トップページ大学紹介タツノオトシゴが属する「ヨウジウオ科」の2種を日本で初確認。コロナ禍でも研究に励む大学院生にインタビュー!(学生インタビュー)

タツノオトシゴが属する「ヨウジウオ科」の2種を日本で初確認。コロナ禍でも研究に励む大学院生にインタビュー!(学生インタビュー)

 コロナ禍において勉学やサークル活動、学内外での活動に励む学生の姿をお届けする学生インタビュー。
 今回は、大学院農林水産学研究科2年の荒木 萌里(あらき・もえり)さんです。
 荒木さんは、本学の水産学部を卒業後、大学院農林水産学研究科に進み、魚類分類学研究室へ。卒論のテーマは「オクヨウジ属の分類について」で、院生となった現在も引き続き同テーマに取り組んでいます。

 2020年8月、荒木さんがまとめた2つの論文が相次いで学術誌に掲載されました。今回初めて英文学術論文にも挑戦したという荒木さんに、インタビューしました。
 
 
荒木 萌里さん
大学院農林水産学研究科2年(修士課程)

別の種として保管していた標本が、実は日本初記録!
荒木さんが見つけて名付けた「タマヨリタツ」と、地元のダイバーが名付けた「シューヤジリチンヨウジウオ」

論文の概要について教えてください。

荒木さん これまで海外では確認されていたものの、日本では確認されていなかった2種の魚類を国内で初記録したことに関する論文です。どちらも「タツノオトシゴ」が属する「ヨウジウオ科」の魚類です。
 1つは、種子島沖で採集された「タマヨリタツ」。赤米伝説の「玉依(たまより)姫」から私が名付けました。5年前に採集された標本が総合研究博物館に保管されていたのですが、当初「イバラタツ」と同定されていたんですね。でもよく見ると、イバラタツとはちょっと違うなと。そこから詳しく調べて、日本初記録だと突き止めました。
 それまではある種だと思われていたものが、実は違う種、というのはよくあることなんです(※1)。
体長20センチほどの「タマヨリタツ」

 
▼「タマヨリタツ」の標本

論文は日本動物分類学会の和文誌タクサに8月末掲載された。

 
  • ※1:2020年9月、かごしま水族館(鹿児島市)で20年以上「トンガリサカタザメ」として展示してきたエイが実は新種だったことが判明。黒潮生物研究所(高知県)と総合研究博物館、同水族館が共同研究を進めた結果、新種であることが分かり、「モノノケトンガリサカタザメ」と命名された。

▼約15万種を保管する本学の標本保管室(2019/7/25撮影)
もしかすると日本初記録のものがまだまだあるかもしれない

荒木さん もう一つは、沖永良部島で発見された「シューヤジリチンヨウジウオ」に関する論文です。
 「シュー」は沖永良部の方言で「白い」の意味。頭に鏃(やじり)のようなV字の模様があって、それが白いので、”白い鏃”のチンヨウジウオ、「シューヤジリチンヨウジウオ」です。採集した沖永良部のダイバーさんが名付けました。
 総合研究博物館長の本村 浩之先生から、初記録だから論文を書いてみないかと言われ、執筆しました。初めて英語の論文に挑戦しました。
▼口先が短いシューヤジリチンヨウジウオ
論文は日本動物分類学会の英文誌 Species Diversity 電子版に掲載された。
 
▼シューヤジリチンヨウジウオの標本。現在は色が抜けてしまっている
 
▼標本2種を手に
 
 

英語の論文なんてすごいですね!英語が得意なんですね。

荒木さん いえ、元々そんなに得意ではないです。なので、他の論文で英語の表現を学んだり、辞書を見ながら書いたりと結構大変でした。
 でもチンヨウジウオ属の魚類は海外でもそこまでたくさん記録があるわけではないので、海外の方にもぜひ読んでもらいたいと思って書きました。
 

反響はありましたか?

