トップページ大学紹介平成24年度入学式告辞(平成24年4月6日)

平成24年度入学式告辞(平成24年4月6日)

 新入生諸君、入学おめでとう。

 楠の若葉が鮮やかに輝き、まさに、春爛漫にして清明の今日、雄大な桜島を背景に、平成24年度の入学式を挙行し、若き熱情と希望に満ち溢れる皆さんを鹿児島大学にお迎えできますことは本学にとりまして大きな喜びであります。

 今年は、法文学部、教育学部、理学部、医学部、歯学部、工学部、農学部、水産学部、共同獣医学部の9学部に、2023名の学部学生、人文社会科学研究科、教育学研究科、保健学研究科、理工学研究科、農学研究科、水産学研究科、医歯学総合研究科、司法政策研究科、臨床心理学研究科の9研究科に575名、計2598名および連合農学研究科の33名の大学院生を加え、66名の外国人留学生を含め、総勢2631名の新入生を迎えました。

 ここに、2400名の教職員と1万名の在校生とともに、皆さんの一人ひとりを心から歓迎いたします。また、見事入学を果たされた皆さんのご努力に敬意を表し、その志を支えられたご家族の皆さまに心よりお慶びを申しあげます。

 皆さんが学生生活をおくる鹿児島は、活火山の櫻島や霧島、世界自然遺産の屋久島および生物多様性に富む奄美群島など、後世に遺すべきすばらしい自然環境にめぐまれており、また、古今、アジアと世界の諸地域に開かれた南の門戸として、海外との交流を通じ異文化の導入を率先して行い、豊饒の文化を育んできた地であります。このような風土の中、鹿児島は、鹿児島中央駅前広場に建立されている、1865年、鎖国のなか、英国に留学した「若き薩摩の群像」の19名の若者のように、幾多の困難に果敢に挑戦し、わが国の変革と近代化を推進した数多くの英才を輩出してきました。 19名の留学生のうち出発時には、13歳ともっとも年少であった、のちにカルフォルニアのぶどう王となる長沢かなえと、19歳で、本学の原点である藩学造士館出身で、後に初代文部大臣となる森有礼を皆さんへ紹介いたします。長沢かなえはスコットランドの中学校で、森有礼らはロンドン大学で学業に励みます。明治維新の直前に、日本国内情勢の緊迫や藩財政の窮迫により、大半の留学生はやむを得ず帰国いたしますが、長沢や森ら5名はアメリカに渡り勉学を続けます。森有礼は、明治維新後帰国し、日本初の外交官としてアメリカへ、公使としてイギリスに赴き、卓越した国際感覚の外交官として大活躍をします。また、日本近代化の基礎作りとして、近代的学校体系の骨組みを築くことに献身し、明治18年、39歳の若さで、初代の文部大臣となります。一方、長沢かなえは一人、アメリカに残ります。明治8年にアメリカ東部より、カルフォルニア、サンフランシスコの北にあるサンタローザに移住し、ぶどう園の開墾に挑戦いたします。長年にわたる様々な挑戦を繰り返し、広大なぶどう園を開墾し、ぶどう酒の醸造にも成功します。この地方の商工会議所の会頭に選ばれるなど、地域社会の中においても、尊敬を集め、82歳で生涯を閉じます。長沢の広大なぶどう園はサンタローザ市へ寄贈されます。昭和58年、レーガン米国大統領が日本の国会における演説で日米を結ぶ歴史的な繋がりの一例として長沢かなえにふれ、カリフォルニアのぶどう産業への貢献度は計り知れないと、その業績を称えました。

 森有礼と長沢かなめは、異国の地で、直面した数々の困難にめげず、果敢に挑戦を続けるなかで、様々な知識、技能、教養、コミュニケーション能力、実行力、徳性など、極めて高い人間力を修得した結果、近代化のリーダーとなりえたのではないでしょうか。

 

 鹿児島大学の起源は1773年(安永2年)に創立され、森有礼のように、困難にめげず、果敢に挑戦する、すなわち、「進取の気性」に富む若者を育てた藩学造士館であります。鹿児島には、明治以降も、藩学造士館の名跡を受け継いだ第七高等学校造士館、ウイリアム ウイリスを校長とする西洋医学校、鹿児島師範学校、鹿児島高等農林学校、鹿児島県立商船学校、鹿児島県立工業専門学校などが創立されました。これらの高等教育機関はそれぞれ長い歴史を刻んだ後、1949年(昭和24年)に統合され、新制鹿児島大学としてスタートいたしました。その後、1977年(昭和52年)に歯学部、本年の4月に共同獣医学部が新たに設置され、現在、9学部と10大学院からなり、約12000名の学部学生と大学院生が在籍する質量とも西日本有数の総合大学へと発展し、現在も様々な改革を行いながら絶えず成長を続けている「真理の探究」と「人格の陶冶」を使命とする「知の拠点」であります。

