平成22年度卒業式告辞(平成23年3月25日)
例年になく、幾度も、雪が降り、桜島が真っ白に冠雪した寒かった冬も去り、その厳しさに耐えた学内の北辰通りや植物園の木々が、力強く、芽吹き、風光る今日、ここに、平成22年度の卒業式・修了式を挙行できますことは、本学にとりまして大きな喜びであります。めでたく学部を卒業される1945名の皆さん、大学院を修了される590名の皆さんに心からお祝い申し上げます。
ここまで様々な面で支え、励ましていただいたご家族の皆様、ご指導された本学の教職員の皆様にも、心からのお礼とお祝いを申し上げます。
皆さんは、入学後、学友と切磋琢磨して勉学するとともに、サークルやボランティア活動により心身を鍛えるなど、充実した大学生活をおくられたことと思います。また、直面した困難や悩みを見事に乗り切り、大いなる達成感をもって本日の卒業式・修了式を迎えられていることと察しますとともに、皆さんの努力と研鑽に、心より敬意を表します。特に、留学生の皆さんには、生活習慣の違う日本での学業はさぞかし大変であったことでしょう。母国の期待を担い、留学を立派に全うされた皆さんにとって、今、まさに感慨無量であろうと察します。今後、鹿児島大学および鹿児島の人々と絆を持ち続けて、鹿児島と母国との架け橋として、おおいに活躍されますことを心から期待しております。
皆さんは、共通教育および専門教育の学士課程において、豊かな教養と基本的専門知識・技能と態度を十分に修得し、また大学院の修士課程および博士課程おいて、真理すなわち物事の本質を貫いている法則を探求するための創造的思考力を修得したことにより、本日、学位記が授与されたのであります。修得した学士力や創造的思考力は、皆さんのこれからの生涯を切り拓いていく上で、大きな力となるものと信じています。自分の可能性を信じ、自分の夢に向かって果敢に挑戦し、飛躍されることを心から期待します。
本学が存在する鹿児島は、鹿児島中央駅前広場に建立されている「若き薩摩の群像」の若者のように、高い志をもって、幾多の困難に果敢に挑戦し、わが国の変革と近代化を推進した、数多くの人材を輩出してきました。鹿児島大学の起源は、1773年(安永2年)に創立され、進取の気性に富む多くの若者を育てた藩学造士館であります。本学の教育理念は鹿児島の教育的伝統である『進取の精神』を受け継ぎ、真理を愛し、高い倫理性と社会性を備え、向上心を持って自ら困難に立ち向かい、地域および国際社会で、活躍しうる人材を育成することであります。皆さんが卒業する今年度は本学にとって記念すべき素晴らしい出来事がありました。それは、学生諸君が、自らの行動指針を学生憲章としてまとめ、昨年の11月15日、第61回開学記念日に制定したことであります。学生憲章を制定している大学は少なく、学生が主体となって制定したのは、本学が全国で初めてであります。授業だけでなく、課外活動やボランティア活動など、社会との関わりの中で人間力と進取の精神を涵養し、高い志をもって自己実現をめざすことを高らかに謳っています。鹿児島大学の教育理念をしっかりと受け止め、国民の期待や要望に応えるすばらしい内容であり、私は、この憲章を自らの手で作り上げた学生諸君を誇りに思っています。今後、本学の学生にはこの憲章を高々と掲げ、力強く実践することを心から期待しています。また、今日卒業される皆さんには、卒業後もこの憲章の理念を堅持し、人格の陶冶に努めるとともに、社会の発展のために様々なことに果敢に挑戦していただくことを希望いたします。皆さんが卒業後もこの憲章の理念をより高いレベルで実践する姿が、後輩の魂を共鳴させ、進取の精神が後輩へ確実に継承されると思います。この継承が長期間継続することにより、進取の気風が校風となり、本学のidentityが一歩一歩と確立していくものと信じています。したがって、皆さんがまさに社会へ飛び立たたんとする大きな節目にあたり、本学の基本理念を再度、心に刻み、共有化するために、学生憲章を朗読いたします。
◆鹿児島大学 学生憲章◆
私たちは、鹿児島大学の学生であることを誇りとし、学ぶことのできる環境に感謝し、桜島のように気高く、時には激しさをもち、自らを磨き、未来を拓いていきます。
1.私たちは、我が国の変革と近代化を推進した先人たちの「進取の精神」を継承し、困難な課題にも果敢に挑戦し、強い意志と柔軟な心をもって自己実現をはかります。
2.私たちは、幅広い教養を身につけ、高度で専門的な知識・技能を修得し、地球的視野をもって活躍する人間になることを目指します。
3.私たちは、サークル活動などの課外活動に積極的に参加し、仲間との友情を育み、思いやり深く魅力溢れる人間になります。
4.私たちは、地域社会との関わりの中で、一人の人間として責任ある行動を心がけ、社会に貢献できるよう全力をつくします
平成22年11月15日(第61回鹿児島大学開学記念日)制定
学生憲章は以上であります。進取の精神を堅持し、社会発展へ果敢に参画されますことを期待いたします。
この度の東北地方太平洋沖の巨大な地震と津波は、これまでに例をみない規模の災害を引き起こしました。被災地の悲惨な状況に全ての国民は深く心を痛め、鹿児島大学も大きな悲しみに包まれています。被災された方々に対し、心からお見舞いを申し上げますとともに、お亡くなりになられた方々およびそのご家族には、衷心よりお悔やみ申し上げます。そして、未曾有の災害からの早期復興を支援するために全学を挙げて努める所存であります。現在、学長を責任者とする支援本部を立ち上げ、義援金の募金をはじめ、様々な取り組みを行っております。鹿児島大学水産学部の練習船かごしま丸は、国立大学協会からの特別の要請に応え、本学および九州地区の国立大学の学生および教職員の心のこもった救援物質を満載し、海路、新潟港へ向け、まっしぐらに進んでいるところであります。今後も、鹿児島大学は、被災された方々をこれからも様々な面から支援していきたいと考えています。
皆さんには、このような状況の中で卒業する意味をしっかりと考えていただきたいと思います。この厳しい試練を乗り越え、日本の未来を構築するために、大変大きな期待と責任が課せられていることを心に刻んでいただきたい。
我々を取り巻く社会には、大震災、経済不況など看過できない諸問題が生じています。国際社会においても、地球環境問題や食料・エネルギー問題など人類全体で取り組まなければならない問題が深刻化しています。これらの諸問題に立ち向かい、乗り越えるための知恵を如何に生み出すか、如何に実行するかが、今まさに我々一人ひとりに鋭く問われていると思います。人々が心豊かに安心して生活できる、持続発展可能な「希望ある成熟社会」づくりに、果敢に挑戦することが、本学で「進取の精神」を涵養し、今、まさに社会へ飛びたたんとする皆さんに課せられた使命ではないでしょうか。
今日の輝かしい門出を迎えることができたのは、ご家族の愛情、教職員の励まし、人間的絆とは何かを教えてくれた先輩や友人の心の温かさによることを忘れず、これからも「人間力と進取の精神の涵養とその実践」に生涯にわたり努めてもらいたいと思います。
皆さんの健闘を称え、さらなる発展を祈念して、告辞と致します。
平成23年3月25日
鹿児島大学長 吉田浩己