荒木さん タマヨリタツの名前が良いと言ってもらえているというのは聞きました。
 総合研究博物館のTwitterでも紹介してもらって、反響をいただいたみたいです。
 
荒木さんの発見が紹介された総合研究博物館のTwitter
2020/10/23現在、275件の「いいね」と51件のリツイートが。(画像はスクリーンショットしたもの)
>>総合研究博物館のアカウントで見る
 

嬉しい反面、恥ずかしさも。論文の執筆を終えて

論文が掲載されたときの気持ちはいかがでしたか。

荒木さん 論文を投稿しても、査読の結果次第で掲載されないということもあるので、自分の研究が論文という形になり、多くの人に読んでもらえるのは嬉しい反面恥ずかしさもあります。英語の方は、専門家の方にチェックしてもらってはいますが、ちゃんと書けているのかどうかやっぱり不安もあります。
「嬉しい反面、恥ずかしい」と話す荒木さん
 
 

自分の研究が社会にどんな影響をもたらせたら良いと思いますか?

荒木さん タツノオトシゴは藻場(※2)の減少など生息環境の悪化や、乱獲が原因で生息数が減っています。そのような現状についても知ってもらえたらと思います。
 また、ヨウジウオはタツノオトシゴほど知名度が高くないので、新聞等で報道されることで、多くの方に伝えられたら嬉しいです。
  • ※2:藻場(もば):魚類の産卵場所や生息場所となる、海底に自生する海藻や海草(アマモ等)の大群落。

自宅で顕微鏡を覗く日々。コロナ禍での研究生活とは?

2020年4月以降、外出自粛を余儀なくされ、大学にもあまり来られなかったと思います。
どのように勉強や研究を続けていたのでしょうか。

荒木さん 今は2年生なので、前期の講義は1つだけ。4~6月はオンライン授業でした。7月初めから対面授業が再開になりましたね。
 研究に関しては、標本や顕微鏡を持ち帰っても良いということになったので、深刻に影響を受けたというわけではありません。少し遅れてしまったというくらい。高齢の祖母と同居しているので、万一のことがないように、私も人との接触は避けて、自宅で標本の観察をしたりしていました。
 大学は閉鎖されていませんでしたので、週に一度だけ来て、研究室のメンバーと標本作成等を行っていました。密にならないよう分散して活動するのはもちろん、手指消毒やマスクは必須でした。今はコロナ対策をしながらも、学外での採集活動を行ったりしています。

▼研究室の様子を見せていただいた。この日は喜界島で採集したという魚類の標本を作成。

 

魚類分類学研究室に進んだ理由は?

荒木さん 分類自体に興味があったわけではなくて、単純に魚が好きだったんです。小さいときから海で採集した魚を飼育して育てていました。なので魚に関わる研究ができたら良いなと思って。生き物全般が好きで、虫も平気。
 今飼っているのは猫、オカメインコ、亀、トカゲとか…ステイホーム期間中はもっぱら研究とペットの世話をしてました。今、研究室でも魚を飼育しています。

▼研究室で飼育している魚

「これは研究とは関係なくて、趣味ですね」と笑う荒木さん。魚は「サツキハゼ」。図鑑を示しながら説明してくれました
 

そんなに生き物が好きなら、共同獣医学部という選択肢もあったのでは?

荒木さん いえ、生き物の血を見るのが苦手で…

え~!意外ですね!生き物や虫は平気でも、血は苦手なんですね。

荒木さん 魚の血は平気なんですが(笑)。とにかくやっぱり魚が好きだったので、水産学部を選びました。

現在修士2年生ですね。大学院を修了後の進路は。

荒木さん 就職をしようと思っていますが、仕事とは別に、研究もまた再開したいなという気持ちもあります。
▼とにかく魚が好きだと話す荒木さん。変わった形の生き物が好きなのだそう
20201027_gakuseikatsuyaku_interview_pic11.jpg
 

後輩の皆さんに一言お願いします。

荒木さん 県外から来ている皆さんは、このような状況の中での、見知らぬ場所での生活は大変だと思いますが、後期になってスクーリングも始まっているので、これから少しずつ大学生活を楽しんでほしいと思います。もちろんコロナウイルス対策もしっかりして、気をつけてほしいなと思います。
最後に、自由にメッセージを書いていただきました。
荒木さん、どうもありがとうございました!
 
 
 
 
【インタビュー:2020年10月7日/掲載日:2020年10月27日】
 
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