 この間、藩学造士館から数えると239年の歴史を有する本学は、鹿児島の教育的伝統を継承し、「自ら困難に果敢に挑戦する気概、すなわち、進取の精神をもって、国際社会と地域社会で活躍しうる人材を育成する」ことを本学の教育理念として掲げています。 鹿児島大学で学んだ全ての若者には、自ら進んで困難に果敢に挑戦する気概に溢れており、日本の将来を安心して託すことが出来ると国民から高い評価と信頼を得ることができるよう、皆さんを育てることが鹿児島大学の主たる任務であり、教職員の決意であります。気概ある学生をいかにすれば育成することができるか、この命題への教職員の果敢な取り組みにより、いくつもの実効性ある、大変魅力的な授業科目が次々に開発されつつあります。その1つにグローバルな視野をもち、国際社会の発展に貢献できる実践的な能力を育み、向上心をもって自ら困難に立ち向かう態度を養うことを目的とする鹿児島大学独自の海外研修プログラムがあります。このプログラムは、現在16科目で構成されており、昨年度は140名を越える学生が、この海外研修を体験しました。米国、中国、韓国、タイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、フィリピン、ブラジル、パラグアイの現地での生活体験や地元の住民や学生との交流から学ぶ、現場体験型のこれらの授業には、旅費の支援もあり、入学した1年目から履修できます。まずは、進取の気風溢れる鹿児島大学の一員となった心意気をもって、教職員が皆さんの成長のために心を込めて準備しているこれらの授業に果敢に挑戦し多くのものを学び取っていただきたいと思います。

 また、学生は平成22年11月15日、第61回開学記念日に本学の学生としての学習行動規範として「学生憲章」を制定しました。学生自らが学生憲章を制定した国立大学は、我が国では本学が初めてであります。桜島のように気高く、時には、激しさをもち、自らを磨き、未来を拓いていきますと謳い、勉学に真摯に取り組むとともに、ボランティアやサークル活動などを通して、人間力を養い、人格の陶冶を目指すとともに、鹿児島大学のアイデンティティである進取の精神を継承することを高らかに宣言し、現在、この学生憲章を力強く実践しています。 

 平成23年3月11日、東北地方太平洋沖地震と津波による未曾有の災害が起こるや、学生達は直ちに、街頭に出かけ、義捐金の募金活動を開始するとともに、被災地における瓦礫の撤去作業にはボランティアとして24回にわたり参加いたしました。このように、自ら作り上げた学習・行動規範である学生憲章を堅持し、進取の気概をもって実践している先輩が数多くいる鹿児島大学の一員となったことに誇をもち、この学生憲章を胸に研鑽をつみ、そして来年に入学してくる後輩へこの鹿児島大学学生憲章の精神を伝えることが皆さんの務めであることもしっかりと自覚していただきたいと思います。

 本日の式典において、皆さんの入学を祝して、在学生とOBにより第7高等学校第14記念祭歌「北辰斜めに」が贈られます。「北辰斜めに」は1915年(大正4年)に第七高等学校造士館学生の簗田勝三郎が作詞したものであります。「北辰斜めにさすところ」とは、我が学舎は北極星が北の夜空に低く見える鹿児島にあることを表現したものであります。鹿児島の風土、静の薩摩潟と動の桜島を讃え、自己研鑽と理想への勇躍を歌い上げています。「北辰斜め」は97年間、7高生と鹿大生に歌い継がれている不朽の名歌であります。「北辰斜め」を愛唱し、切磋琢磨する仲間と本学のアイデンティティである進取の気概を共有し、青春を謳歌していただきたい。

 

 最後にもう一度申したいことは、皆さんが鹿児島大学に入学し、研鑽する期間は、日本社会にとって、大変厳しい試練の時期であります。日本の経済不況が深刻化するなか、昨年の3月11日、東北地方太平洋沖の激烈な地震と津波、その後の原発事故は、社会の最も基本である「生命の安全と生活の安定」を瞬く間に打ち砕きました。なぜ、これほど多くの命が失われてしまったのか、まことに無念です。鹿児島大学は、震災直後より、練習船鹿児島丸により支援物資の輸送や、医療支援チームの派遣などをはじめ、被災地からの要請にたいし、一刻の遅滞なく、大学の総力をあげて支援してまいりました。今後も、被災地が復興するまで、支援を継続いたす決意であります。 新入生の皆さんは、与えられた自己の命の意味を深く考えるとともに、一人一人、被災地の復興のために 今何ができるか、何をなすべきか、を自己に問い、進取の精神を発揮し実践しなければなりません。そして、今回の災害が厳しく提示した、自然の計り知れない激しさ、科学技術の意外な脆弱さ、危機や大災害に対する社会システムの不完全さ等の課題を、専門家の卵として解決の模索にチャレンジつづけて、大学生活を送っていただきたいと思います。

 皆さんと同世代の多数の若者の命を奪った未曾有の災害を生涯にわたり忘れることなく、国民が同じ苦しみや悲しみを二度と味わうことのない、安全安心な未来を築くために、皆さんには、大きな責任が課せられていることを心に刻んでいただきたい。

 

鹿児島大学に入学された皆さん、無限の可能性を秘めた若くて能力のある皆さんが、一人一人、鹿児島大学で様々な研鑽を積む中で、先人の進取の精神を引き継ぎ、持続発展可能な『希望ある安全安心の成熟社会』の力強い担い手に成長されることを心より祈念して告辞といたします。

 

      平成24年4月6日

                     鹿児島大学長  

                         吉 田 浩 己