トップページ大学紹介令和5年度入学式 告辞 (令和5年4月7日)

令和5年度入学式 告辞 (令和5年4月7日)

 新入生の皆さん、鹿児島大学への入学、おめでとうございます。鹿児島大学教職員を代表しまして、心からお祝いを申し上げます。入学を果たされた皆さんは、新型コロナウィルスのパンデミックをはじめ、国際紛争や自然災害の多発などさまざまな苦難に社会が直面する中、本学の入試を突破し、この場に集っておられます。これまでの研鑽と努力に敬意を表しますとともに、その志を支えてこられたご家族をはじめとした関係の皆様方に対し、心からお慶び申し上げます。

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、3年連続で入学式を学内での規模を縮小しての挙行としていましたが、この度は、入学生が一堂に会しての開催ができ、誠に喜ばしく思っています。ここ鹿児島の地においては、まさに春爛漫、緑豊かな美しい本学のキャンパスと花の咲き乱れる鹿児島の街並み、そして桜島も、皆さんを温かく迎え入れています。

 本日は、あいにくの雨模様ですが、ここ鹿児島におきましては雨が降ると「島津雨」と呼んで縁起が良いとされています。島津家初代当主・忠久の生まれた日に雨が降ったことに由来するとされ、祝い事の日に雨が降ればいっそうめでたいとのことで、吉兆の徴とされていますので、本日の雨も慶ばしいものと受け止めることといたします。

 今年度は、本学の9つの学部に1,942名の学部学生、また、9つの大学院研究科に606名の大学院生、総勢2,548名の新入生を迎えました。このうち79名の海外からの留学生を迎えています。現在、鹿児島大学は、9つの学部と9つの大学院研究科を擁し、約9,000名の学部学生と約1,500名の大学院生(うち留学生約300名)、併せて約1万数百名の学生が在籍しています。学生数から見ましても、九州においては国立大学として九州大学に次いで大きな南九州における最高学府として存在するのが鹿児島大学です。鹿児島大学が、現在の新制大学としての形を整えましたのは、戦後の昭和24年・1949年のことです。明治以降に設立された旧制第七高等学校造士館をはじめ各種の高等専門学校を統合して発足した新制国立鹿児島大学としての歴史の74年の間には、最先端の学術教育を受けた12万人に及ぶ人材を輩出し、地域、日本、ひいては国際社会の発展に大きな役割を果たしてきたのが鹿児島大学です。改めまして、新入生の皆さん、ようこそ鹿児島大学へ。
 
 さて、入学してほっとしている人も多いと思いますが、これから一生懸命に勉学に励むことも継続してもらわなければいけないと思います。と言いますのも、ご家族をはじめ周囲の方々から皆さんにかけられた期待の大きさを考えると、そういわざるをえないからです。皆さんには、「夢」という大きな野心をもち、これからの鹿児島、日本、そして、世界をひっぱっていくんだという大きな野心をもって頑張っていただきたいと思います。そのためにもしっかりと勉学を継続し、「知」を磨いてください。それだけの期待を皆さんは担っているのです。しかし、心身の調子を壊さないように、時には休み、助け合い、支えあって進んでください。さらに、夢を持ち日々を過ごしてください。「昨日何をしたかより、 明日、何をしたいのか」が有意義な人生につながるのです。希望や夢の持つ力は絶大なものなのです。未来に大きな夢を持っている人は、困難な状況に追い詰められても、気持ちは前向きになり、意欲や気力も充実します。

 この度の新型コロナウィルスのパンデミックは、私たち人類にとって大きな試練となりました。昨今のグローバル化の進展により、小さな地域での感染症の発生が、すぐにも地球規模の問題となって拡散する事態を招きました。全世界で多数の死者が発生し、経済活動への大きな打撃からの世界的な経済不安など、混迷は深まり、事態は社会・経済の仕組みそのものをも脅かすものとなりました。しかし、このような時なればこそ、人類の「知の力」を充分に活かすべき事態でした。大学とはその中心的な「知の拠点」であり、入学生の皆さんは私達と共に、その活動を支える仲間になったのです。これからは、受け身で教え授けられることのみに終始するのではなく、自らが積極的に「知」の活動に参加してください。本学の大学憲章では、「自主自律と進取の精神を培い、自ら困難に立ち向かい、地域社会や国際社会で活躍しうる人材を育成する」と謳っています。皆さんには、このような精神を持ち、「知の力」をもって地球レベルの困難に立ち向かう人材として育ってほしいと願います。本学医学部の源流である鹿児島医学校で教鞭をとった英国人医師ウィリアム・ウィリスは、薩摩政府への書簡の中で、次のように述べています。「医学という分野は誰でもほどほどに努力すれば習得できるという機械的な技術ではありません。正しく優れた医学の知識とは、長年にわたる困難で苦しい努力によって初めて習得することができるものなのです」。医学に限らず、皆さんが大学で学ぶ「知」というものは、すべからくウィリス医師が言ったように「長年にわたる困難で苦しい努力によって初めて習得することができる」ものでしょう。今日の情報通信技術の急速な発達は、インターネットを介した知識の集積や流通を通じて「知」の世界にも大きな革命をもたらしました。スマートホンやパソコンを使って瞬時に情報を得ることができるようになりました。しかし、真の知識とは、自らが経験し思考することによって生みだされるものです。薄っぺらな、あやふやな情報を鵜呑みにして、その洪水に飲み込まれてしまわず、自らの脳をとことん使い、じっくり考えて本当の「知」を掴んでください。

 先ほど触れました鹿児島医学校で教鞭をとった英国人医師ウィリアム・ウィリスの鹿児島医学校での一番弟子となった薩摩藩士・高木兼寛は、のちに海軍軍医総監となり海軍医療の中枢を担いますが、明治の海軍では、軍艦乗組員の脚気患者の蔓延が深刻な問題となっていました。これに対し、英国医学的な疫学的発想をもとに食物や栄養の欠乏に原因があることを見抜き、海軍将兵の脚気発生を駆逐したところから、後に、「ビタミンの父」と称されるようになりました。そのような優れた研究的貢献のみならず、貧しい人々に対する施療や医療人の育成に大きな功績を残しました。兼寛は次のような言葉を残しています。「病気を診ずして、病人を診よ」。 すなわち、医師は病気という側面だけではなく、病人の痛みを受け止めて全人的医療を行わなければならないとの意味であると思います。この名言は、医療者のみならず、あらゆる職業的場面において関係する相手への人間的配慮が大事であることにも通じると思います。皆さんには、本学在学中に、勉学のみならず、心も鍛えて相手に配慮ができる良き大人になっていただきたいと思います。人生を生きていくには、友人仲間の存在が身を助けます。本学はサークル活動が盛んな大学です。気心の知れた同僚、先輩、後輩の存在は、気楽に相談できる仲間となります。サークル活動を通じて、一生にわたって付き合いが続く仲間を作ってください。

 
 最後に、私からの鹿児島大学新入生への歓迎の言葉を添え、告辞とさせていただきます。

「皆さんは、未来に向けて無限の可能性を持っています。将来、鹿児島大学で学んだことに自信と誇りを持てるよう、鹿大生として充実した日々を送ることができるよう願っています。夢を持ち、実現に向けて努力を行い、鹿児島から世界に羽ばたいてください。」

 ご入学、誠におめでとうございます。

令和5年4月7日
鹿児島大学長 佐野 輝