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創立70周年記念式典式辞(令和元年12月12日)

 本日ここに、多くのご来賓、関係の皆様のご臨席を仰ぎ、鹿児島大学創立70周年記念式典を執り行うことができますことは、教職員、学生、同窓生の大きな喜びであります。

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 ご多忙中にもかかわらず、ご臨席賜りました鹿児島県知事 三反園 訓(みたぞの さとし)様、文部科学省高等教育局国立大学法人支援課長 淵上 孝(ふちがみ たかし)様をはじめ、ご来賓の方々、全ての皆様に心より御礼申し上げます。
 
 さて、鹿児島大学の起源は、1773年に設立された「旧薩摩藩・藩学造士館」にさかのぼりますが、1949年(昭和24年)に、第七高等学校、鹿児島師範学校、鹿児島青年師範学校、鹿児島農林専門学校、鹿児島水産専門学校を母体として、文理学部、農学部、教育学部、水産学部の4学部で構成する新制鹿児島大学が創設されました。敗戦直後の混乱期の中にあって、県民各界が総力を結集し、母体となった5つの学校の校長の皆様や文部省当局のご協力を得て創立されました。本日ここに、当時の関係各位のご努力に対し、心からの敬意と感謝を捧げたいと存じます。
 
 その後、昭和30年7月には国立大学設置法の一部改正により、鹿児島県立大学医学部及び工学部の国立移管が決まり、本学は6学部を擁することになりました。昭和40年には文理学部の改組により、法文学部、理学部及び教養部が発足し、昭和52年には歯学部が設置され、さらに、平成24年には山口大学との共同教育課程による共同獣医学部が設置されました。一方、平成3年7月には、「大学設置基準の一部を改正する省令」が公布され、本学におきましても4年間にわたる全学的討議の後、教養部廃止転換と各学部の改組充実が行われました。この間、大学院研究科も順次整備されました。
 
 現在、法文学部、教育学部、理学部、医学部、歯学部、工学部、農学部、水産学部、共同獣医学部の9学部と9大学院研究科ならびに3機構及び学内共同教育研究施設などをもつ総合大学に成長いたしました。現在の学生数は、学部学生約9,000名、大学院生約1,600名を数えるほどになりました。また、35カ国・地域から353名の留学生を受け入れています。創立以来、70年間の卒業生は、学部学生98,723名、大学院生15,766名、合計114,489名を数えます。卒業生の皆さんは、世界中の至る所で、また様々な分野で活躍を続けられておられます。ここ鹿児島におきましても、文化・産業・社会・教育等ありとあらゆる分野で指導的役割を果たし、地域発展に大きく貢献しておられます。
 
 さて、今年、平成の時代が終わり、新たに令和の時代となりました。平成の時代は、インターネットの普及とグローバル化の加速、冷戦後の民族・宗教対立や地域紛争、格差の拡大、地球温暖化による異常気象の頻発など地球レベルでの様々な課題に遭遇してきました。令和の時代においてもこれらはさらに加速されると考えられます。こうした社会情勢の中、本学は平成19年に「鹿児島大学憲章」を制定し、「自主自律と進取の精神を尊重し、地域とともに社会の発展に貢献する総合大学をめざす。」と進むべき方向性を示しました。
 
 四半世紀前に学長を務められた井形昭弘先生は、平成5年のご退職を機にまとめられたご著書に、今日の本学の目指す方向性を示されています。著書の題名は「地域と大学 ―限りなくローカルな問題を限りなくインターナショナルな舞台へー」であり、そこには「地域と大学は運命共同体」との思いから、「東大や京大と同じことをやっては格差がつく。地域の特性を生かし、鹿児島のことに関してはどこにも負けない分野を持った魅力ある大学でなければならない。」と、鹿児島大学が目指すべき方向性を明快な考え方で示しておられます。そのためには、鹿児島に愛着を持った教授陣を集めることや産学協同の勧めを説かれ、市民さらには障がい者に対しても開かれた生涯教育をはじめとした大学の構想へと広げられています。日本人の教官や学生にも国際人としての素養が必要とされる「大学の内なる国際化」を進め、国際的発信を行う真のグローカル化を進めるべきであると述べられています。また、鹿児島の地が生んだ初代文部大臣・森有礼(ありのり)に思いを馳せ、「文教政策の軽視は日本の将来の命運に関わる」と明治政府の教育へのきわめて積極的な取り組みと森有礼の先見性に注目されています。これらの井形先生の思いは、四半世紀を経て、私が学長としての所信に掲げております「南九州から世界に羽ばたくグローカル教育研究拠点・鹿児島大学」のまさに鑑(かがみ)とすべき内容です。
 
