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令和4年度卒業式・修了式 告辞(令和5年3月23日)

 本日ここに、令和4年度の卒業式・修了式を挙行いたします。学部を卒業される1,859名の皆さん、大学院研究科を修了される556名の皆さん、誠におめでとうございます。鹿児島大学教職員を代表して、心からお祝い申し上げます。また、皆さんをこれまで励まし支えてくださったご家族や関係の皆様方にも、お祝いと感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。

 本日は、あいにくの雨模様のお天気ですが、ここ鹿児島においては祝い事の際の雨を「島津雨」と言って吉兆のしるしとされています。
 卒業生・修了生を一堂に会しての式典を実施することのできない状態が3年連続で続きましたが、本年度においては、代表者のみならず卒業生・修了生の皆さんを迎えての式を開催することができました。皆さんにとって人生の節目としてかけがえのない式典であり、皆での開催を待ち望んでいたことと思います。またご家族の皆様もその晴れの日を楽しみにしておられたことと存じますが、今回は会場の収容人数のこともあり、卒業生・修了生のみに限らせていただきました。皆様方のお気持ちを考えますと、残念な選択でございましたが、お許しをいただけましたら幸いです。

 新制国立鹿児島大学は、昭和24年(1949年)5月に創設され、以来、74年の間に巣立った卒業生・修了生は、12万名に及ぼうとしています。本学の大学憲章では、「自主自律と進取の精神を培い、自ら困難に立ち向かい、地域社会や国際社会で活躍しうる人材を育成する」と謳われているように、多くの卒業生が、現在も国内外の様々な分野で活躍しています。このような多くの先輩達のように、本日卒業・修了する諸君にも真のグローカル人材として羽ばたいて欲しいと願っています。

 また、卒業生・修了生の中には、多くの外国人留学生の皆さんも含まれています。学士課程19名、大学院修士課程21名、大学院博士課程14名、合わせて54名に学位記を授与することができました。言葉や習慣の違いを克服して、目的を達成された皆さんの努力に心から敬意を表します。今後も、鹿児島大学および鹿児島の人々との絆を保ち、鹿児島そして日本と母国との架け橋として、大いに活躍されますことを祈念いたします。

 さて、鹿児島中央駅を降り立ちますと、東口広場に「若き薩摩の群像」の銅像が聳え立っています。この像は、本学名誉教授で、日本芸術院会員、文化勲章受賞者、鹿児島市名誉市民でもある中村晉也先生の作です。今から160年前に、薩摩藩は薩英戦争を行い、西洋文明がはるかに進んでいることを知り、西洋の進んだ学問や科学技術、産業、教育また社会の仕組みなどを学ぶために、国禁を犯して多くの若者を英国へ留学させました。いわゆる薩摩スチューデントです。この若者達をモチーフにしたモニュメントが、「若き薩摩の群像」です。この中の一人が、のちに文部大臣を務めた森有礼です。明治維新後に初代文部大臣となった森は、総理大臣を務める伊藤博文に対し、「日本の将来にとって教育がいかに大切か」を説き、国民が受けることを義務とした初等教育の開始とともに最高学府として大学の創設を行いました。当時の国家予算の約半分をかけて教育に全力を注ぎ込んで近代日本教育制度の基礎を作りました。他の薩摩スチューデントたちも異国での様々な困難を乗り越え、帰国後は、我が国の近代化に大きな足跡を残しました。鹿児島大学では、これら鹿児島の先人たちのチャレンジ精神に学び、このような「進取の精神」を備えた人材を育成することを教育の基本理念とし、実践しています。皆さんは、本学での「進取の精神」を尊ぶ学びを修め、自らの人間力と専門性を深めてまいりました。このような本学での学びを誇りとして、自信と勇気を持って、国内外の様々な課題に果敢に挑戦し、世界の平和と繁栄のためにひとりひとりの役割を果たして下さい。

