トップページ大学紹介令和4年度入学式 告辞(令和4年4月7日)

令和4年度入学式 告辞(令和4年4月7日)

 新入生の皆さん、鹿児島大学への入学、おめでとうございます。鹿児島大学教職員を代表しまして、心からお祝いを申し上げます。入学を果たされた皆さんのこれまでの研鑽と努力に敬意を表しますとともに、その志を支えてこられたご家族をはじめとした関係の皆様方に対し、心からお慶び申し上げます。

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、例年のように鹿児島県総合体育センター体育館での式典を実施することは適当でないと判断するに至り、三年連続となりますが、代表者のみを迎えての簡素な式とさせていただくこととしました。一堂に会して入学式を執り行うことを、私たちも楽しみにしておりましたが、このように学内で規模を縮小して挙行する次第です。人生の節目となるこの式典を心待ちにしていた皆さんにとって、本当に残念なことであると思います。私どもにとりましても苦渋の決断でしたが、新生活を迎える新入生の皆さんとご家族はじめ関係の皆様の、生命と健康を守ることを最優先に考えた結果であることを、どうかご理解ください。

 このような状況ではありますが、ここ鹿児島では、春爛漫、緑豊かな美しい本学のキャンパスと鹿児島の街並み、そして桜島も、皆さんを温かく迎え入れているように感じます。

 今年度は、本学の9つの学部に1,935名の学部学生、また、9つの大学院研究科に586名の大学院生、総勢2,521名の新入生を迎えました。このうち49名の海外からの留学生を迎えています。しかし、ウクライナから国費留学予定の1名の学生は隣国ポーランドに向けて避難準備中とのことで、残念ながら日本への入国すらできていない状況です。現在、鹿児島大学は、約9,000名の学部学生と約1,500名の大学院生(うち留学生約300名)、併せて約1万数百名の学生が在籍しています。学生数から見ましても、九州においては国立大学として九州大学に次いで大きな南九州における最高学府として存在するのが鹿児島大学です。鹿児島大学が、現在の新制大学としての形を整えましたのは、戦後の昭和24年・1949年のことです。明治以降に設立された旧制第七高等学校造士館をはじめ各種の高等教育機関を統合して発足した新制国立鹿児島大学としての歴史の73年の間には、日本は戦後の復興と高度経済成長を経て、世界有数の先進国となり、平和な社会を獲得しました。その間、鹿児島大学におきましてもその教育を受けた12万人に及ぶ人材を輩出し日本国内外の発展に大きな役割を果たしてきました。そして、一昨年前から鹿児島大学の歴史の中でも経験したことのない新型コロナウイルス感染症パンデミックを経験することになりました。
 
 昨今のグローバル化の進展により、小さな地域での感染症の発生が、すぐにも地球規模の問題となって拡散し深刻な事態を招いています。しかし、このような時こそ、人類が蓄えてきた「知の力」を充分に活かすべきであると考えられます。「知の力」を考える上で、大学とはその中心的な「知の拠点」であり、入学生の皆さんは私達と共に、その活動を支える仲間になったのです。「知の力」の「知」とは、知識の「知」のみならず、知恵の「知」であり、熟慮をしてこその「知」であります。皆さんには、このような「知の力」をもって地球レベルの困難に立ち向かう人材として育ってほしいと願います。そして、また、鹿児島が生んだ偉人・西郷隆盛の遺した言葉に「急速は事を破り、寧耐(ねいたい)は事を成す。」というものがあります。寧耐とは心静かに落ちつきはらって、迫りくる困難や苦痛に耐えることです。急いては事を仕損ずるとも言いますが、物事はあわてて取り組むと失敗するが、落ち着いて冷静に進めれば成功するという意味です。まさにコロナへの対応にはこのような態度が求められていると思います。

 今後はウィズコロナの状況が続くことを覚悟しなければなりません。入学後のキャンパスライフを不安に思っているかもしれませんが、本学では、感染拡大防止策を徹底してデジタル技術も駆使した教育研究活動を進めています。今日の情報通信技術の急速な発達は、インターネットを介した知識の集積や流通を通じて「知」の世界にも大きな革命をもたらしました。従来は、時間と労力をかけて書物などの資料にあたって得た知識は、スマートフォンやパソコンを使って瞬時に得ることができるようになりました。しかし、真の「知」とは、自らが経験した上でしっかり考えることによって生みだされるものです。浅薄な、そして、あやふやな知識を鵜呑みにしてしまっていませんか。自分の頭で、じっくり考えて本当の「知」を掴んでいってください。そのためには継続的な努力が必要になりますが、これは決して苦しい作業ではなく、むしろ面白いと感じるようになると思います。皆さんは「知の世界」の入り口の扉を今まさに開こうとしています。私たちは、今後、皆さんの「知」への挑戦を全力で応援したいと考えています。すでに行われたオリエンテーションでも気づいたと思いますが、これからは今までとは違い、履修するカリキュラムを自らの手で組み、予習復習の時間を確保し、さらに余暇はサークル活動等で充実させるべく、頭を使って自らの行動を組み立てていかねばなりません。さあ、皆さん、「知の世界」での挑戦を始めてください。

 さて、新型コロナウイルス感染症のパンデミックを考える際に、感染症と闘った研究者として、近代細菌学の開祖といわれるフランスの科学者ルイ・パストゥールの名が挙げられます。新型コロナウイルス感染症でも予防法として大いに活躍しているワクチン療法ですが、弱毒化した病原体を接種することで感染症の予防をもたらすというワクチン療法の考案もパストゥールの大いなる功績です。彼は名言をたくさん残していますが、今、「知の世界」での挑戦の入り口に立った君たちに心に留めおいてほしい次のような言葉があります。
「偉大な人々は目標を持ち、そうでない人々は願望を持つ。」
これからの学生生活を送る上でも、願望のレベルではなく、明確な目標を持つことが結果としての成功へと導くものであると意味していると考えます。皆さんも身近な目標と共に中長期にわたる目標をしっかり持って日々の生活を送ることの大切さを頭に置いて欲しいと思います。
 また、パストゥールは以下の言葉も残しています。
「科学と平和が、無知と戦争に勝利することを、私は確信している。」
国際情勢の不穏な今日この頃ですが、この時期に本学で学びを得る皆さんにも、全世界で学問の自由が保障され、社会の平和と自由で安全な環境の実現を希求してほしいと考えます。今後の学生生活において、是非このことを念頭に振る舞っていただきたいと存じます。

 最後に、私からの鹿児島大学新入生への歓迎の言葉を添え、告辞とさせていただきます。

「皆さんは、未来に向けて無限の可能性を持っています。将来において鹿児島大学で学んだことに自信と誇りを持てるよう、鹿大生として充実した日々を送ることができるよう願っています。夢を持ち、実現に向けて不断の努力を行い、鹿児島から世界に羽ばたいてください。」

 鹿児島大学への入学、誠におめでとうございます。

令和4年4月7日
鹿児島大学長 佐野 輝