「知の拠点」として人類社会の発展の基礎となる「知の創生とその継承・発展」に邁進してまいりました。本学を巣立った卒業生は世界のいたるところ、様々な分野で活躍をしています。長きにわたる大学の営みのなかで、形成された理念を基に、社会の要請に一層応えるために本学の使命と存在意義を再確認し、平成19年11月の開学記念日に「鹿児島大学憲章」を制定しました。鹿児島の特性と教育的伝統を踏まえ、「自主自律と進取の精神を尊重し、地域とともに社会の発展に貢献する総合大学を目指す」ことが鹿児島大学憲章の基本理念であります。この基本理念の具現化として、特に、鹿児島の特色である「食と健康」、「島嶼」、「環境」に関して、総合大学の有利性を生かし、農水学、理工学、医歯学、人文社会学、教育学が連携し、地域の課題解決と人材育成に包括的に取り組み、卓越した実績をあげ、地域社会および国際社会の豊かな発展にとってなくてはならない、存在になっています。このような本学で学生、大学院生として、教育を受け、研究に携わることに誇りを持ち、自己実現のために研鑽を積んでいただきたい。

 

 次に、学生の本分である、「学ぶべきこと」について述べたいと思います。

 

 皆さんの活躍の場となる21世紀はいわゆる知識基盤社会であり、新たな知の創造・継承・活用が社会の発展にとって、ますます不可欠となります。そのために、皆さんには、先見性・創造性・独創性を涵養することが強く求めれれています。一方、我々の社会には、少子高齢化、高度情報化、国際化が進む中で、社会保障問題、環境問題、経済の活力の維持、地域間の格差の広がり、世代をまたがる社会的・経済的格差の固定化、社会における安全・安心の崩壊など看過できない諸問題が生じています。国際社会においても、グローバル化に伴う国際競争が激化する一方で、地球環境問題や食料・エネルギー問題など、人類全体で取り組まなければならない問題が深刻化しています。

 

 21世紀の持続可能な社会の担い手となる皆さんには、一人ひとりがこれらの諸問題に立ち向かい、乗り越えるための知恵と実行力を是非、修得していただきたい。そして、鹿児島の先人からの精神を受け継ぎ、社会からの要請にしっかりとこたえうる社会人になるために、専門分野の知識、技能、態度の習得はもちろんでありますが、鹿児島大学に入学した全ての皆さんに共通する学習目標は、その根底となる『真理を愛し、高い倫理性と社会性を備え、自主自律の精神および向上心を持って自ら困難に立ち向かう進取の精神を涵養すること』であります。

 

 新入生の皆さん、皆さんにとって今、直ちに取り組むべきことは、今の自己を真剣に見つめ、何のために大学に入学したのか、何のために生きるのか、どのような人間になりたいのか、を自らに問い、自己実現のための第一歩を踏み出すことです。古今東西、若者は真、善、美の高いレベルで調和した理想の自己の形成に真摯に取り組み、社会形成への主体的な参画者となり、社会の変革と発展のリーダーへと成長します。教育は自主自律的に取り組まれている場合にのみ、自己実現への強力な支援となります。

 

 先ほど紹介した鹿児島大学の母体となった教育機関で学んだ若者は、自我を確立し、自己実現に努め、国内外でどん欲に学芸を習得し、わが国の近代化の推進者へと成長しました。その象徴の一つとして、鹿児島中央駅前広場に建立されている「若き薩摩の群像」があります。群像には、高い志を持って、自己実現に努める薩摩の若者の気概がみられます。

 

 鹿児島大学に入学された皆さん、無限の可能性を秘めた若くて能力のある皆さんが、このような先人の気風を引き継ぎ、自己を見つめ、高い志をかかげ、自律的にどん欲に学び精進し、それぞれの学習目標を達成し、社会の担い手に成長されることを心より祈念して告辞といたします。

 

     平成21年4月7日

鹿児島大学長

吉 田 浩 己