 さて、昨年、令和4年8月には、京セラ名誉会長であり、本学卒業生として偉大な先輩である稲盛和夫名誉博士が、京都市のご自宅で老衰のため90歳で逝去されました。稲盛氏は、鹿児島で生まれ育たれ、鹿児島大学工学部応用化学科で島田欣二教授のもとで、鹿児島でとれる入来粘土の研究をされ、「入来粘土の基礎的研究」という卒業論文をもって卒業されました。昭和34年に京セラ株式会社を創業され、大いなる発展をもたらせました。その後、第二電電のちのKDDIを設立され、さらには日本政府からの要請で一度は破綻したJAL(日本航空)の再建を約3年の短期間で見事に成し遂げられたのは皆の記憶にも新しいところです。まさに「進取の精神」の具現者として、本学が誇りとする偉大な卒業生です。氏には、長きにわたって、母校である鹿児島大学への強い愛情を形として多大なるご寄附ご寄贈や、本学経営協議会委員や学長諮問会議委員などの活動を継続的に行なっていただきました。本学へのご寄附の中でも平成29年には時価80億円相当の京セラ株式100万株のご寄附をいただいたことは、我々鹿児島大学構成員には忘れてはならない出来事となりました。本学では、京セラ株式100万株の配当金を原資として鹿児島大学稲盛和夫基金を設置し、教育研究の更なる発展のために活用しています。同基金に基づく代表的な事業としましては、「地域密着型パイロット人財創出プログラム」、UCL 稲盛留学生、新型コロナウイルス感染拡大に伴う「鹿児島大学学生緊急支援金」の給付、鹿児島大学博士研究員支援プログラム(KU-DREAM)、「鹿児島の近現代」教育研究拠点整備事業など鹿児島大学にはなくてはならない基金として活用させていただいています。これらの本学へのご功績とご貢献を称えて平成11年には本学名誉博士の称号が授与され、平成29年には稲盛氏の立像が本学学習交流プラザ「進取の気風広場」に建立されています。

稲盛和夫氏は、鹿児島大学の学生諸君へ、次のような言葉を贈られています。

 どんな境遇に遭遇しようとも
 どれほど厳しい環境に置かれようとも
 挫けることなく
 常に明るい希望を持ち
 地道な努力を一歩一歩たゆまず続けていくならば
 自分が思い描いた夢は
 必ず実現する。

 No matter how difficult the adversity,
 No matter how severe the environment,
 If you never give up,
 Always remain hopeful and positive, and
 Continuously accumulate steady efforts every day,
 Your dreams will surely come true.

 この言葉は、本学キャンパス内に建立された稲盛氏の立像の銘板に刻まれています。「進取の精神」を具現化された稲盛名誉博士のこの言葉を、折に触れて、思い出してください。

 話は変わりまして、近年、私たち人類は、様々な課題を抱えるに至っています。国際的には、世界を緊張に巻き込む軍事的紛争、国境を越えての感染症の脅威、地球規模の難民問題、貧困格差の拡大、地球温暖化に伴う環境問題や地震・火山の噴火・大雨洪水など多彩な自然災害が多発しています。また、国内においても、極端な少子高齢化社会の到来、さらに自然災害の頻発とその復興など、解決すべき課題が山積しています。皆さんは、これら諸問題に対峙すべく、鹿児島大学で修得した知識や技術に加え、課題解決力、企画力、コミュニケーション力、リーダーシップならびに「進取の精神」を遺憾なく発揮し、そして修学中にも互いに切磋琢磨した仲間と共に、これからの日本ならびに国際社会の発展に力強く貢献して戴きたいと思います。

 最後に、ここに卒業の日を迎えられた皆さんが、このような大きな変革の時代において、颯爽と社会を牽引するリーダーとして、鹿児島から世界に羽ばたき活躍・大成されるよう心から祈念しまして、お祝いの言葉とします。本日は誠におめでとうございます。


令和5年3月23日
鹿児島大学長 佐野 輝