 本学の位置する鹿児島は、アジアと世界の諸地域に開かれた南の玄関口として、海外との交流を通じ異文化の導入を率先して行い、豊かな文化や学術を育み、我が国の変革と近代化を推進した数多くの人材を輩出してきた地でもあります。
 また、日本初の認定を受けた世界自然遺産「屋久島」や世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」を有し、さらには世界自然遺産を目指す奄美群島を含む南九州から南西諸島など南北600キロに及ぶ県土を有する地に位置しています。このような伝統と地理的特性を踏まえ、鹿児島大学ならではの取組を推進し、地域社会、国際社会に貢献していきたいと考えております。
 
 先ほど述べましたグローカル人材の養成に向けては、1865年の幕末時代の薩摩藩の精神を継承し、「進取の気風」を備えた人材を輩出するため、今年度から、『鹿児島大学21世紀版薩摩藩英国留学生派遣事業「UCL稲盛留学生」』を設立し、英国の名門校ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)に大学院の学生を派遣する事業を創設しました。また、平成28年度に「鹿大「進取の精神」支援基金」を設立し、鹿児島県内の企業・団体及び同窓会等から多大な支援を頂き、多くの学生を海外に派遣しております。この4年間で、長期短期を含め約350名を超える学生が、この基金からの支援により、海外を経験することができました。
 ご支援を頂きました皆様に対しまして、この場をお借りして、あらためて感謝申し上げます。
 
 また、本学は第3期中期目標期間の基本的な目標として、南九州・南西諸島域の『地域活性化の中核的拠点』としての機能を強化するとしております。昨年度、学内組織の大幅な再編を行い、新たに「南九州・南西諸島域共創機構」を創設しました。この機構の中に設置した「産学・地域共創センター」を中心に、地域産業や自治体等が抱える課題の解決、地域イノベーションの創出、その活動成果の教育への還元等の取組を積極的に進めているところです。また、奄美群島に対しては、国際島嶼教育研究センター奄美分室の移転・充実を図り、研究成果を地域へ還元するとともに、鹿児島環境学プロジェクトを通じ、世界自然遺産登録に向けた取組を奄美の方々とともに取り組んでいます。
 
 研究面では、今年4月に、本学の難治ウイルス病態制御研究センターと熊本大学エイズ学研究センターを統合し、熊本大学と連携した「ヒトレトロウイルス学共同研究センター」を設置しました。この新しい研究センターは鹿児島大学と熊本大学の資源や強みを持ち寄ることで、異分野のウイルス研究領域を再編成し、ウイルスの増殖抑制から排除へ転換する新しい研究領域を創設することを目指す先進的な取組として、大変注目されております。鹿児島大学には様々な研究シーズがまだまだ埋もれています。これらにも光を当てていきたいと考えています。
 
 本日は、70周年という1つの区切りですが、「南九州から世界に羽ばたくグローカル教育研究拠点・鹿児島大学」の実現に向け、新たな一歩へ力強く歩みを進める決意でございます。
 最後に、本日ご臨席の皆様方、同窓生の皆様、ここ稲盛会館を寄贈された稲盛和夫鹿児島大学名誉博士をはじめ本学を支えて下さったすべての皆様に改めて感謝申し上げますとともに、これからも更なるご指導、ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げ、私の式辞とさせて頂きます。
 
 本日は誠に有り難うございました。
 
令和元年12月12日
鹿児島大学長 佐野 輝