トップページ大学紹介平成21年度卒業式告辞(平成22年3月25日)

平成21年度卒業式告辞(平成22年3月25日)

 学内の満開の桜、植物園の目にも鮮やかな若葉、まさに春爛漫にして清明の今日、ここに、平成21年度の卒業式・修了式を挙行できますことは、本学にとりまして大きな喜びであります。 めでたく学部を卒業される2,031名の皆さん、大学院を修了される564名の皆さん、おめでとう。心からお祝い申し上げます。
 
 ここまで物心両面から支え、励ましていただいたご家族の皆様、指導や学習教育活動を支えられた本学の教職員の皆様にも、心からのお礼とお祝いを申し上げます。
 
 皆さんは、入学後、学友と切磋琢磨して学業に精励するとともに、人格の向上に努め、充実した学園生活を謳歌されたことと思います。また、直面した困難や悩みを見事に乗り切り、大いなる達成感をもって本日の卒業式・修了式を迎えたことと思います。皆さんの努力と研鑽に心より敬意を表します。特に、留学生の皆さんには、生活習慣の違う日本での学業はさぞかし大変であったことでしょう。母国の期待を担い、留学を立派に全うされた皆さんにとって、今、まさに感慨無量であることと思います。今後、鹿児島大学および鹿児島の人々と絆を持ち続けて、鹿児島と母国との架け橋として、おおいに活躍されんことを心より祈念いたします。
 
 本学が存在する鹿児島は、鹿児島中央駅前広場に建立されている「若き薩摩の群像」の若者のように、幾多の困難に果敢に挑戦し、わが国の変革と近代化を推進した、数多くの人材を輩出してきました。鹿児島大学の起源は、1773年(安永2年)に島津重豪(しまづ しげひで)によって創立され、そのような進取の気性に富む多くの若者を育てる上で、中心的な役割を担った藩学・造士館であります。また、藩学・造士館の名跡と伝統を引き継いだ第七高等学校造士館や明治以降、鹿児島に設置された、さまざまの分野の高等教育機関が、昭和24年に統合され、新制鹿児島大学が創立されました。皆さんが卒業する平成21年度は、大学創立60周年となる記念すべき年であります。それに先立ち、鹿児島大学は、平成19年11月に鹿児島の教育的伝統である『進取の精神』を受け継ぐことを再確認し、「進取の気風にあふれる知の拠点」として、真理を愛し、高い倫理性と社会性を備え、向上心を持って自ら困難に立ち向かい、地域および国際社会で、活躍しうる人材を育成することを大学憲章としてまとめ、学内外に高らかと宣言いたしました。平成21年11月には、創立60周年の記念事業として、本学のidentityを明確にするため、附属図書館に歴史展示室を設置しました。
 
 このように、皆さんは、鹿児島大学のidentityを再認識する、極めて重要な時期に在学し、研鑽を積んできたわけです。共通教育および専門教育の学士課程において、豊かな教養と人間性を涵養し、職業人としての基本的専門知識・技能と態度を十分に修得し、また、修士課程および博士課程においては、真理すなわち物事の本質を貫いている法則を探求するための創造的思考法の基本を修得したことにより、本日、学位記が授与されたのであります。修得した人間力や創造的思考法は、必ずや皆さんの生涯を切り拓いていく力となるものと信じています。自分の可能性を信じ、自分の夢に向かって果敢に挑戦し、飛躍されることを心から切望します。
 
 皆さんは、この4月から様々な道を歩まれることになりますが、どの道を進むにしても、われわれを取り巻く社会は、世界的な経済不況が渦を巻いて広がっています。少子高齢化が急速に進む中、経済不況、環境問題、地域間の格差の広がり、世代をまたがる社会的・経済的格差の固定化への懸念、社会における安全・安心の確保など看過できない諸問題が生じています。国際社会においても、地球環境問題や食料・エネルギー問題など人類全体で取り組まなければならない問題が深刻化しています。これらの諸問題に立ち向かい、乗り越えるための知恵を如何に生み出すか、如何に実行するかが、今まさに我々一人ひとりに鋭く問われていると思います。また、経済性や利便性といった単一の価値観を過剰に追求する風潮や人間関係の希薄化などの中で、他と調和して共に生きる喜びや、そのために求められる倫理などを含めた価値観をも重視し、人々が心豊かに安心して生活できる「希望ある成熟社会」を実現するため、これらの問題解決に果敢に挑戦する若者が求められています。持続発展可能な「希望ある成熟社会」づくりに、積極的に、建設的に参加することが、鹿児島の教育的伝統である「進取の精神」を受け継いだ鹿児島大学で教育を受け、いま、まさに社会へ飛びたたんとする皆さんに課せられた使命ではないでしょうか。
 
 そして、そのような実践の中で、さらに、豊かに人間力を涵養し、「希望ある成熟社会」の力強い担い手に、成長されることを希望してやみません。皆さんの人生の節目である新しい門出にあたり、「人間力の涵養」について再度申しあげたい。人間力を追求した古今の賢者は、人間力を涵養するためには、『物事に出会い、人物に出会い、発憤し、感激し、自己の理想に向かって向上心を燃やしていくこと。次に、大事なのは志である。すばらしい志を持つこと。第3は与えられた場で全力を尽くすこと。第4はその一貫持続であり、第5は優れた古今の人物に学ぶことである。優れた人の生き方に学なぼうとしない人に人間的成長はない。第6は素直な心、柔軟な心こそ、人間力を高めていく上で欠かせない一念である』と指摘しています。 
 
 人間力とは、人間の総合的な力のことであります。知識、技能、教養、コミュニケーション能力、実行力、徳性といったもろもろの要素が総合して練り上げられ、結晶するもの、それが人間力であろうと思います。
 
 今日の輝かしい門出を迎えることができたのは、皆さんの努力によることは無論でありますが、ご家族の愛情、教職員の励まし、人間的絆とは何かを教えてくれた先輩や友人の心の温かさを忘れず、これからも「人間力の涵養」に生涯にわたり努めてもらいたいと思います。
 皆さんの健闘を称え、さらなる発展を祈念して、告辞と致します。
 
平成22年3月25日
 
鹿児島大学長   
吉 田 浩 己