トップページ大学紹介令和3年度卒業式・修了式告辞(令和4年3月25日)

令和3年度卒業式・修了式告辞(令和4年3月25日)

 さて、現在、全国的に新型コロナウイルスの感染状況が深刻な状態からいまだ脱することができず、本学としましても大変残念なことではありますが、鹿児島県総合体育センター体育館で一堂に会しての式典を実施することは適当でないと判断するに至り、三年連続となりますが、代表者のみを迎えての簡素な式とさせていただくこととしました。卒業生・修了生の皆さんにとって人生の節目としてかけがえのない式典であり、またご家族の皆様もその晴れの日を楽しみにしておられたことと存じます。皆様方のお気持ちを考えますと、苦渋の選択でございましたが、皆様の健康と安全を保ち、新年度からの新たな進路で無事ご活躍いただくことを第一に判断いたした上で決定させていただきました。

 本日ここに、令和三年度の卒業式・修了式を挙行いたします。学部を卒業される1921名の皆さん、大学院を修了される533名の皆さん、誠におめでとうございます。鹿児島大学教職員を代表して、心からお祝い申し上げます。また、皆さんをこれまで励まし支えてくださったご家族の方々にも、お祝いと感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

 鹿児島大学は、昭和二十四年(一九四九年)五月に創設され、令和元年に七十周年を迎え、本日卒業・修了する皆さんは、鹿大七十三期生として巣立たれることになります。鹿児島大学におきましては、創立以来、七十三年の間に巣立った卒業生は、十二万名に及ぼうとしています。本学の大学憲章では、「自主自律と進取の精神を培い、自ら困難に立ち向かい、地域社会や国際社会で活躍しうる人材を育成する」と謳っており、多くの卒業生が、現在も国内外の様々な分野で活躍をし続けています。このような多くの先輩方のように、本日卒業・修了する諸君にも真のグローカル人材として羽ばたいて欲しいと願っています。また、卒業生・修了生の中には、多くの外国人留学生の皆さんも含まれています。学士課程27名、大学院修士課程34名、大学院博士課程15名、合わせて76名に学位記を授与することができました。言葉や習慣の違いを克服して、目的を達成された皆さんの努力に心から敬意を表します。今後も、鹿児島大学および鹿児島の人々との絆を保ち、鹿児島と母国との架け橋として、大いに活躍されますことを祈念いたします。

 さて、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを考える際に、感染症と闘った研究者として、近代細菌学の開祖といわれるフランスの科学者ルイ・パストゥールの名が挙げられます。新型コロナウイルス感染症でも予防法として大いに活躍しているワクチン療法ですが、弱毒化した病原体を接種することで感染症の予防をもたらすというワクチン療法の考案もパストゥールの大いなる功績です。彼は名言をたくさん残していますが、今、学び舎を去り社会に飛び立つ、もしくは、学びを続けて更なる高みを目指す、そんな君たちに心に留めおいてほしい次のような言葉があります。
「偉大な人々は目標を持ち、そうでない人々は願望を持つ。」
これからの人生を歩んでいく上で、願望のレベルではなく、明確な目標を持つことが人生を成功へと導くものであると意味していると考えます。諸君も身近な目標と共に中長期にわたる目標をしっかり持って日々の生活を送ることの大切さを頭に置いて欲しいと思います。
また、パストゥールは以下の言葉も残しています。
「科学と平和が、無知と戦争に勝利することを、私は確信している。」
国際情勢の不穏な今日この頃ですが、この時期に本学で学びを得た諸君にも、全世界で学問の自由が保障され、社会の平和と自由で安全な環境の実現を希求してほしいと考えます。今後の人生において、是非このことを念頭に振る舞っていただきたいと存じます。

 話は変わりまして、鹿児島大学が掲げる大学憲章には、本学が進む方向について以下のように規定されています。「鹿児島大学は、学問の自由と多様性を堅持しつつ、自主自律と進取の精神を尊重し、地域とともに社会の発展に貢献する総合大学をめざす。」進取の気風とは"自ら困難な課題に果敢に挑戦する態度"のことで、本学に所属する学生、教職員のすべての構成員が、新たな課題に挑戦する気風にあふれていることを意味します。

 鹿児島中央駅を降り立ちますと、「若き薩摩の群像」があるのを皆さんは知っていると思います。ちなみに、この像は、本学名誉教授で、日本芸術院会員、文化勲章受賞者でもあられる中村 晉也先生の作であります。今から百五十有余年前に、薩摩藩は薩英戦争を行い、西洋文明がはるかに進んでいることを知り、西洋の進んだ学問や科学技術、産業、教育また社会の仕組みなどを学ぶために、国禁を犯してまで多くの若者を英国へ留学させました。この中には、のちに初代文部大臣となった森有礼もいました。明治維新後に文部大臣となった森は、初代総理大臣となった伊藤博文を説得し、日本の将来にとって教育がいかに大切かを説き、義務とした初等教育の開始とともに最高学府として大学の創設を行いました。当時の国家予算の約5割をかけて教育に全力投球をして近代日本学校制度の基礎を作ったわけです。他の留学生たちも異国での様々な困難を乗り越え、帰国後は、我が国の近代化に大きな足跡を残しました。鹿児島大学では、これら鹿児島の先人たちのチャレンジ精神に学び、この「進取の精神」を備えた人材を育成することを教育の基本理念とし、実践しているわけです。皆さんは、本学での「進取の精神」を尊ぶ学びを修め、自らの人間力と専門性を深めてまいりました。このような鹿児島大学での学びを誇りとして、自信と勇気を持って、国内外の様々な課題に果敢に挑戦し、世界の平和と繁栄のためにひとりひとりの役割を果たして下さい。

 昨今、私たち人類は、様々な課題を抱えるに至っています。国際的には、国境を越えての感染症の脅威、世界を緊張に巻き込む軍事的紛争、貧困格差の拡大などに伴って発生した地球規模の難民問題、地球温暖化に伴う環境問題と多彩な自然災害、また、国内においても、極端な少子高齢化社会の到来、さらに自然災害の頻発とその復興など、解決すべき課題が山積しています。皆さんは、これら諸問題に対峙すべく、鹿児島大学で修得した知識や技術に加え、課題解決力、企画力、コミュニケーション力、ならびにリーダーシップを遺憾なく発揮し、これからの日本ならびに国際社会の発展に力強く貢献して戴きたいと思います。

 皆さんが、颯爽と社会を牽引するリーダーとして活躍・大成されることを期待しまして告辞といたします。

令和四年三月二十五日    
鹿児島大学長 佐野 輝