トップページ大学紹介平成23年度卒業式告辞(平成24年3月23日)

平成23年度卒業式告辞(平成24年3月23日)

 冬の厳しさに耐えた構内の北辰通りや植物園の木々が、力強く、芽吹き始めている今日、ここに、平成23年度の卒業式・修了式を挙行できますことは、本学にとりまして大きな喜びであります。めでたく学部を卒業される1985名の皆さん、大学院を修了される557名の皆さんに心からお祝い申し上げます。

 ここまで様々な面で支え、励ましていただいたご家族の皆様、指導や学習教育活動を支えられた本学の教職員の皆様にも、心からのお礼とお祝いを申し上げます。

 

 皆さんは、入学後、学友と切磋琢磨し、学業に精励するとともに、ボランティアやサークル活動などにも真摯に取り組くみ、人格の陶冶に努め、学園生活を十分に謳歌されたことと思います。また、直面した困難や悩みを見事に乗り切り、大いなる達成感をもって本日を迎えられたことと思います。皆さんの努力と研鑽に心より敬意を表したいと思います。特に、留学生の皆さんには、生活習慣の違う日本での学業はさぞかし大変であったことでしょう。母国の期待を担い、留学を立派に全うされた皆さんにとって、今、まさに感慨無量でしょう。今後、鹿児島大学および鹿児島の人々と絆を保ち、鹿児島と母国との架け橋として、おおいに活躍されんことを心より祈念いたします。

 

 皆さんが鹿児島大学で過ごした期間は、日本社会には、大変厳しい試練の時期でありました。リーマン・ショックに端を発した世界的な金融危機、経済危機により、日本の経済不況が一層深刻化する中、昨年の3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生し、巨大な地震と津波、その後の原発事故は未曾有の災害を引き起こしました。被災地の悲惨な状況に全ての国民は深く心を痛め、鹿児島大学も大きな悲しみに包まれました。安全安心な社会と思われていた日本において、なぜ、これほどの多くの人命が失われてしまったのか、安全を極めたはずの原子力発電所をなぜ、コントロールすることができなかったのか、まことに無念です。鹿児島大学は、震災直後より、義援金の募金、医療支援チームや学生ボランティアの派遣、練習船鹿児島丸による救援物資の輸送をはじめ、学生と教職員は様々な取り組みをいたしました。鹿児島大学は、今後も、被災地の復興まで、被災地からの支援要請にたいし、一刻の遅滞なく、大学の総力をあげて応えていく決意であります。

 日本は、第二次世界大戦の惨禍に対する深い反省を踏まえて、一面の焼け野原の中から、驚異的な復興をとげ、国内総生産(GDP)は飛躍的に伸び、わずか40年間で世界第2位の経済大国までに登りつめました。しかし、その後、経済のグローバル化と経済合理性の追求は、国内産業の空洞化、非正規雇用者の増加、社会的・経済的格差の拡大など、日本社会に、様々な深刻な歪みを生みました。そして、この度の想定外の激烈な地震や津波は、原発事故をおこし、社会生活の最も基本である「生命の安全と生活の安定」を瞬く間に打ち砕かきました。未曾有の震災は、日本の復興と再生にあたり、人間と自然、科学、原子力等との係わり方を根本的に見直せと我々に鋭く迫っています。自然の激しさと我々が理想とする持続可能な生態系をすでに作り上げている自然のすばらしさ、その自然の破壊が我々の生活環境へ深刻な影響を与えていることを認識し、これからは、これらの自然との共生を復興と再生の基本におき、ブータン国のように、人間の幸せを、物財の豊かさに求めず、人間の幸せは主観的な満足の大きさであると喝破し、GDP成長主義の視点から国民総幸福量(GNH)、すなわち、幸福度の価値観の視点へとシフトし、より深い精神性を大切にし、心豊かに安心して生活できる「希望ある成熟した社会」の形成を目指すべきではないでしょうか。

 戦後最大の試練の時期に在学中し、卒業していく皆さんには、これらの出来事を生涯にわたり忘れることなく、国民が同じ苦しみや悲しみを二度と味わなくて済むような社会の形成へ、責任ある参画が、務めではないでしょうか?

