トップページ大学紹介令和6年度卒業式・修了式 告辞(令和7年3月25日)

令和6年度卒業式・修了式 告辞(令和7年3月25日)

 皆さん、ご卒業・修了・学位取得、おめでとうございます。本日ご臨席を賜りましたご来賓、副学長、部局長をはじめとする教職員一同とともに、学部を卒業される1,842 名の皆さん、大学院研究科を修了される571名の皆さんに心からお祝いを申し上げます。

 さて、卒業生、修了生の皆さんは、修学中の何年間かを新型コロナウイルス感染症のパンデミックのもとで過ごされ、オンライン講義や感染対策をとりながらの実習などの講義実習の形態に戸惑うことも多かったと思います。さらには、勉学以外にもキャンパスでの友人作り、課外活動やアルバイトなどにおいても、これまでの卒業生にはない多大な苦労があったと思います。当初、皆さんが思い描いていた学園生活とは異なったものであったかと思いますが、それらを乗り越え、本日の卒業を迎えられたことを心からうれしく、また誇らしく思います。人間生きていく上で生活の全てに無駄なものは何一つない、といわれます。皆さんが経験されたことは、皆さんの人生において決して無駄にはならないはずだと、固く信じています。そのような中、それぞれの課程を無事に修了され、学位を得られたことに敬意を表するとともに心からの慶びを伝えたいと思います。また、皆さんをこれまで励まし支えてくださったご家族や関係の皆様方にも、お祝いと感謝の気持ちをお伝えしたいと思います。新制鹿児島大学の3四半世紀の歩みの中で、皆さんを含めて本学の卒業生・修了生の累計は、12万6,250名となりました。皆さんの前には、12万人を超える先輩方が存在することになります。皆さんがこれから社会に出た際には、これら多くの先輩諸氏も今後皆さんを温かく見守ってくれることと思います。

 米国の大学では、学位授与式・卒業式・修了式のことを「Commencement」と言います。「Commencement」という言葉は本来、「始まり」・「開始」を意味します。卒業を人生の新しい始まりと考える米国らしい言葉の使い方と言えるでしょう。新しい人生の始まりを迎えた皆さんには、ここで立ち止まって考えていただきたい、人類が抱える問題がたくさん存在します。国際的には、世界を緊張に巻き込む軍事的紛争、国境を越え瞬く間に全世界に広がる感染症の脅威、地球温暖化に伴う環境問題、地震や火山の噴火・大雨洪水など多様な自然災害が多発しています。そして、国際関係における経済的摩擦や国際紛争に派生した国際不穏は、日本をも巻き込んで世界の大問題となっています。国内に目を転じましても、極端な少子高齢化社会の到来、頻発する自然災害とその復旧復興など、喫緊の課題が山積しています。皆さんは、これら諸問題に対峙すべく、鹿児島大学で修得した知識や技術に加え、課題解決力、企画力、コミュニケーション力、リーダーシップならびに「進取の精神」を遺憾なく発揮し、そして修学中に互いに切磋琢磨した仲間と共に、これからの地域や日本そして国際社会の発展に力強く貢献していただきたいと思います。

 さて、先に述べたように、世情が種々変化の大きい中でも、昨今のAI(人工知能)の出現と進展は、我々人類にとっても大きな転換点となるトピックといえるでしょう。ChatGPTをはじめとする最近の生成AIは、対話形式で問いに対して迅速に回答を示してくれます。しかし、生成AIは、人間の頭脳を構成する神経細胞ネットワークの仕組みを再現した機械学習の手法の一つであるディープラーニングの手法で文章をパターン化し、確率高く頻出する単語を並べて文章化していきます。すなわち、その回答は、確率的に推定された「もっともらしい」単語の並びが回答として提示されるだけです。

 現代のネット社会においては、ブラウザ検索やSNS等、さまざまなところにもAIが組み入れられ、ネットユーザーである我々は、知らず知らずのうちにAIに多いにお世話になっていることを考えると、AIはすでに社会にとってなくてはならない存在と化しています。しかし、少し立ち止まって考えますと、ネットを広げると、ネットニュースやショッピングなどの使用者が興味を示しそうな情報に順位をつけて優先的に提示し、ややもすれば非常に閉鎖的なリングの中の情報統制が形成されます。このようなAIの負の影響として生じた陰謀論やフェイク情報があったとしても、人々はそれらをあたかも確かな情報として信じて疑わない状況に陥ってしまうでしょう。そして、AIが作成したフェイク画像が現実の選挙戦の結果を左右し、世界情勢にすら大きな影響を与える世の中になっています。しかし、先にも述べましたが、AIは私たちの毎日の生活や皆さんがこれから足を踏み出すビジネス社会そして学術研究の世界にまでなくてはならない存在となっている状況を考えると、今後、私たちは、AIとうまく共存する方向性を真剣に考え、それを実行していかねばなりません。まさに、これから社会に出ていく皆さんには、このような姿勢が求められるのではないかと思うわけです。是非皆さんには、ネット社会におけるAIの功罪をよく理解した上で、AIをも使いこなし、さらにはAIの構成するものにはない人間らしさを追求して良き社会を作っていってほしいと思います。

 最後に、此の度の鹿児島大学卒業生・修了生には、今後も絶えず自らを省みて、AIにも負けない人としての心を磨き、人の痛みや社会の問題を敏感に感じ取り、果敢に社会の変革に挑んで行く「進取の精神」を持って大いに活躍されることを願い、皆さんへの私からの餞(はなむけ)の言葉とさせていただきます。

 本日は誠におめでとうございました。

令和7年3月25日
国立大学法人 鹿児島大学長 佐野輝