トップページ大学紹介令和5年度卒業式・修了式 告辞(令和6年3月25日)

令和5年度卒業式・修了式 告辞(令和6年3月25日)

 はじめに、年初に発災しました能登半島地震では、多くのかけがえのない命が失われました。ご遺族の方々には、心からの哀悼の意を表します。また、この震災により被害にあわれた方々および被災地にご家族、ご親戚、ご友人・知人がおられる方々に心からお見舞い申し上げます。すでに、鹿児島大学からはDPAT(災害派遣精神医療チーム)、DICT(災害派遣感染制御支援チーム)、DMAT(災害派遣医療チーム)、JMAT(日本医師会災害医療チーム)、JRAT(日本災害リハビリテーション支援協会)、さらにはJDAT(災害歯科支援チーム)など多くの医療関係者の派遣による直接的な支援活動のほか、学内からの多大な義援金などを通じて支援を行っていますが、今後も鹿児島大学は、被災地の方々への支援と協力を惜しまないつもりでございます。

 さて、本日、ご来賓、名誉教授、列席の副学長、部局長を始めとする教職員一同とともに、学部を卒業される1,823名の皆さん、大学院研究科を修了される549名の皆さんにそれぞれ学士、修士、博士の学位を授与する運びとなりました。能登半島地震後まだ落ち着かない時期に卒業式・修了式を迎えることとなった皆さんは、手放しで喜ぶ気分にはなれない人もいるのではないかとは思いますが、それぞれの課程を無事修了され、学位を得られたことに敬意を表するとともにお慶びを申し上げます。また、皆さんをこれまで励まし支えてくださったご家族や関係の皆様方にも、お祝いと感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。鹿児島大学の75年の歩みの中で、皆さんを含めて本学の卒業生・修了生の累計は、12万3,837名となりました。皆さんの前には、12万人を超える先輩方が存在することになります。皆さんがこれから社会に出た際には、これら多くの先輩諸氏も温かく見守ってくれることと思います。

 さて、近年、私たち人類は様々な課題を抱えるに至っています。国際的には、世界を緊張に巻き込む軍事的紛争、国境を越えて瞬く間に全世界に広がる感染症の脅威、貧富格差の拡大、地球温暖化に伴う環境問題、地震や火山の噴火・大雨洪水など多様な自然災害が多発しています。また、国内に目を転じましても、極端な少子高齢化社会の到来、さらに自然災害の頻発とその復興など、解決すべき課題が山積しています。皆さんは、これら諸問題に対峙すべく、鹿児島大学で修得した知識や技術に加え、課題解決力、企画力、コミュニケーション力、リーダーシップならびに「進取の精神」を遺憾なく発揮し、そして修学中にも互いに切磋琢磨した仲間と共に、これからの地域や日本そして国際社会の発展に力強く貢献していただきたいと思います。

 話は変わりまして、今年7月に発行される新千円札に描かれることになったのは「細菌学の父」と呼ばれる北里柴三郎です。彼は、1891年にドイツ・ベルリンで当時、細菌学の第一人者であったロベルト・コッホのもとで研究生活を送っていました。そこへ大学の後輩である荒木寅三郎が訪ねてきて、異国の地での研究生活に疲れ果て、行き詰まりを感じている旨相談を持ちかけた際に答えた言葉がのちに広く伝わっています。
「人に熱と誠があれば何事も達成する。世の中は決して行き詰まらぬ。もし行き詰まったとしたら、それは人に熱意と誠意がないからだ」
厳しい言葉のようですが、彼自身が誰よりも長時間、熱心に働き、実験器具に創意工夫を凝らし、ヨーロッパでは勤勉さを誇るドイツ人に倍する働きをみせ、コッホから与えられた課題に対して、着実に成果を挙げ、頭角を現し、ついには破傷風菌の純粋培養に成功し、また破傷風の血清療法を打ち立てるという世界的な成果をあげた人物でした。そんな彼だからこそ言える言葉であったと思います。荒木寅三郎もその言葉に発奮し、研究成果を上げてのちには日本における生化学の先駆者として指導者の道を歩み、京都帝国大学の総長にまで上りつめました。皆さんも「熱意と誠意」を持ってこれからの人生を生きていってほしいと思います。

 北里の残した言葉は、鹿児島大学卒業生としての大先輩である稲盛和夫氏が残された言葉と相通じるところがあると感じます。稲盛氏の立像が本学学習交流プラザ「進取の気風広場」に建立されていますが、その台座に記されていますように、鹿児島大学の学生諸君へということで、次のような言葉を贈られています。

 どんな境遇に遭遇しようとも
 どれほど厳しい環境に置かれようとも
 挫けることなく
 常に明るい希望を持ち
 地道な努力を一歩一歩たゆまず続けていくならば
 自分が思い描いた夢は
 必ず実現する。

「進取の精神」を具現化された稲盛名誉博士のこの言葉を、折に触れて、思い出してください。

 さて、私は、昨年末、衆議院会館において国会議員の方々を前に、鹿児島大学の取組みを例に挙げて、地方国立大学における地域人材育成等について説明する機会を持たせていただきました。その際、鹿児島大学の存立理由の説明では、「鹿児島大学が単に世界に通用する一般的な学問や研究をする大学ならば鹿児島にある必要はなく、総合移転をして東京都千代田区霞ヶ関大学というのがあってもおかしくないでしょう。鹿児島にある理由はやはり鹿児島の全ての問題に責任を負うという使命を背負っているからです。」との本学第7代学長・井形昭弘先生の明快な言葉を最初に掲げさせていただきました。現在、鹿児島大学では「グローカル」という井形先生が造られた言葉を取り入れた「南九州から世界に羽ばたくグローカル教育研究拠点・鹿児島大学」をスローガンとして、地域をそして世界を愛し育む方針を持って運営してまいりました。この度、卒業・修了を迎えた皆さんの心の中にはきっとこのような気風が育ったものと確信しています。鹿児島の地でそして鹿児島大学で学んだ自信と誇りを持って、未来に向かって羽ばたいてほしいと願っています。そしてまた、時に疲れた際には、翼を休めに本学を訪問してください。恩師や仲間たちが優しく包んでくれると思います。

 
 最後に、今後も絶えず自らを省みて、こころを磨き、人の痛みや社会の問題を敏感に感じ取れるよう、そして果敢に社会に挑んで行く「進取の精神」を持ち活躍されることを願い、学位を授与された皆さんへの私からの餞(はなむけ)の言葉といたします。

 本日は誠におめでとうございました。


令和6年3月25日     
鹿児島大学長 佐野 輝