 学生諸君、この試練の先に、日本の明るく、豊かな未来を築くために、諸君には、大変大きな期待と責任が課せられていることを心に刻んでいただきたい。

 

 また、皆さんが鹿児島大学で過ごした期間は、本学が本学のアイデンティティーを熱烈に追求して時期でもありました。

 本学が存在する鹿児島は、鹿児島中央駅前広場に建立されている「若き薩摩の群像」の若者のように、高い志をもって、幾多の困難に果敢に挑戦し、わが国の変革と近代化を推進した、数多くの人材を輩出してきました。鹿児島大学の起源は、1773年(安永2年)に創立され、そのような進取の気性に富む多くの若者を育てる上で、中心的な役割をになった藩学造士館であります。本学は、鹿児島の教育的伝統である『進取の精神』を受け継ぎ、高い倫理性と社会性を備え、向上心を持って自ら困難に立ち向かい、地域および国際社会で、活躍しうる人材を育成することを本学の基本理念にすることを大学憲章としてまとめ、平成19年の第58回開学記念日に学内外に高らかと宣言いたしました。そして、学生諸君は、平成22年の第61回の開学記念日には、人間力と進取の精神を涵養し、高い志をもって自己実現をめざすことを学生憲章としてまとめ上げました。今日卒業される諸君は卒業後もこの学生憲章の理念を実践していただきたい。 そのことによって、諸君と後輩である在校生の志が共鳴し、進取の精神が継承され、本学のidentityが確立されていくものと信じます。皆さんが作り上げた大學憲章は、本学がidentityを確立する上で歴史的存在となると思います。

 

 

 また、皆さんは、共通教育および専門教育の学士課程に豊かな教養と人間性を涵養し、職業人としての基本的専門知識・技能と態度を十分に修得し、また、修士課程および博士課程おいて、真理すなわち物事の本質を貫いている法則を探求するための創造的思考法の基本を修得したことにより、本日、学位記が授与されたのであります。修得した知識、技能や態度・思考および創造的思考法は、皆さんの未来を切り拓いていく力となるものと信じています。しかし、修得したものは、まだまだ基礎的あり、素朴なものであります。現実社会の実践の中で鍛えて、これらは初めて本物となり、確実に社会に役に立つものとなります。従って、自分の可能性を信じ、進取の精神をもち、自分の夢に果敢に挑戦されますことを心から期待します。

 

 

 本日の卒業式において、皆さんの社会への勇躍を祈念して、在学生とOBにより第七高等学校第14記念祭歌「北辰斜めに」が贈られます。「北辰ななめに」は1915年(大正4年)に学生であった簗田勝三郎が作詞したものであります。「北辰ななめにさすところ」とは、我が学舎は、北極星が北の夜空に低く斜めに見える鹿児島にあることを表現してものであります。1番と2番で鹿児島の風土、静の薩摩潟と動の桜島を称え、3番と4番では自己研鑽と理想への勇躍を歌い上げています。97年間、七高生と鹿大生に受け継がれている不朽の名歌であります。本学のアイデンティティーを胸に刻み、社会へ飛び立っていただきたい。

 

 今日の輝かしい門出を迎えることができたのは、皆さんの努力によることは無論でありますが、ご家族の愛情、教職員の励まし、人間的絆とは何かを教えてくれた先輩や友人の心の温かさを忘れず、これからも「進取の精神をもち、地域社会と国際社会の豊かな発展のため」に生涯にわたり挑戦してもらいたいと思います。

 皆さんの健闘を称え、さらなる発展を祈念して、告辞と致します。

 

平成24年3月23日   

鹿児島大学長 吉田浩己