「おいしい!」だけじゃない、体に良い食べ物がいっぱい
私達の体は自分が食べた物や飲んだ物からできています。どうせ食べるなら「おいしい」ものの方がいい。自分が好きな味や香りの食べ物は「おいしい食べ物」としてインプットされ、私達の食欲を刺激してくれます。逆に、味や香り、食感が苦手な食べ物もあるかもしれません。世の中にはたくさんの食べ物がありますので、それを食べられないからといって落ち込むことはありませんが、いろいろな種類の食べ物を摂取できると、私達の体もたくさんの栄養素を吸収することができます。この「栄養素」には、大きく分けると、体を作る素になるもの(タンパク質等)、体の調子を整える素になるもの(ビタミン、ミネラル等)、エネルギーの素になるもの(糖質、脂質等)があります。
私達の研究室では、農産物に含まれる栄養素の量が栽培方法によってどのように変化するかを調べたり、健康増進に役立つ未知の成分を探したりすることで、食品成分と体の関係を科学的に証明し、食品を病気の予防のために役立てようと考えています。これまでに、鹿児島県の特産物である桜島大根や柑橘類、里芋などの秘めたチカラを見つけ出してきました。県内外の企業さんにも協力していただいて、食品の機能性(※1)を保持したままの加工食品を作ってもらい、販売もしています。
食べ物の可能性。目指せ!健康寿命の延伸
私達の研究室では主に循環器疾患の予防に力を入れています。循環器疾患とは、血液の通り道である血管や、血液を循環させている心臓などが正常に働かなくなる病気のことです。私達の体を作っている膨大な数の細胞を養うには、全身の至る所に張り巡らされている血管を通って、血液に含まれる酸素と栄養素を届けなければなりません。血液の流れが悪くなり、血液を充分に循環させられなくなると循環器疾患を引き起こしてしまうので、私達は柔らかいゴムホースのようにしなやかに伸び縮みすることができる血管を維持するにはどういうことが必要か、ということを考えて、遺伝子レベル、分子レベル、細胞レベル、組織レベル、個体レベルの各段階で研究をしています。
動物は、夏の強い紫外線を浴びた時に発生する活性酸素から身を守るために移動したり、害虫に曝された時には払い除けたりすることができます。一方、動けない植物は、独自の植物栄養素(ファイトケミカル)を作り出し、過酷で流動的な環境変化の中で成長を遂げるため、動物には無い、様々な自己防衛機能を持っています。このファイトケミカルの正体は、植物の色素、香り、灰汁、辛味、苦味などです。植物の種子が、雨風に曝され、野晒しになっても、腐敗を抑えるために抗酸化成分(※2)を貯蔵したり、動物に食べられないように忌避物質(※3)を作ったりすることで、身を守っているのです。このファイトケミカルが、たまたまヒトに対して有効な作用を示したことで、健康の維持に役立つものとして注目されています。私達は、このような植物が持つ力を探し当て、「血管を守る」という視点でヒトの生活に応用し、健康寿命(※4)を延ばすことを目指しています。
用語解説
(※1)食品の機能性 健康の維持や増進などに役立つ健康効果を「機能性」と言います。
(※2)抗酸化成分 老化や病気の引き金になる「酸化」を抑えることができる物質のことです。
(※3)忌避物質 そばに寄せ付けないようにする物質のことです。
(※4)健康寿命 健康な状態で日常生活を送れる期間のこと。いくら平均寿命が長くなっても寝たきりの生活では悲しい。健康で実りある老後を送っていただきたい。